35.てぃーぱーてぃーⅡ
紆余曲折ありながらも寮に到着した彼女達はいつも入る建物がまるではじめて入る城のように今日は感じた。
寮といっても、上流家庭や王族も通うことのあるこの学校はこの国きっての一流かつ大規模な教育機関であるため、宿舎も立派なものになっている。
一階の全体ホールから少し階段を上がって上級生用談話室、そこを抜けた廊下の先にある金の蔓を模したような螺旋階段を登る。階の区切りごとに廊下が開かれ、下から下級生や平民、上に続くにつれ上級生や貴族の部屋へと続いている。
その一番上の階のみ、特別室が存在しており女子寮では東西南北に別れて合計32の部屋が存在する。その内、東の特別室7部屋を人魚姫たちが独占している情況だ。東の残り1部屋は空室である。
「うわぁ、一番上って、まるでお城みたいにすっごく大きくて、とぉっても廊下がひろいのね!」
ジェニファーが純粋な目でイキイキと廊下を駆け回る。
「こらジェニファー!お行儀悪いわよ!それに、お姫様が住むんだもの。お城と同じくらいじゃないと、お姫様がかわいそうよ。」
「そうよそうよ!」
同じ初級の塔の生徒であるエミリーとノーラがジェニファーを窘める。ジェニファーは確かにそうだと言わんばかりに、急にかしこまってお上品に歩き始めた。
「まぁまぁ、ジェニファーさんは元気なのね。」
「でも確かに、海ではあまり見ない煌びやかな装飾が施されているお部屋だから、私たちもはじめはジェニファー、あなたみたいに少しはしゃいでいたわ。」
テアとヘラはクスクスと小さい人間の子供たちを人魚の稚魚と同じような慈しむ目で愛でながらジェニファーの粗相を擁護した。
「うん、ジェニファーは元気なの。でも、フリーダちゃんとララちゃんはお教室ではもっと元気なの!」
エミリーが目を輝かせてテアやヘラ、人魚の姫たちを見て伝えた。
それを聞いて彼女たちは面白おかしそうに、フリーダとララは「ちょっと、エミリーったら!」と恥ずかしげにエミリーたちを追いかけながら部屋へ向かった。
「ここが、エリュシオネー様達のお部屋なのです?私のお部屋は西側にあるので、今まで訪れなかったのですけど、雰囲気はやはり少し違いますわね」
部屋が並ぶ扉の前に到着した時、上級生であるパトリシアは辺りを見回していった。彼女もこの国の侯爵令嬢であるゆえに、特別生徒室を1室、西側に与えられていた。
「えぇ、青を基調としたデザインが海から来たあなたたちのお部屋としてピッタリのデザインだと思うわ!貝殻や海のモチーフも所々あって、なんてかわいいんでしょう!」
伯爵令嬢のパメラも続く。
「これはウータとウーテが物足りないからと張り付けたものだ。彼女達の奔放さが、時にはこのような良い結果をもたらしてくれるからこそ私は彼女たちのそういうところが好きでな。」
エリュシオネーの説明に照れ臭そうに、しかし自慢げに自身が付けた装飾品の説明をしていくウータとウーテ。
「皆さま!いつまでも扉の前だけじゃ何でしょうし、どうぞお入りになって!まずは左側のお部屋に行きましょう!「てぃーぱーてぃー」に必要な「お茶」も、ちゃあんと用意していますのよぉ!」
ララがうずうずして中へと催促する。可愛らし気に歓迎する彼女の姿を見て、誰もが小さいルビーのような彼女を愛らしいと思い、撫でまわしたいと思った。
「「うわぁ!ひろーい!」」
中級生のソフィア、ダリアは感嘆し、同じ中級生のジゼルは「ここならバレエを存分に踊れそう!」と目を輝かせていた。
「一人1室を与えられていたのだけれど、私たち別々に過ごす習慣がなかったのよ。だから、人間の姿でいる時に必要なものはここの左側3室を繋げてまとめているのよ。だから広く感じるのだと思うわ。」
テアが説明しながらも優雅なしぐさで侍女のマーサたちにお茶を用意するよう指示をする。
あらかじめ招待されている生徒たちの席やテーブルは既に用意されており、それらが海から取れる海嘯石を磨いて作られたもののため、暫くその話題や部屋のあらゆる海からの宝物や家具の話で持ちきりだった。
「姫様方、お持ちしましたえ。」
マーサたちが持ってきたお茶やケーキの数々にも海をモチーフにした飾りや色味がアレンジされており、招かれた女生徒たちは夢の国に来たようだと大変はしゃいだ。女の子であれば、一度は経験したいお姫様のようなお茶会に珍しくも可愛らしいデザインのケーキの数々に、平民であるベッキーやデビ―はもちろん、上流家庭の下級生たちひいては高位貴族であるパメラやパトリシア、ジゼルも目を輝かせたのだ。
