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23.学園の見学

いつも読んでくださりありがとうございます!ブックマークしてくださった方、土下座して今泣いています!


 

 学園長曰く、この王立エルメンタ学園は初級・中級・上級によって異なる塔を持ち、それぞれがレベルにあった教育を行っているそうだ。学園では上流階級と呼ばれる貴族や裕福な家の出の民の子が多く集まっているという。立派な紳士と淑女になり王国に役に立つことがこの学園の教育の目的だと。

 そして、貴族はほとんど魔力を持っているそうで。だからこの学園は魔力の制御や魔法の使い方を教える授業にも力を入れているそうだ。


 そうこう話を聞いているうちにララ、フリーダの行く初級の塔に着いた。

 見た目はララ達と同じくらいの人間の女子が行儀を習っていたり机に向かって紙に何かを書いているのが窓から見える。

 

 学園長が指したドアはしっかりしたつくりの部屋のものだった。私たちが眺めている間もなく、学園長はドアを2度、ノックし勝手に開けた。


 ララとフリーダのクラスだからと、彼女らを先頭へ持っていき、彼女の肩をポンポンと叩いて励まし、部屋へ入れた。

 部屋には彼女たちと同じ年頃(というにはララや私たち人魚は長生き過ぎる)の人間の少女が一斉にこちらを向いていた。皆ぽかんとした表情で同じ年頃に見えるであろうララ、フリーダ、それにヘラやウータとウーテをまじまじと見ている。


 「ここは10歳から12歳までの上流階級のお子様をお預かりしている塔でして。えぇ。この塔では基本的なマナーやダンス、魔力制御についてだけでなく、他国の言語の習得にも力を入れておりまして。えぇ。」


 皆、興味深げに我らを見ている。ララやフリーダが塔自体離れて学ぶのに些か心配であったが、この様子ならもしかしたら人間は彼女たちを受け入れてくれるやもしれぬ。…いや、楽観的な予測はやめよう。人間はいつか豹変するかもしれぬ。守護魔法をかけてしばらく様子見だな。


 「教室は基本的に男子女子分けておりまして、えぇ。ダンスやマナーを学ぶときのみ男女合同でして。」


 学園長が目礼で教師に挨拶をすると同時に、部屋にいた子供たちが次々とたどたどしいお辞儀カーテシーをこちらに行った。


 「ララ、フリーダ。」


 私が優しく声をかけてやると、彼女たちもお辞儀カーテシーをし、にこりと可愛らしい笑顔で挨拶をした。


 「フリーダ・フンデルトヴァッサーです…!どうぞよろしく。」

 「ララ・フンデルトヴァッサーですわ!これから同じ学び舎で学ぶ者同士、仲良くしてくださいね。」


 よしよし、よくできたな。

 姉フィルターがかかっていると思うが、それでもよくできた挨拶だと思う…のだが、園長は気に入らないようで顔を捻じ曲げて「ふん!」と鼻を鳴らして進んでいってしまった。


 気にするな、と妹たちにアイコンタクトを取り、「邪魔したな」と一言だけ詫び入れて初級の塔の一室を去った。


 初級の塔は他にも、小さなダンスフロアやピアノなどの楽器を演奏する部屋、魔力制御の練習部屋があり、それらの部屋を見て回った。


 「では、これより中級の塔に入ります。」


 初級の塔と中級の塔は塔の中間層で橋が繋がっており、初級の塔より装飾が多いつくりになっていた。


 「へーえ、あそこで飛んで遊んでいる人間がいる~!」「ほんとだー!泳いでいるみたーい!」


 ウータとウーテは橋から右斜めに見えている広い空間を差した。確かに人間が何かに乗ってふわふわと浮いているかと思えば急降下したりと、自在に泳ぐように空を移動していた。


 「えぇ、えぇ。御覧の通り、初級の塔で魔力の制御を学んだあとは中級の塔で実践に参りまして。あそこでは飛術フライ・アーツの実技でございまして。それぞれ相性の良い魔道具オブジェクトを使用して空間を自由に動く練習をしておりまして。人魚の方にはさぞ珍しいものでしょうて。」


