25.災禍の姫は、部屋を海にする
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寮母に部屋を尋ねに行くと、既に侍女たちが荷物を我らの住む予定である特別生徒用の部屋へと運んでいた。
「あ、お姫様、おかえりなさいませぇ。」
そばかすが特徴のマーサという人間の女は私の服を最初に着せた者で、貧しい生まれの為今まで雑役女中として扱われていたのだが、今後は専属侍女として私の世話をしてくれる。ダンカンや貴族たちの話す言葉とはまた異なるアクセントがあり、彼女はよく「地方なまりがまだきつくって…ダンカンさんから紹介してもらった先生に教えてもらってるのですけど耳心地を悪ぅされたらごめんなさいまし…。」と言うのだが、私は逆に好ましく思っている。
ちなみにアメリアは私のもう一人の専属侍女兼護衛として今後も傍にいてくれる。というのも、元々アメリアは戦闘特化型の人魚であったため世話係より護衛や近衛兵の方が向いているともいえる。アメリアも喜んでいるためこれでいいのだろう。彼女は今寮周辺の地理把握のため散策に行っている。
「今日、ここに来たらこぉんな立派なお洋服を貰いました!なんでも、ただの雑用女中だった頃の服じゃ流石に学園の中だし格好つかないって、ダンカンさんの部下が届けてくれたらしいんです!わたし、こぉんな素敵なドレスみたいな服初めて着ました!ダンカンさん、いい人ですね。」
ふむ、後でダンカンに礼を言っておくか。彼は今のところ人間の中で唯一友好的に思える。何故私たちを馬鹿にしたような初対面時からここまで変わったのかは分からないが、少ない味方や友好者を増やしておくのは重要だ。
他の妹たちの専属侍女も同じようにはしゃいでいた。私たちの与えられた部屋は特別室なだけあって一つ一つが広く、客間と寝室、入浴用の部屋の3部屋がそれぞれ与えられていた。
「ねーねーシオン姉さん、お風呂も寝るとこもひっろいねー」「一人一つ、姉さんの海の部屋より広いけど、まだ何もなくて寂しいねー」
ウータとウーテは気に入っているようだな。だが、一人表情が暗い妹、ララがいた。
「お、お姉様…」
「ん?どうしたララ、」
海とは全く異なる部屋の構造や雰囲気に誰もがなじめるわけではないだろう。ララは海の部屋が懐かしいのか…
「そうではないんですぅ!」
おっと、違ったか。
「い、いえ、それもそうですけど、シオンお姉様やテアお姉様、他のお姉様もみぃーんな!お一人で今日から寝るんですかぁ?!」
??…あぁ、今まで一緒にほとんど寝ていたからか、彼女にとって一人で寝ることに耐性がないのか。
「ララ…貴方もう私たちと同じ400年以上生きてきたでしょう。もう一人でも寝るのは大丈夫でしょう?」
テアが宥めるようにララに言い聞かすと、ララは涙目になってこちらを見ている。
「ララ、まだまだ甘えんぼ―」「かーわいいー」
「私たちとほんの10年くらいの差だけど、いつまでもちっちゃいねー」
ウータ、ウーテ、ヘラ、可愛がるのはいいがララがよけい泣きそうになってる気がするぞ。
「あ、あの…!」
「どうした?…フリーダもか?」
隅でもじもじ差せていたフリーダが顔をララ色にさせながら私の傍に寄ってきた。
「あ……はい…。あの、ララの気持ちも、…分かります。私もまだ、皆と…。急に離れて寝るのはちょっと寂しい…です!」
うーむ、この妹たち、我ながら姉馬鹿と言われるかもしれぬが私にとって世界一可愛い。可愛いから何でも言うこと聞いてしまいそうだな。
そう思うや否や、「…!じゃあ!」とララ達が顔をキラキラさせてきたではないか。
ぬ、テアやヘラまで。そなたたちも実は一緒に寝たいとか、そういうことか?仕方のない可愛い妹たちだ。
「…はぁ、なら、こうするのはどうだ?皆、ちょっと手伝ってくれ。…群歌魔法をするぞ。」
私が悪戯気に笑うと、皆笑顔になり歌う態勢に入った。
「マーサ、すまぬが他のメイドたちにもそなた含め一旦外に出るよう伝えてくれぬか?少々危険なのでな。扉は固く閉じてくれ。」
「は、はい…?かしこまりましたお姫様…。」
「エリュシオネーと名前で良い。長ければシオンと呼ぶことをそなたにも許す。」
「は、はい…!で、ではシオン姫様、全てが終わりましたらお声をおかけくださいまし。」
マーサは若干困惑気味に出ていった。仕方がない、これから行う群歌魔法による結果次第では人間は死んでしまうかもしれないのだから。
「では、そなたたちがどうしたいのかという思いとイメージをありのまま歌にのせよ。」
「「「「「「はい!お姉様!(姉さん)」」」」」」
全て変えよ 思うがままに
あれよ在れよと 思うがままに
魔力をやや強く乗せて歌いだすと共に部分部分で妹たちの重唱で彼女たちの魔力と気持ち、イメージが流れ込む。
それを一気に部屋に満たしていく。
すると3つ続きであった部屋を仕切っていた壁が溶ける様に取り払われ、風呂、寝室の部屋の構造と基本的な家具のみ残った。
我らは人魚 陸であろうと海にいる
我らは人魚 魂は常に海の中
テアの想いを受け取ったことで紡がれた歌魔法は妹たちの合唱により群歌魔法となり部屋中を海水が満たしていく。
全て変えよ 思うがままに
あれよ在れよと 思うがままに
ヘラはあのさらさらした優しい海底の砂やふかふかの海泥が懐かしいらしい。
フリーダとララは皆と一緒に過ごしたあの私室の空間が、ウータとウーテは今の部屋の趣を取り入れた秘密基地のような海を考えているな。
我らが人魚 陸であろうと海にいる
我らが人魚 海を意のまま進むもの
なんだかんだ、皆陸の世界に興味津々ばかりと思いきやどこかで海を恋しく思っていたのだな。
それぞれの思いがグニャグニャと混ざりあい溶け合い、それに応じて部屋の内装も同じように千変する。
よし、大体このような感じか。
私が群歌魔法を完成させようとしたとき、
「 全てが変わる 思うがままに
愛しき姉の 望むように 」
…テア…?テアは私に「お姉様の想いも混ぜてくださいな」とばかりにソロを歌う。
全てが変わる 思うがままに
愛しき姉の 望むように
妹たちが同じように続く。…ありがとう、分かったよ。…では、仕上げにこういうのはどうだろう?