「では、まずはお互い全員の自己紹介を改めてしましょう。異なる塔で知らない方たちも多いことでしょうし。」
パン!と、着席したのち、テアが提案する。無論エリュシオネー達は知っているが、彼女たちとて違う塔の子たちを詳しく知っているわけではない。どういう子たちを妹たちは/姉たちは呼んできたのか、気になってもいた。
「では、上級の塔からいきましょう。パトリシアさんからお願いできるかしら?」
「えぇ、私、上級の塔のパトリシア・フォーサイスと申しますわ。フォーサイス侯爵の長女ですの。どうぞお見知りおきを。」
「では次は私ね。パメラ・シートンですわ。シートン伯爵家の次女よ。仲良くしてくださると嬉しいわ。」
「私はベッキーよ。平民だけど、お父さんが魔鉱石発掘場長なの。よろしく!」
「私も平民よ。デビ―っていうの。両親が冒険ギルドを経営しているわ。」
「上級の塔の招待客は以上よ。次は――」「はーい、中級の塔行くよー」「3人いるのよー」
ウータとウーテがテアの役目を引き継ぐように声を上げ、自分たちが招待してきた子たちを立たせた。
「じゃあ、私から行きますね。私はジゼル・ラ・フォンティーヌ。隣国であるデュファルジュ国の侯爵家の娘です。この国は学問や芸術に関する見識が広いと伺ったので、留学している身です。皆さま仲良くしてくださいね。」
「私はソフィア・カマ―フォードですわ。カマ―フォード男爵の娘ですわ!ヘラさんとは最近仲良くなったのですけれど、今日はここにいる皆さまと是非お近づきになりたいわ。」
「ダリア・シーンだ。現在近衛兵団長を任されているジェームズ・シーンの娘だ。兵士の娘だが、ウータさん、ウーテさんにヘラさんは隔てなく仲良くしていただいていつも感謝している。今日はよろしく頼む。」
「中級の塔の皆大体いい子たちー」「でも、特にこの3人は面白かったから呼んでみたかったの~」
「ジゼルは踊りがとても上手で、ソフィアさんは本や知識の話になると熱くなるの。ダリアはこの言葉遣いに立ち居振る舞いから結構怖がられてたんだけど、剣にとても熱心なだけの真っすぐな子よ。」
「ヘラ、補足をありがとうね。仲良くできているようで安心したわ。最後に、下級の塔の子たちね。」
「は、はい!」
フリーダが緊張気味に返事をした。
「フリーダ姉様、いつもみたいにビシバシ行っても良いんですのよ?」
「で、でも…」「あぁんもう!私が行きますわ!私たちが仲良くなった方々はこちらの3人の可愛い方たちよ!」
ララに連れられて、可愛らしい3人の小さな女の子がちょこんとお辞儀をしながらそれぞれ挨拶をした。
「ララちゃんとフリーダちゃんと仲良くさせてもらってます、エミリー・トンプソンです。」
「お、同じく、ノーラ・サイモンです。」
「ジェニファー・ヤーノルドよ!ララちゃんとフリーダちゃんがずっと話してたお姉さんたちに会えてうれしい!」
「トンプソンって、あのトンプソン商会の?」とパメラが聞いた。
「はい!パパはいっぱいものを買ったり売ったりする仕事だって言ってました。」
「まぁ、あそこは様々な良いものを扱っているって評判なのよ。」
「サイモンさんって、お父様は弁護士の?」
「はい、どうして知っているのですか?」
「色々と家庭間の裁判に強いって、巷では噂になってたからちょっとね。」
「ヤーノルドご子爵には溺愛している娘がいるって話だったけど、あなたのことだったのね!」
「えへへ、ジェニファーは家族ではにんきものなのよ!」
それぞれの家の出から繋がりが見えてきて、彼ら自身の話のタネも広がり、自然と和気あいあいとそれぞれが会話し始めた。
そうして、この賑やかで一風変わったメンバーでのお茶会が始まった。
エリュシオネーは、妹たちはじめ参加者の彼女たちがとても喜んでいる様子を見て大変満足していた。彼女たちは自分が思っているような人間とは違うと確信に近い思いを抱くまでになっていた。何故なら彼女たちは海をモチーフにしたデザインの小物や家具を皮切りに、海の中とはどういうところなのかを熱心に聞いてきたのである。彼女たちが自分たちを理解したいと思っているのと同じように、自分たちもその思いに応えなければならない、彼女たちを理解しなければならないと、エリュシオネーは思い始めていた。