 鼻高く「むふん!」と鳴らした後学園長は中級の塔のある一教室へ入った。


 その教室は初級の塔のものより数倍広いダンスフロアになっており、制服でなく我らが今着ているドレスと同じものを着ている女子、王城で働いていた人間の男とは少し違う、どちらかと言えばダンカンが着ていたものに近い服を着ている。


 彼らは音楽とともに踊っていたが、こちらに気付くと次々と足を止めてこちらを見た。


 「中級の塔ではダンスを本格的に始めまして。えぇ。デビュタントのお年頃で、お城へ登城したときに恥ずかしくないように。えぇ。…サミュエル先生!」


 学園長はパンパン!と手を叩いて一人の教師を呼んだ。


 「あ!」「あぁ~!サミュエルだ~」

 「サミュエル久しぶりね!」

 「せ・ん・せ・い!先生をお付けなさいな先生を!」


 見知ったモノクルをかけた教師を見かけ、妹たちは次々と声を上げた。…そのシルクハットは部屋でもどこでも付けるのだな。


 「まぁ!サミュエル先生、今度入る転入生方をご存じで?」

 「ウィ、ウィ、マダーム。ダンカン公爵から頼まれましてね。この美しいお姫様方にはすこぉーしですが、基本的なマナーと言葉遣い等をお教えしたのですよ。」


 なぜか学園長の顔がヒクつく。


 「いやぁ、ダンカン公爵から言われた時はどうしたものかと思いましたが、蓋を開ければまあ吃驚!スパイト先生、彼女たちほど言ったことをすぐ吸収してものにできるご令嬢はいないでしょう。彼女たちの淑女としての成長は目を見張るものでした。私がお教えできることはもうあまりないくらいですわ!」 


 それを聞き、生徒たちは次々と互いに顔を見合わせ始めた。


 「あの有名なサミュエル先生に?!」

 「サミュエル先生があの綺麗な子たちをお褒めに?!滅多に褒められたことないのに。」

 「綺麗はきれいでも、別格の美しさよ!内側から光を放っているみたい。」

 「みて、彼女たちのドレス。デザインはシンプルだけど高価なシルクで出来たスカートにベルベットのガウンよ。」

 「見たことない顔だからきっと遠い国の貴族か王族なんだわ。」


 「スパイト先生?」


 サミュエルが学園長に声をかけるとスパイトと呼ばれた学園長は大きな咳ばらいをした。


 「ゴォッホン!えぇ、えぇ、さぞ彼女たちのこれからの成長が楽しみでしょうね!でも、この塔には3人のみ入ることになるので。」

 「3人?」


 サミュエルが問いただしたので、私はその3人の妹にただ、「行ってこい」とだけ目配せした。


 「先生~私たちだよ~」「ウータとウーテ、それに~」

 「ヘラよ。まさかあなたがここの先生だったとはね。」


 お辞儀カーテシーをしながらも自由奔放気味な3人に、サミュエルはむしろ嬉しそうだった。


 「オー、ウィウィ!ではではこの悪戯っイスペグレリー双子ジュモーと賢いプリンセスが私の新たな…というより引き続きの教え子になるのですね。ボン、ボン!」


 さっきから苛ついているスパイト学園長は「では、失礼する」といって、また早めに扉から出ていこうとしたが、


 「あぁ、スパイト先生!どうせ初めての学園を見せておられるのでしょう?どうです?これから一曲通しで練習するので見ていかれては?」

 「…良いでしょう。あなたたち、これが人間の社交で最も重要なダンスの授業でして、えぇ。しっかり見ていなさい。えぇ。」


 成り行きで授業の一部を見せてもらえることになった。なるほど、人魚は歌を歌魔法リートとして昇華するくらいには歌が重要であるが、人間はダンスが社交の場であるのだな。もっとも、私はここ500年滅多に歌を許可された場以外謳うことを禁じられていたが。


