19.人間の城内で1か月
いつも読んでくださりありがとうございます。
王城に入ったら、四角い部屋(なかなかに広い)に通され、日が7回くらい登ったり沈んだりした。これがなかなか新鮮で妹たちがはしゃいでいた。
ノッケンメーア王国はかなり深い海の底にあり、日の光はあまり関係なく魔力の灯やホタルサンゴ、妖光サンゴの光で常にちょうどよい明るさが保たれていた。この明るくなったり暗くなったりする変化はとても面白い。
それに、日が沈んだ後は月が昇る。この月も久しぶりにゆっくりと見ることができたが、模様があってなかなか観察するのが楽しい。妹たち、特にララは私の色と似ているからと、この月をいたく気に入ったようだ。
妹たちは海の上に出るのがこれが初めてだ。見るものすべてが珍しく、日の光さえ知らなかったものだから毎日がとても楽しそうで何よりだ。
そして人間が一切来ない!それが一番良いことであった。私が少しの間心穏やかに過ごすことができる。
日がな一日妹やアメリアたちと日が動いているのを見たり、城下の人間を見下ろしたり、たまに訪れる飛ぶ小さきもの(確か鳥といっていたか)と戯れていたりしたらあっという間に時が経っていたようだ。
とはいえ、ぼんやりと過ごさず少しの情報も無駄にはしたくないのだ。
人間以外の種族がいないかどうか、その種族がここではどのように扱われているかを窓から観察していた。
ただ、この国には他の種族はほとんどいないのかとんと見かけぬ。偶に見かけたとてボロの布を纏っていたり、鎖に繋がれていたりしており、陸について何も知らない私でもどのような扱いを受けているのかは分かった。他種族に対してかのような扱いをする国であれば、いくら王族であるとて私たち人魚に対する水あたりも厳しいものとなると考えられよう。…やはり人間は傲慢だ。油断はならない。
ここでの言葉もまだ聞き慣れぬものも多いため、城下町の民たちが使っている日常会話を盗み聞きしながら我々の言葉と紐づけていった。このような観察や言語習得は王女教育としてしみついたものであるから妹たちもさほど苦労なく人間の言葉を覚えれているようだ。
そうしてとうとう私たちもこの部屋の中からの陸の世界の観察を堪能しきったころ、部屋を仕切る『ドア』というモノを叩く音が聞こえ、一人の人間の男が現れた。
『大変お待たせしてしまい申し訳ございません。準備が整いましたので国王陛下にご挨拶を。あなた方の今後の詳細をそこでお知らせします。』
ふむ、人魚の国とは言え一国の王女に対して挨拶は一応しておこうということか。国賓且つ留学生とはいえ、人間にとっては人質なのだから私たちに選択権はないという言い方、特に態度が何かしら癪に障るがここは我慢しておこう。
『案内せよ。』
その一言だけ言うと、私たちはせっかく友達となった鳥とリスたちを名残惜しく部屋に残してその偉そうな男について行った。
道すがら男は聞いてもいないのにぺらぺらと自分がいかに偉いか、国王に気に入られているかを話し出した。なにやらこの国には軍と政治を行う行政部に分かれており、その両方とも名誉ある高貴な貴族のみがトップとなりえるそうだ。そして、その行政部のトップこそこの男ダンカン・ダンヴィル公爵だとかなんとか。文官で賢くて偉くてとかなんとか。
正直、全く興味ない。
興味はないが、情報は多いほど後で何かに使えるかもしれぬから大人しく聞いておこう。
大人しく聞いていたのに、何か不満があるのかこの男、舌打ちをした後今度は私たちに話を聞いてきた。
『それはそうと、長旅の後一つの客間に8人も、一か月も放置されていたとは気が付かず大変すみませんでした。』
何だそんなことか。別に1か月など私たちにとっては取るに足らぬ時だし、一人一人別々に部屋を割り当てていたら寂しさのあまり妹たちもよりうるさかったことだろう。
特段気に障る対応をされたとは思っていないが。
私が何かものを言う前に続けざまに男が言う。
『それに、客間が使われているとは知らず食事もお出しできていなかったとは。扉の前の衛兵が言っていました。お腹が空きすぎて夜も眠れていなかったようで。数日で泣き崩れて部屋を出てくると思っていたのにいやはや…1か月もどうやって生き延びたのやら…。人質と聞いていたとはいえ貴方達は王族で、名誉あるエルメンタ学園の特待の留学生になるとか。一応は丁寧な対応をしようとは思っていたんですよ?それがここまで酷い対応を行っていたとは思ってもみませんでした!…この偉いわたくしが自ら謝りますよ、えぇ。』
別に1か月なにも食べなくても生きていけるだろう。なに、人間は毎日何か食べないと死ぬのか?
私が白けた気持ちになっているとヘラが後ろで噴き出した。
『…っ!なんです!?偉い私が謝ると言っているのに笑いが起こるなど!伝説の種族と言っても、人魚の国は礼儀がない、野蛮な国というのがここでわかるものですかね?』
するとヘラが流暢な人間の言葉で応答しだした。そう、下町の人間の観察をするうちに覚えた人間の言葉が早速役に立つものだ。高貴な身分の言葉はこれから覚えればどうとでもなるだろう。
『いや、もう本当に、温度感が違いすぎて。面白くて思わず笑ってしまったわ。』
男が訳の分からない顔をしていたようなので、ヘラは続けて説明した。
『エリュシオネーお姉様、私たちの1番上のこのお方ね、お姉様が無表情な顔を更に無にしたような顔をしているのは別にあなたたちの嫌がらせに腹が立っているわけでも、嘆いているわけでもないわけ。知ってるか分かんないけど、私たちはあなたたちと生きている時間が違う。1か月?という間は私たちにとってとても短いの。食事も必要なければ、眠ることもない、なんてことない時間なの。』
『なっ…!』
『あなたたちがどんなつもりで嫌がらせしたつもりかは知らないけれど、今度からはこちらのことを少し調べてみたらどう?』
『…!…ふん、確かに、ここは「お互い」に知らない部分も多かったということで。では、もう少しで玉間ですので。』
ヘラはしっかりしているのと同じく、はっきり、堂々としたことを好む性格だからな。この人間のねちっこい言葉に我慢ならんかったのだろうがここは後で褒めておくか。
ちなみに後ろ他姉妹たちはフリーダを覗き興味なさげにあくびするものまでいる。フリーダだけはこちらと人間を心配気に見ていた。
おい、私もこの男の退屈な話にあくび一つもせず我慢して聞いていたのだから少しは聞いているフリだけでもしろ…。
『人魚の国からの王女7名、入ります!』
今まで通ってきたどの『ドア』よりも派手な飾りをつけて大きな『ドア』の前に立っている衛兵かがそう声を張り上げた。
1か月飲まず食わずの生活は海ではざらにありました。
ちなみに汚れは水魔法の応用で浄化魔法を使用していたので無問題です。
人間は人魚を伝説といっても所詮半分は魚と、下に見ているのでこういう生活基準の違いや彼女たちについて何も調べていなかったのです。