お菓子が美味しかったためか、下級生・中級生はすぐにお茶を飲み切り、お菓子を完食してしまっていた。
「お菓子、もっと食べたかったなぁ。」
「ジェニファーったらぁ。でも、ここで終わりにしたら、また次行きたいと一層思えるでしょう?今日はこれで我慢よ。…そうだ!ここは他のお部屋と繋がっていてまだまだ広いから、お茶を飲み終えた方たちから案内してあげるわ!」
「本当?!」「行くいく~!」
ララが何だかすっかりジェニファーのお姉さんになったかのようで、姉たちはとても微笑ましくそれを見ていた。
彼女たちはフリーダ、ウータとウーテとともに広い部屋の探検に行ってくることにした。
上級生であるパメラとパトリシア、ベッキーとデビ―は年頃らしく、淑女の様に振舞おうと少しずつ食べていたがまもなく食べ終えてしまうだろう。
「このケーキ、どうしてこんなに美味しいのかしら?確かに貝殻の形をしたクッキーやマカロンは可愛らしいのだけれど、それだけじゃないでしょう?私、このお菓子持って帰りたいくらいよ。」
パトリシアはため息をつきながら貝に模られたマドレーヌを持ちあげながらため息をつく。
「実はこれ、澄んだ深海の塩を使ってるのよ。」
ヘラが誇らしげに言う。何を隠そう、甘味に塩を入れる提案をしたのは彼女本人だ。マーサやダンカンに相談しながらお菓子を準備する際、提案してくれていた。
甘味は海にはあまりなかったから、陸に上がったばかりの私たちには新しいはずなのに、ヘラは抜群の味覚センスで海の味を出せるよう提案していたのだった。
「お塩!?確かに言われてみれば入っているかもしれませんね、、、でも、それをヘラ様が?」
「フフ、私も驚いたのだ。ヘラは頭が切れると思っていたら、こんな才能も秘めていたとはな。」
「もう、シオン姉様ったら、ちょっとこれ入れたらおいしいかも?って思っただけなのに大げさな…」
「だが、それに気づけるものが果たしてどれくらいいただろう?ヘラ、そなたは我ら姉妹の中でも誇るべき味覚の持ち主やもしれん。」
「は、恥ずかしいって!」
「才能と言えば、このテアは今回の部屋のアレンジをしてくれてな。彼女の美しいものに対する姿勢も、なかなかの才能だ。」
「あらやだ、お姉様、何も今言わなくても…」
「今言わなくていつ言うのだ?私はただ可愛い妹を皆に紹介したくてだな…―――」
饒舌に話し出すエリュシオネーをみてパメラ達は顔を見合わせた。そして顔が綻んだと同時に同じ考えに至っていると互いに感じた
(妹様方もですが、エリュシオネー様も大概にシスコンですわ!)と。
彼女たちの生暖かい視線を感じ、エリュシオネー、テア、ヘラの三人はゴホンと咳ばらいをして居住まいを正す。
「あー、その、すまない。つい喋りすぎてしまった。」
エリュシオネーが申し訳なさげに先ほどの自分の振舞いを詫びると、全く気にしてもいないというように、全員が大きく首を振った。
「エリュシオネー様って、普段は無口ですのに、妹様方のこととなるととてもお熱いのね!」
「それだけ妹様方のことを想ってらっしゃるのでしょう?素敵な姉妹愛ですわ。」
「わたしも、そんなお姉さんが居ればと思ったほどだもの!」
「普段からそういう可愛い部分をお見せすればよろしいのに…」
口々に言われる好意的な言葉に若干驚きながらも温かく受け入れられた今日のこの光景は、エリュシオネーの中で忘れられない時になっただろう。
暫くして、探検から仲良く戻ってきた子たちが、先ほどより何だか楽し気にしている姉たちを見て駆け寄ってきた。
「何を話してたのー?」「なんか楽しそうよ?」
「シオン姉さん分かりやすく笑ってるの珍しーい!」
「えー、珍しいの?やったー!良いの見れたね、エミリー!」「うん!」
「貴方達の話をしていたところよ。」
「え?」
「エリュシオネー様は、貴方達と同じように、貴方達妹をとても大切に想っていることを、沢山お話してましたの!」
そうテアやパメラが話す傍ら、どんどんララ達の頬が膨れていった。
「ずるいですわぁ!私もそのお話混ざりたかったですわぁ!」
「ララちゃんいっつもお姉様のお話するもんねー。」
「うん、フリーダちゃんも巻けてないけど。」
「あら、そうなの?」「気になるわね。」「じゃあ、今度はあなたたちがお話を聞かせて頂戴な。」
こうしてまたしばらく姉妹自慢合戦が始まり、普段教室で話している内容をジェニファー達が暴露することで更に盛り上がっていった。




