37.市井での再会
読んでくださっている方、ありがとうございます。
今回はエリュシオネー視点です。
件のていーぱーてぃーから暫く経った今、あの部屋で過ごした者たちと私たちは少なからず友人という関係になっているのだと思う。
下級生のジェニファー、ノーラ、エミリー達は中級生のジゼルを師範としてウータやウーテとともに「バレエ」なる踊りを一緒に習っているらしい。私たちが使わない場合、あの「左側」の普通の3室繋げた部屋を時々貸している。
ヘラ、ダリアにフリーダはイルカのディリーとフィンに乗ったり、逆に陸の馬という動物に乗ってみたり、剣術を一緒に練習したりしているらしい。フリーダはああ見えて、海の中でもなかなかの槍さばきのセンスを見せていたから、武術や武具を扱う才能に長けているのだろう。今後が楽しみだな。
テアはパトリシアやパメラ以外にも、徐々に上級の塔の生徒たちと仲良くなり始めているようだ。下級や中級など、まだ幼い人間の子供たちは比較的先入観なく純粋に我らに近づく多いが、上級にもなってくるとそういった者は少ない。それでも、我らに好意的なものと着実に親しくなっているテアの魅力は何と言っても着飾ることや流行りものに敏感で自らも取り入れたり生み出したりしているからだろう。先日の真珠のアクセサリーも彼女が考案したものだった。おかげで、上級の塔だけでなく女子生徒の間では上物の真珠のアクセサリーを身に着けることがもっぱら流行りとなっている。もっとも、川から捕っている真珠が大半であり、我らが送った南洋の質の良い真珠に比べれば輝きも違うのだが。
皆、それぞれの興味分野や友人を持っているようだ。相手が人間と言うことで不安がかなり強かったが、現状何も問題がない以上、これで良いのだと思っている。
かくいう私は今、両腕を掴まれて市井の場に連れ出されている。ただでさえ我ら人魚の容姿は人間とは異なるため目立つのに、こんな状態で団体で歩いているから言うまでもなく往来の視線の的となってしまっている。
「さぁさ!エリュシオネー様!今日はたっぷり買い物…ゴホン!陸の世界を楽しみましょ!」
「うわぁ!お姉様!私一度自由に出て冒険してみたかったんですの!一緒に見て回りましょう!」
「パメラ様!あの最近話題になっていたパティスリーに寄ってみるのはいかが?私あのベリータルトを一回食べてみたくて…!」
「まぁソフィア様!私たち行きぴったりね!是非行きましょうよ!」
「ちょっとパメラさん、ソフィアさん!エリュシオネー様が困ってますわよ!そんなにくっ付いていたら歩きづらいのではなくって?」
「んもうパトリシア様、羨ましいならそうおっしゃってくだされば代わりますのに…」
「んな!ち、違いますわ!私は淑女としての振舞いを言っていただけですわ!」
「…」
押し寄せる波のように良く喋る彼女たちに圧倒されて私はなされるがままについて行っている。ちなみに右腕にはパメラ、左腕にはソフィア、周りをぐるぐるせわしなく回っているのがララである。
きっかけはもちろん、あの日なのだが、帰り際に真珠のブローチを送ったらパメラに「今度は陸の世界の楽しいところに連れていってあげるわ!」と言われて、あれよあれよという間に学園外に外出することが決まったのだ。
本来人質の身で置かれている私たちが外出を許されたのはダンカンと以外にもスパイト学園長が特別措置として護衛を付けること、お目付け役を付けることを条件に国王に直々に頼みに行ったおかげだという。ダンカンはいつも良くしてくれているから分かるが、最近はスパイトも鼻を鳴らしはするが無駄に突っかかってくることは少なかった。(部屋を海にしてしまったことだけはカンカンに怒っていたが)彼の中でも考えが変わったのだろうか?
それで、お目付け役と言うのがパトリシアと言う訳だった。フォーサイス家侯爵令嬢と言う家柄と、貴族然としたエルメンタ王国にとっての理想の淑女に近い女性として注目されている彼女だからこそ、王も許したそうだ。
…もっとも、私は偶然ダンカンに「そんな楽しそうな計画、私抜きでやるなんてありえませんわ!」と食ってかかっている彼女を見たから魂胆は何となく察している。
つまるところ皆学園の外で羽を伸ばしたいのだ。全員行くことは流石にダメだということで、今日は先ほど言った4人とアメリアとで出かけている。(ちなみに人選は早い者勝ちとパトリシアのごり押しだ)外出で羽を伸ばす目的故か、いつもは何枚も重ねた足先まであるスカートをはいているのに、今日は皆身軽な装いだった。私とララも薄織で品の良い、丈の短めなドレスを身に着けている。
ララ以外の妹たちと他の子どもたちは今頃それぞれの放課後を楽しんでいることだろう。妹たちは皆残念がっていたが、今度姉妹で行くことを約束して何とか許してもらえた。
外の日差しは海の中から見るそれよりもはるかに眩しく、痛いくらいに明るい。初めて陸に上がった頃よりも明らかに強い光を感じる。基本的に部屋の中、塔の中での生活が多かったために市井まで歩くこの時間でそのことに改めて気づいた。昔、陸で遊んでいた時にはそんなこと気にもしなかったが、長い間海の底に居たせいだろうか、なかなかこの眩しさは体調に影響しそうなくらいであった。
日の光をじりじりと感じているとアメリアが音もたてずに近づきスッと、棒状の何かを渡してきた。手に持つ部分は固く、中間から先にかけては布で覆われており、先は細長く、下手したら突いてさせそうである。これは陸の護身用の銛だろうか?