私の魔力と妹たちの魔力が混ぜ合わさり、部屋の全てが変わっていく。そして、気づいたときは人魚の姿に戻っていた。
「「わぁ~!」」「とっても素敵!」
「毎日海に戻れているように感じれる!」
「3つのお部屋が繋がってます!」
「これならここに入れば皆と一緒ですわぁ!」
妹たちが口々に満足げに感想を言い、泳いでみて回る。そう、外から見れば変化はないのだが、一歩踏み入れば3つの特別室は今や1つになり、ドアを開ければそこは僅かに空間拡張された海になったのだ。
私たちが暮らしていた宮殿の部屋のように、一部分はまるでアメジストの原石の中のような小さな隠れ家的スペースとなっている。
風呂場や柱、机など水に強い家具はそのままに海に沈んだように残している。そして、さらさらの白い砂や宝石貝が敷かれている下にはふかふかの海泥だ。
いつの日にかお父様と遠泳に行ったときに見た、南洋近くにあった沈没船をふと思い出す。あの中はなかなか秘密基地のようで楽しかった。
「お姉様!流石お姉様ですわ!」
「生命を生み出すなんて、姉さんくらいしかできないんじゃない?」
ララとウーテが言ったのは、そう、私は海の中に何もないのが少し寂しいと思ったのだ。だから、イソギンチャクや妖光サンゴといったものからチョウチョウウオやスズメダイなどの小魚たち、クラゲや生きた貝等の海のものを創ったのだ。
生命を無から創り出すのは膨大な魔力を使うが、その分私の魔力で生み出された生き物たちは皆頑丈で丈夫に育ってくれる。この子たちも妹たちが暇な時の良き話し相手となるだろう。
こんなものだろうか。これくらい広い空間なら彼らも過ごせるか。
「おいで、ディリー、フィン。」
「キィイイ!」「キュイイイ」
私の身体に刺青のようにその身を隠す術をどこからか覚えた大きな黒いイルカのディリーとフィンは、私が海を出ていくことが決まった時から付いて行くと聞いて聞かなかった。「好きにしろ」と言ったら急に蛸墨のように朧になって消えたかと思いきや私の背中に刺青として文字通り「ピッタリついてきた」のだった。
解放という文字が似合わんばかりに勢いよく飛び出してきた彼らは新しく模様替えした部屋を悠遊と泳ぎだした。それでも部屋の中だけ空間拡張された部屋は圧迫された感じがない。
「シオンお姉様、一つだけ訂正しますが、彼らはシャチの仲間かと。あと、魔法も使えるなら水魔の類かも…」
何を言うんだ、テア?こんなに可愛い子たちが獰猛なシャチなわけないだろう。私が生まれた時から一緒だったんだぞ。水魔とかだったら気づいているって…
「いや、そもそもお姉様と同じくらい生きているだけで充分化け物…」
「テア姉様、それがシオン姉様よ。」
「姉さんって変なとこで頑固だよねー」「あと時々にぶーい」
なんだなんだ、皆して。まぁ、いっか。
「今日からお前たちはここに棲んでくれ。もし何かあれば呼ぼうぞ。良いか、決して他のものを私が良しというまで食べてはならぬぞ。」
「キィ」「キュイ」
じゃ、寝床はここで、人間として着替えたり寝床に使ったりする部屋は向かいの4部屋で良いな。
「「さんせーい」」「分かったわ。」
「はい…!」
「はいですわ!…あ!たーいへん!!」
どうしたララ、まだ何かあるか?
「人間としての寝床ではどのように部屋を割るのですの?!」
ララ…う、うむ。4つであれば3つは2人部屋で1つは1人で良いのではないか?
そこから誰が私と部屋を共にするのか小さな海での小さな戦争が始まったため、私は1人部屋を貰うことになったのは言うまでもない。




