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24.ダンカン・ダンヴィルという男

いつも読んでくださりありがとうございます!

黄昏の空の中7色の髪をたなびかせながら特別生徒用の部屋に入っていくのを見届けた後、おずおずと学園長のスパイトがダンカンに近づいた。


 「だ、ダンカン公爵閣下、…何故です?!何故彼らの言うがままにさせているのです?あのものは伝説の種族と言えど人間ではない未開の種族です!国王陛下も言っていたように、いずれ我が国の支配下になる予定の姫君など…何故貴殿ともあろうお方が、あそこまで丁重に扱うのです!」


 スパイトとダンカンはかつてはこの学園の同期であり、彼らは王国内のほとんどの貴族と同じように人間ではない種族を蔑視していた。スパイトにとってダンカンは同じ思想を持った同士であり、そんな貴族を率いるリーダー的存在であったのだ。だがダンカンはスパイトの予想と全く反対の対応を人魚姫たちにしている。しかも、人魚姫たちの多くは彼に懐いているではないか。スパイトにとっては理解できない状況だったのだ。


 「確かに国王陛下も、ほとんどの貴族も、あの海からの王女様たちを軽んじておられる。未開の種族、直に属国となる下等なる種族、だからマナーも言葉遣いもなっていないと。貴族の中には属国化した後は伝説の種族と銘打って奴隷や見世物として儲けようと考えておる者もおるようだ。」

 「でしたら…!」

 「スパイト、貴殿は何故人魚が伝説の種族と言われているか知っているか?」

 「それは…」


 当たり前のようなことを質問されたスパイトは戸惑った。常識だったからだ。何故今更常識を訊くのか、分からなかったが公爵相手には素直に答えるしかなかった。


 「伝説上…実在するかも分からなかった種族だったからです!古の種族だからです!閣下もご存じの通り、古い言い伝えやおとぎ話にのみ言及されていた、だがしかし今まで一度も見たものはいなかった…だから伝説なのです。」

 「その古い言い伝えや御伽噺の最後には、ほぼ全て天変地異たる大災害が待っている。」

 「…!!」


 その言葉を聞いた途端、ダンカンが何を考えているのか、スパイトはなんとなく察した。そして、今まで人間より下だと思っていた種族が、恐怖の象徴に思えてきて背筋が震えた。


 「…なぁ、スパイト。お前が知っている人魚に関する御伽噺でもいい、言い伝えでもいい。一つ、この偉い私に話してみてくれないか。」


 「では、私が幼いころによく読み聞かされた御伽噺の絵本の中に、こういった話がありました。

…人魚はその美しい歌声で多くの異性を惑わせたとか…あ!後はあれですね、人間の男に恋をした人魚が人間になり、結局恋は実らず人魚は怒り狂い嵐を呼んで国ごと海に沈めた…とか……」


 ダンカンはため息をつき、子供のころによく下町の子供が歌っていた詩をスパイトに聴かせた。


 「私は偉いから、下々の様子も幼少期にこっそり見に行っておってな。そこでよく耳にしたのがこの歌だ。


 賢者を目指したイワン イワン

 不老不死になりたくて

 人魚にお願いしたんだよ

 人魚はお願い聞かなくて

 真っ赤になったイワン イワン

 顔も体も真っ赤っ赤

 人魚の体も真っ赤っ赤


 不死になったイワン イワン

 だけど人魚が泣いちゃった

 人魚の涙は海になり

 何もかもを飲み込んだ

 死ねなくなったイワン イワン

 一人残って真っ青さ

 海のように真っ青さ


 …今思うととても恐ろしい歌だとは思わんかね?」


 「……子供というのは、意味も知らず残酷な歌を楽しそうに遊びに使うものです。私も当時、確かにこの歌を良く口ずさんでは親に怒られておりました。」

 「言い伝えや昔からある詩というのは、ある程度史実に基づいたものや史実を誇張・捻じ曲げたものが多い。」

 「ですが、この歌は単なる作り話かと!学園及び王宮内にある書物を私は全て目を通し、憶えておりますが人魚に関する公的な記載は一切なかったのです!故に!人魚は存在しないと今まで考えられてきたのですぞ。」


 スパイトは間違いなく全部の資料を確認したのだ。というのも、つい昨年くらいだっただろうか、第2王子のコーネリウス殿下に頼まれて人魚に関する文献を漁っていたのだ。結果、公的な文書には一切なく、口伝えで伝えられてきた昔話や御伽噺、子供の歌くらいにしか人魚という言葉は出てこなかったのだ。