 生徒たちが一組ずつ男女でペアになり、同じ姿勢を取ると途端に皆真剣な顔になり、一滴の静寂が流れたと思うと3拍子のリズムで歌がない音楽が流れだした。

 海の中でも楽器はあったが、海の中と空気の中では音の聞こえ方が違うのだろうか?様々な楽器が奏でる一つの音楽は海では聞いたこともない旋律でとても興味深い。海も陸も音楽を愛する心は持っているのだな。


 そんな音楽を心地よく聞いていた姉妹に、聞き慣れていたスパルタ指導が入る。


 「リンダ!どうしてこの音楽でブリキの兵隊みたいな動きをしようと思うの?ほら、肩肘張りすぎてよ!」

 「マイク!女性は剣ではないのです!振り回すのではなく誘導、エスコートのつもりで一歩先を動いて!」


 ウータとウーテは自分たちも踊りたいとうずうずしていたが、ヘラはどちらかというと体を動かすのが苦手だったな。今の彼女にとっては人間の子らが今踊っているものは難しいのかもしれない。


 「…ほぅ、彼女は上手いな。」


 ふと、目をひく黒髪の少女がいた。踊りは特段変わったことはなく、皆と同じ動きをしているはずなのだが、自然に音楽に乗って音楽そのものを表現しているかのような軽やかな動き。たったそれだけなのだが、他の生徒には誰にもできていないことを彼女はまるで何の苦も無くやってのけているようだった。


 「ウータ、あの子の踊り好き。」「ウーテも~」


 我々の目を惹くような人間がいるとはな。あの子は覚えておこう。

 区切りの良いところで早く出たいと言わんばかりの学園長が切り上げを催促した。


 「…さぁ、もうよろしいでしょう、えぇ。十分見させていただきましたので。それに、お時間ももう本日は終わりに近づいていまして。えぇ、上級の塔は場所だけお教えしますので、後は寮を見に行きましょう。」

 「寮ってなんですか?」


 フリーダが質問をすると、学園長は得意げに言った。


 「まぁ、知らないのですか?人魚で今まで奔放に育ってきたとはいえ、それくらいの知識は入れておきたいものでして。えぇ。寮とは、あなた方のお家の代わりになる場所です。学園には他の生徒さん達と一緒に過ごされるので、えぇ。」


 そう言って、ダンスフロアから上級の塔へ移動する最中、寮には生活に必要な様々なものが用意されており、一部の上流階級の認められた生徒は世話係やお付きの侍女を共にしても良いことを説明した。


 しかし、さっきからの学園長の態度は何なんだろうか。まるで私たちのことを快く思っていないのが丸わかりではないか。まぁ、王に会ったときも人間はこちらを下に見ていたのがよくわかったし、別の種族の下に働きたくないと言っていた侍女もいたな。学園長としては別の種族がこの学園に来ること自体あまりよく思っていないのか?


 「…こちらが、今日からあなた方のお家の代わりとなる寮でして、えぇ。」


 そうこうしているうちにすぐに寮へはついた。上級の塔からすぐのところだ。なかなかに大きい建物が2つあるが、全生徒が住むには少し小さいな?


 「一般の生徒さん方は部屋割にしていまして、えぇ。大体一つの部屋に3人から4人ほど。特別生徒は1人部屋が与えられます。右が女子寮で左が男子寮。女子が男子寮へ、男子が女子寮へ行くことは固く禁じられておりまして、えぇ。ないとは思いますが、男子をたぶらかして部屋に呼び込むことがありましたら、学園を出ていってもらいますので、えぇ。」

