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30.大人数のランチタイム

場面は変わり、再び学園になります。


 学園に通い始め暫くが立ち、私とテアは昼食の為食堂へ向かっていた。人魚の寿命は長く、深い海の底では昼夜などほとんど関係がなかったが故、規則正しく食事をとることも眠ることもなかった。多くて1週間に1度狩りに出て、食べたいだけ食べ、眠りたいときに存分に寝ればよかった。


 しかし、人間の生活というのは思いのほか忙しい。王城で1か月くらい放置してくれていた時は特に人魚と生活は変わらぬと思っていたのだが…。いやはや1時間単位で授業はコロコロ変わるわ、朝から着替えだの御髪を整えるだので忙しいわ…海では常に髪はうるおい、緩やかにたなびいていて整えるなどせずとも美しさは保てていたが、陸ではそうはいかなかった。また夜は夜で湯浴みだとか課題とかでやることはあり、これほどまでに忙しい日々だとは思わなかった。なるほど、人間が1日に夜は必ず休みたくなるものだ。近頃は私も夜には眠たくなった。食事は特に必要とは感じていないが…陸の食事はとても興味深く、食べたことのないものばかりが並べられるため、ついつい食べてしまう。


 食堂では、貴族と庶民のテーブルが分けられているが、内容は同じような者で、長い食卓の上に様々な料理の皿がズラリとひしめいている。それぞれの大皿から庶民は自分で更に取り、我々はマーサやアメリアたちが給仕してくれる。あ、今日はオオガモの丸焼きがあるではないか。油たっぷりの肉はララやウータ、ウーテが好みそうだ。


 「あ!エリュシオネー様、テア様!よろしければご一緒しませんか?」

 

 パメラとパトリシアだった。彼女たちはあれ以降何かと親し気に話してくれる。


 「ふむ、ならば一緒に…」

 「「ねーさぁーーん!」」「お姉様ぁあああ!」

 「あ、ちょっと待ちなさいよ!」

 「ら、ララ…待ってぇ…」


 人魚姉妹シスターズが揃ってしまった…。彼女たちは寮に帰ればお互い会えるにも拘らず休憩時間や昼食時などに私を見つけては一緒にいようとしてくれる。可愛いからついついこの突進じみたハグも受け止めてしまう。うーむ、だが公衆の面前でこんなにベッタリは…まぁいいか、可愛いのが悪い。


 しかし…


 妹たちは、それぞれ既に友人らしきものができたらしい。ウータとウーテの後ろにはこの間見た黒髪の舞が目立っていた少女、ララとフリーダの後ろには3人の小さな少女がいる。


 「そなたたちの友人か?」


 「うん、紹介するね!この子はジゼル。踊りがとっても好きで、今度バレエを教えてくれるんだってー。」


 「ジゼル・ラ・フォンティーヌです。貴方達と同じく、留学生として隣国デュファルジュ国から参りました。ウータ様、ウーテ様、そしてヘラ様と仲良くしていただきたく思っていますわ。」


 この子は記憶に残っていたため、気になっていた。中級の塔での彼女の舞をもう一度見てみたいものだ。私は小さく頷き、後ろの他3人を見る。


 「お姉様!わたくし、もう3人とお友達になれたの!左からジャネットとカレン、ジェニファーよ!」

 「あ、あの、3人とも私たち人魚にとっても興味があって、あの、お姉様とも是非お話がしたいって…。」


 (む、何故私と…?)


 「ララがお姉様のお姿を映した秘蔵の記録映像をクラスに見せていたのです!」

 「あ!フリーダお姉様!それは内緒にしておいてって言ったのにぃいい!!」


 憤慨するように腰に手をあててぷくりと頬を膨らますフリーダに対して、ララは徐々に涙目になっていった。


 (秘蔵?記録映像?…隠し撮りしたのか、ララ…そうかそうか、どうやら一回じっくり話してやらねばなるまい…。)


 「ひぃん…!お姉様の背後からどす黒い墨が出ているようですわぁ…」

 

 「私たちにはいつもの無表情に見えるのですけど、人魚にしか見えない気があるのかしら…ねぇ、パメラ?」

 「いいえパトリシアさん、アレは長年共に過ごしてきたからこそ分かる第6感のようなものなのでしょう…」

 「当たりですわね。」


 コソコソと上級クラスの3人が話す。ララ、どす黒い気を放っているのがわかるなら、後のことも察せよう。


 「アメリア」

 「はい、姫様」


 アメリアは何処からともなく瞬間移動のように現れたため、周りが驚いている。一番驚いたのはマーサで、彼女は哀れにも尻もちをついて運んできたカトラリーを床にバラまいてしまった。可愛そうなので他の侍女たちに助けに入るよう手を振ってやる。


 「ララはやってよいことと悪いことの区別をまだ学ばねばならぬ年頃のようだ。」

 「は、今晩はララ姫様の追加個人レッスンを承ります。」

 「いぃやぁああああ!!!アメリアの個人レッスンはとぉってもキツくて怖いのぉおお…もうやりませんわぁあああ!!!フリーダお姉様も怒ったら別の意味で怖かったですし…」


 ララの反応はいつ見ても新鮮で面白いな。そう思っているのは私だけではないようで、人間の他の少女たちも笑いを堪えているのが分かる。だが、あのフリーダが怖いなんてあるだろうか?いつも遠慮がちにして妹のララにも常に弱気だろうに…。ま、それはさておき、なんだかんだ自己紹介もあり、空気も打ち解けたようだ。