 「公的には残っていなくとも、民間では言い伝えられている。そこには何らかの理由や裏があるのだろう。少なくとも、私はそう思って動いている。」

 「…そんな…!」


 ダンカンの言うことがもし本当であれば、下手な対応をすればもしかすると…スパイトは首を振った。


 「だとしても、流石にこの国に天変地異たる大災害というのは考えすぎではないですかな?」

 「貴殿は部下から彼女たちの魔力テストの結果を聞かなかったのかね?」

 「魔力…テストですか。部下からは入学するには申し分ないほどの魔力と聞いたまでですが。」

 「はぁ…、だから貴殿はいつも詰めが甘い。ほれ、これがその数値だそうだ。」

 「ん、あ、ありがとうございます、拝見いたし……んな?!」


 渡された紙には見たこともない数字が乗っていた。でたらめだ。いくら何でも捏造ではないか?そう思ったくらいだが、彼に公爵に対して言い切れるほどの度胸も自信もなかった。


 「エルメンタ王国は魔力に富み、魔法に愛された国だ。故に他の国や種族に対して高圧的な態度でも押し通して行けた。しかし、この数値は我が国の誰も比較にもならん。一番下の娘でさえ、我が国の今までの記録を軽く超えておる。」

 

 ダンカンが後ろを向き、寮の反対方向へと歩き出す。


 「…そして、あの時感じた気迫に魔力。あれはこの国の如何なる魔導士も敵わないでろう。」

 

 ダンカンは思い出していた。部屋の隅で人魚たちが我ら人間にコケにされる様子を見て楽しもうと思っていたあの夜、思い知ったのだ。あの夜の出来事は今でも事細かに覚えている。呪文もなしに魔力圧だけで空気や生命体以外の諸々の物質が凍りだし、天候が荒れたこと、玉の間にいた全員が動けなくなるほどのものだった。

 あれは人間全員が立ち向かっても勝てそうにない。その確信があったからこそ、彼女たちには敵対心を持たれないように動くべしと、ダンカンは決意したのだ。

 

 スパイトは詩のイワンのように真っ青になっていた。


 「だからだよ、スパイト。私は公爵。この国で王の次に偉く、宰相として国の為になる政治をしなければならない。判断を踏み誤ってはいけない。そうだな?」

 「はい、、、仰る通りで…!」

 「人魚姫たち及び海の国に対しての扱いを一歩間違えれば…もう半分間違えてしまったようなもんだが、この国は滅びる…!今、何も起きていないのが奇跡なのだ!この奇跡を、私は偉い者として何としてでも守らねばならん!」

 「はい…!その通りでございます!」

 「なればこそ、今からでも遅くない。彼女たちには人間の国に対して少しでも情を持ってもらわなければならない。天変地異を起こせるほどの災厄級の化物を相手しているものと心せよ。」

 「は、ははぁ…!」


 ダンカンは確かに人間以外の種族を軽んじていたが、人間として、宰相としてのプライドに固執せず物事の本質や大局を見通すや否や、そのプライドを捨てても勝ちに行く道を選ぶ泥臭さも併せ持った男だった。

 一方のスパイトは、ダンカンの話を聞いても尚、人間の貴族の一員たる自分が他種族に遜る様を想像するだけで屈辱であった。しかし、貴族のトップたるこのダンカンが言うことには決して逆らえない。ここに彼のジレンマがある。


 「こ、国王陛下は、このことについて何と…?」

 

 チラリとダンカンを見上げているとダンカンは意外にも、スパイトにとっては見慣れている何かを企んでそうな笑みを携えていた。


 「ふーむ、いい質問だなスパイト。だからこそ貴殿にだけ今話しているんだ。偉い私は国王陛下には貴殿と同じことを説明済みだ。が、どうにも分かってくださらぬ。そ・こ・で・だ!…どうだろう?我らが今後人魚姫たちに良い行いをするとしても、物事の実態を理解しようとしない陛下や貴族共は彼女たちに何かしでかすかもしれぬ。」


 ダンカンは公爵で、文官のトップである宰相である。宰相は中々黒い噂が絶えない職業だが、ダンカンにとっては実は性に合っていたとも言えよう。


 「現に、王城に滞在している間、貴族の2~3の家門が嫌がらせに彼女たちに対して遊び半分で刺客を差し向けたり、食事に毒を混ぜたりしてきおった。偉い私が目を光らせ、国王に忠言をし、後ろ盾となっておってもこれだ。」


 「そ、そんなこと…!…もし人魚が怒ればその家門だけでなく国ごと…」


 「国が乱れた時、残るのは私たちだ。結果がそうなるようにしなくては、何事も利用しなくてはな。」


 ダンカンが今まで数々のライバルや反対勢力を蹴散らせた秘訣の一つを、スパイトは垣間見た気がした。


 「スパイト・イルネイチャード。貴殿ももっと注意深く周りを見て、賢く生きるんだな。」


 学生時代から憧れていた彼は、手を振りながら夜空の始まりの方へ向かっていった。 

お嬢様学園生活編、ゆるゆるとスタートです!


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