 「ないな。」


 あり得ぬ発言に思わず声が出てしまった。

 だが、なるほど。1部屋に複数人住まわせておけば少しばかり小さな建物でもおかしくはないな。


 「…ゴホン、寮の1階は朝食や夕食を頂く食堂、2階は初級の塔の生徒さんと寮母の部屋、3階は中級の塔の生徒さん、4階は上級の塔の生徒さん及び特別生徒さんのお部屋です。あなた方は王族の者と聞きましたが、まぁ早く人間の流儀に慣れてもらうためにも、一般生徒と同じ部屋がいいと思いまして、えぇ。一般生徒の空いている部屋にそれぞれ入りますので、えぇ。」


 寮の中を進みながら説明する中、聞き逃せない言葉が出た。


 「お姉様たちと一緒に過ごせないの?」

 

 ララが不安そうに言うと、大げさに驚いたような声を学園長は上げた。

 

 「まぁまぁまぁ!!お姉様がいなければ何もできないということはないでしょう?!こちらとしても、人間でもない者を特別生徒とするわけにも行けないと思いまして、えぇ。まさかとは言いませんが、今まで一人で寝起きしたことないとでも?」


 「「「「「「ないでーす。」」」」」」


 母親である側室からはほとんど放っておかれ、父親は末妹に構ってばかりの妹たちは私とずっと過ごすことになったのだったが…そういえば500年間1度も別々で眠ったことはなかったな。大体私の部屋に入って固まって寝ていた。


 あ、学園長引いているな。群れて寝起きするくらい不思議ではないだろうに。

 だが、「人間でもない者」という言い方に、彼の考え方の根底が見えた気がした。

 やはり、人間は人間以外の者を見下すものが多い。


 「どうやら常識が結構違うようで、えぇ。…どうしても一緒にというのであれば、ダンカン公爵に特別室を用意するようお願いでもなさったらどうですかな?えぇ?あの公爵がそのような我儘を聞いたらどんなことを言うか…」


 「別に良いではないですかな?」


 また、聞き慣れた声と気配が近づいてきた。今度はサミュエルでなくダンカンだ。

 

 「…こ、公爵閣下!何故あなたのような方がここに?!」

 「いや、今日は人魚姫たちの初登園と聞いてね。偉い私は畏れ多くも国王陛下から直々に彼女たちの監督、実質的な保護者となっていてな。そうであれば保護者が初登園で心配になり来てもおかしくないという訳だ。」


 相変わらず自分を「偉い」と誇示するダンカンは私たちの保護者のつもりらしい。


 「ダンカンだ~!」

 「ダンカンさん…!」

 「今日は何のおやつ持ってきてくれたの~?」

 「おぉ~よしよし、ウーテにフリーダにウータ。今日はおやつを持ってきたのではなく、お前さんたちの様子を偉い私が直接様子見に来ただけだ。」

 「「「なんだ~」」」

 

 妹たちは密かに彼に餌付けされていたようで懐いているな…。私も人間は基本的に嫌いだし憎んでいるが、彼のことは実はあまりもう嫌ってはいない。彼は私たちの手助けをしてくれるようなので、見守っておく。


 一通り妹たちに揉みくちゃにされた後、ダンカンはズレた頭髪を戻しながら学園長に向き直った。

 

 「…で、スパイト学園長。この偉い私はこう思うのです。人間ではないとはいえ、一国の王族を扱うのです。そこにはきちっと敬意を表し、特別生徒扱いで一室ずつ与えなければ。聞けば特別生徒室は同じ階で行き来しやすいとか。姫たちが安心して学園を送れるならこれ程優先すべきものはないでしょう。如何かな?」


 ダンカンがにらみを効かせた為か、学園長の鼻はすっかり萎んでいて足元もおぼつかなくなっていた。


 「も、もちろんですとも公爵閣下。仰せのままに。」

 「それから、専属の女給が一人ずつ、今日一緒に来ている。その者たちの部屋も用意することだ。」

 「は、はい。」

 「それから!」

 「ま、まだ何か…?!」

 「彼女たちに必要なものがあればすべてこのダンカン・ダンヴィル公爵の名宛てに送ることだ。」


 ひょっとすると、ダンカンは少しだけいいやつなのかもしれない。

 

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