 「パメラ、パトリシア、すまぬがいつものように妹たちと…あと、彼女の友人たちも一緒で良いか?」


 「えぇ、喜んで!」

 「ふん、下の後輩たちのお話を聞いて面倒を見るのも上の役目ですものね…!」



 ふむ…だがこの人数ともあればパメラ達が座っているテーブルでは些か小さすぎるな。なら、少し大きくするか。


 指を鳴らしてパメラとパトリシアが座ってない部分のテーブルをぐにぃっと伸ばす。椅子は周辺のものを浮かして持ってくる。


 「ほぅ…エリュシオネー様って、授業でも思いましたけど、魔法に関しては天才ですわね…。」

 「えぇ、呪文スペル無しに魔力を自在に操れるなど我が国ではできる者はまず居ないでしょうね。」


 人間の授業では魔法を使う際に「呪文スペル」を必ず使っているが、別に呪文スペルなどなくとも単純な魔法等使えるのが当たり前だと思っていた。以前授業で呪文スペル無しに氷の像を作った時には大層驚かれた。こういった常識の違いは学園に通い始めてからも感じることが多い。そちらの方で学ぶことが多いくらいだ。


 「人魚の方って、どなたも無詠唱で魔法を使うことができるのです?」


 パトリシアが興味深げに聞いてくる。


 「ここにいる私たちは全員、簡単なものなら使えるよー。」「まあ、王族なので幼いころから魔法の鍛錬は積んでますし…それに…」


 当たり前だろう。なんたって…


 「「「「それに、シオン姉様さん 直々に教えてもらっていたもの!!」」」」

 (私が200年以上ずーっと教え込んできたからな!!)


 「まぁ!では、やはりエリュシオネー様が素晴らしい魔導士であるのね!」


 「魔導士…という名称は我が国ではないが、以前宮廷一番の魔術師に弟子入りしていてな。魔術や魔法等、魔力を扱うことには多少の自信はあるぞ。」


 「まあ素敵!弟子のエリュシオネー様がこんなに凄いんですもの、さぞかし腕の立つ魔術師なのでしょうね。」


 「腕は立つし、魔法薬に関しては右に出る者はいないと思うな。」


 ドロテアのことを褒められていると思うと、何だか、心の底がくすぐったい。でも、とても暖かくて自然と口角が上がってしまう。これは、久しく忘れてしまった何かの感情かもしれない。


 全員席に付き、食事を始める。たわいのない互いの自己紹介交じりの趣味の話や私たちの故郷である海の話をする。人間との会話は…いや、声を出す会話自体ここ最近学園で増えてはきたものの、400年近くほぼ寡黙で過ごしてきたものだから若干疲れそうだ。そんな私の心を読み取ってか、テア、ウーテ、ヘラが質問に積極的に答えてくれたおかげで、そんな心配もなく食事ができそうだ。


 食事の間の会話に耳を傾けながらも、陸の食事をしっかり堪能する。ここは、王城で食したどのものよりもしっかりと味もあり、どれも美味なものばかりであった。いや、まともな食事さえ王城では出されていなかったらしいから比べるのもアレか。何より、海では味わえない「甘い」ものが好きだ。今日のデザートとして出てきたこの「アップルパイ」とやらは、大好きなフルーツが独特の香草で香りづけされたものをサクサクとした温かい「パイ生地」とやらで包まれているのだそうだ。香草は「シナモン」というらしく、パトリシアの領地が交易している国から手に入るそうだ。この甘いものがあるがために、私は大人しく学園に居るのも過言ではない。…いや、それは言い過ぎではあるが。


 初めて10を超える大人数での昼食を終えようとしたとき、ここでは一番年下というジェニファーが言った一言で平和に終わりそうだった食事時間に一石が投じられた。


 「ねぇねぇ、人魚のお部屋って今どんな感じなの?特別室なんでしょ?ジェニファー今度遊びに行って良い?」


 ピシり…と、音こそはならなかったが、その場の空気が一瞬だけ固まったようになり、その後その固まった空気が砕け散るように次々と他の少女たちも詰め寄ってきた。


 「え、エリュシオネー様!私も是非お呼ばれされたいですわ!」

 「お友達なら…1回くらい自室でティーパーティーでも開くべきよ!」

 「はわぁあ、人魚姫のお部屋を見れるなんて素敵な会、絶対行きたいわ!」



 「ちょ、ちょっと皆さん?別にお部屋に招く会を開くわけでは…」

 「そーだよ、シオン姉さんの許可がないと…」


 「エリュシオネー様?!」

 「エリュシオネー様、1回だけでも…!」

 「さっきも言いましたけど、人脈を広げるならばお部屋でのお茶会が一番ですわよ?!」

 「ララちゃんのおねーちゃん!」

 「えう…える…人魚姫のおねーさま!お願い!」


 「「「「「「お願い~!」」」」」」



 「…シオン姉様、どうするつもり?」

 「…………考える。」

 「あーシオン姉さん困ったー」「保留だねー」

 「あ、明日までに答えを皆で考えましょ?」


 休憩時間も残りわずかとなり、それぞれが塔に戻っていく中、「明日またねー!」「楽しみにまってますー!」などと調子のよいことを言いながら手を振られた。


 …どうするべきだろうか。テアは私に詰め寄るパメラとパトリシアを上手く引き剥がして先に連れていってくれ、私は頭を抱えながら暫く考え込んだ。


 

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