「いえ、姫様、それは「傘」にございます。人間の乙女が持つ日傘を遮ることも、武器にすることもできるという優れものだそうです。眩しかったらご使用ください。」
「あぁ、ありがとう。ちょうどこのようなものを探していた。」
「あ、アメリアさん…流石に傘は武器にはできないですわよ。」
「物騒な事おっしゃらないでくださいな。真の淑女は暴れたりしませんのよ?」
アメリア、武器にはできないようだぞ?…その割にはこの「傘」とやらの芯が凄くしっかりしているし先っちょは何か仕掛けがありそうな構造をしているが…もしやアメリア、そなたまた改造したか?どのように使うのだ?
「ここをこう押して…そうです、それが開いた状態です。閉じるときは逆に引っ張って、そうです、その部分を押しながら…ちなみに隠し武器はここを押せば出せます。」
やはり武器に改造しているではないか?!アメリアは何でも戦闘に対応できるよう改造できる癖があるからな…これに何度も救われてきた過去があるから多めに見るとしよう。
「エリュシオネー様の侍女?護衛さん?って変わってるのねー。」
「お姉様や私たちを守るとっても強い人魚なのですわ!20人飛び掛かってきても一瞬で倒しちゃうくらいに!」
ララがアメリアがどれくらい強いのか熱を持って説明しながら歩いていたら、景色がだんだんと変わってきた。洗練されたまっすぐな道から、やや粗い石畳の道に変わり、小さな屋根付きの台に様々な物を乗せているものが沢山並んでいる賑やかな場所に出てきた。…こんなに人間が集まる場所があるのか。目を向けるところ全てに屋根付きの台があり、視線を向ける度にその台の持ち主であろう人間たちが次々と手招きをしたり、「うまいよ~!嬢ちゃんたちどう?」と声をかけてくる。
あちらこちらから声をかけられ、私とララは右往左往しだしているとき、一人深呼吸しながらここの雰囲気を堪能している者がいる。
「これこれ~!ここですわよエリュシオネー様、ララ様!ここは一番大きな市場とカフェ、レストラン、ブティック、全てが集結する年頃の女性なら皆ここで遊びたい城下街!メッシー・マーケット・プレイスですわ!なんでメッシーと言うのかが面白いんですけど、なんでも「ごちゃごちゃ」集まっているからなんですわよ!ここには平民はもちろん、貴族の息抜き場にもなっているのですわよ!」
パトリシアが駆けだしながら私とララに向かって熱弁してきた。とても普段の学園の様子から考えられないはしゃぎっぷりに私はおろかララも他の皆も驚いているようだ。パメラだけは別だが。
「まぁまぁ、よ~っぽどここに息抜きに来たかったんですのね!パトリシア様ったら、普段は侯爵令嬢として淑女たるものはと皆さんにお説教をするくらいには厳しい印象を持たれているのですけど、実はここでのんびりウィンドウショッピングしたりカフェで好きなだけ甘いものを食べるのが大好きなんですよ。ここに来たら、普通の女の子と何ら変わりませんわ。皆さまも解き放たれましょうよ!」
パメラがパトリシアを追いかけるようにスキップで通りを抜けていく。横の屋根付きの台の主人が
「なんだ嬢ちゃんたちここは初めてかい?!さっきのお嬢ちゃんが言ってた通り、ここは何でもあるごっちゃごちゃの市場さ!せっかくだしあの子たちに案内して楽しんできなよ!ようこそメッシー・マーケット・プレイスへ!さぁ、早くいかないと見失っちゃうぜ!」
と陽気にウィンクを飛ばしながら私たちを促した。
私たちは一瞬顔を見合わせたが、普段抑圧されてきた分どこかでスッキリしたい気分は誰でも同じなのは皆して理解できた。思わず全員くすりと笑って、二人の後を駆け足で追っていった。
後ろから「帰りに寄ってって何か買っておくれよ~」と主人の押し売り(?)の声が響いてた。




