表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/50

0.プロローグ

「元人間の徒然天狗紀行」と並行してこの作品書いちゃいました。

ハイファンタジーです。よろしくお願いいたします。


 深い海の底で、華やかに彩られ、光り輝く宮殿に次々と人魚が集まっていた。

 

 ノッケンメーア王国は大陸を囲む広大な海の国。海の女神に祝福され、この世界で最も魔力の高い種族の一つである人魚の国である。様々な海があり、それぞれの地方海は領主が治め、王は、その総てを守っていた。ここ宮殿の場所は中央領ハオプトシュタットにあり、サンゴの森に囲まれ、白い砂が太陽の光に反射してキラキラ光る澄んだ場所であった。


 今日はこの国で重大な発表があると、王であるディアークが海中の人魚を招待したのだ。各地方海から集められた珍しくて美味なる宴の肴を食べられると、普段は自領でのんびりと歌って過ごすことが好きな人魚たちは今回はこぞって集まってきている。


 しかし、それと同じくらい彼らが楽しみにしているのは人魚姫を間近で見ることであった。この色とりどりの人魚たちを治めるディアーク王には、8人の美しい娘がいる。彼女たちの美しい姿と歌をその目、耳に一瞬でも焼き付けようとする人魚も大勢いた。


 エメラルドのような優美な色と鰭を持ち大人びた魅力を持つ二の姫、テア

 サファイア色のはつらつとした輝きを持つ悪戯好きの三の姫、ウータ

 アクアマリンのような清らかな髪に天真爛漫な笑顔で皆に好かれる四の姫、ウーテ

 インペリアルトパーズ色の華やかな色と知的な表情が周りを圧倒させる後の姫、ヘラ

 カーネリアン色の少し人見知りで、恥ずかしがりやな六の姫、フリーダ

 ルビーのようなあでやかな髪と飾り鰭が目を惹く七の姫、ララ


 姫君たちはほら貝の高らかなファンファーレとともに現れ、彼女たちの持ち前の歌を披露し、大真珠貝の座につく。


 1回目のファンファーレとともに、エメラルド色の美しい姫が優雅な舞とともに現れた。丁寧に纏められた髪は海では珍しく、女性の人魚たちはたちまち真似しようと必死にテア姫の髪型を眺める。テア姫が歌う間、近くにあった黄昏コンブが大きくなり、テア姫を乗せてゆらゆらと揺れるのを、人魚たちはテア姫の魔力の高さと評し羨望の目で見つめていた。


 2回目のファンファーレではアクアマリン色とサファイア色の双子の姫が仲良く手を合わせて現れた。姫たちは、自分たちが大広間の中央まで行く間、海の一部を氷の結晶に変えたり、海の真珠を水流でカーテンのように漂わせたり、思い思いの魔法で人魚たちを楽しませた。双子の歌はそれはそれは楽し気なメロディで、思わず人魚たちも一緒に歌いそうになっていた。 

 

 3回目のファンファーレに対し、トパーズ色の姫は速やかに中央まで来たと思うと、手に持っていた古書を開き、歌いながらその書を読みだした。その文字は姫の周りをまわり、辺りを照らした後に古書に戻っていく。人魚の民たちはヘラ姫の賢さと歌に換えるその技術に感嘆した。


 4回目のファンファーレで、最初はすぐに姫は現れなかった。カーネリアン色に輝く姫が、カクレクマノミのようにはじめは隠れていたからだ。が、もう一度ファンファーレを鳴らす前に彼女は意を決したようにその身を現し、歌いながら大広間の中央まで来た。可愛らしいその姿に人魚の民たちは温かい目を送った。


 5回目のファンファーレはルビー色のまだ幼気な雰囲気が残る可憐な姫を呼び出した。艶やかで豊かなルビーの髪と同じ色の立派な飾り鰭付きの尾ひれは見る者を魅了した。大広間の中央まで軽やかに泳ぐと、人魚たちはたくさんの拍手を送り、七の姫ララは持ち前の歌を歌って挨拶の代わりとした。


 それぞれの姫が呼ばれ、人魚の民たちは歓声と拍手を送り、それぞれの姫が自慢の歌を魔法とともに歌う。人魚姫たちはそれはそれはとても美しい為、民たちにとても親しまれ、愛されていた。一人の姫を除いては。


 「2人の姫がいないな」


 一人の人魚が呟く。


 「八の姫様、早く出てこないかな」

 「一の姫様は今日はお休みだったらいいのに…」

 「だよねぇ、あの姫様見たら、私怖くって寒気がしちゃう!」


 ざわざわとしだす民衆を前に、震えたファンファーレが鳴り響く。


 「い、一の姫、エリュシオネー様のおなーりー…!」


 先ほどまで拍手と返礼の水流と歌で溢れていた大広間が、しん、と静まり返る。


 奥から透き通るような月白の髪に、オパールのような輝きを持った白い尾ひれの美しい姫が、静かに入ってきた。

 月明かりのような白さは、青い蒼い海の中で一層浮かぶ。

 彼女の瞼から開かれた瞳は金色に輝き、白く輝く彼女の中から鋭い光を放っているようだった。


 「ひ、ひぃ!」

 「い、一の姫様がいらっしゃった…!」


 先ほどまで姫の美しさに歓声を上げ、その歌声に酔いしれていた人魚の民たちが一斉に顔を蒼くしはじめ、何人かの人魚はひそひそと耳打ちしだした。

 

 「見ろ、「災禍の姫」だ。いつもはお出ましになられないのに、今回は来てしまった…!」

 「しっ!聞こえてしまったらどうするんだ。彼女の感情を刺激すればまた災禍をもたらしてしまうではないか?!」

 「見てごらんよ。他の王女様はあんなにはっきりした綺麗な色を持っているのに、エリュシオネー様は真っ白よ。不吉の象徴に違いない。」


 ひそひそ、ひそひそ。

 恐れられている一の姫、エリュシオネー姫は構わず自身の歌を歌おうとする。すると民衆の何人かが一斉に耳を塞ぎ始めた。それを横目に見たエリュシオネー姫は歌うのを止め、貝座につこうとした。しかし、


 「そこの者、お姉様の歌を拒絶するか?」


 エメラルド色の二の姫、テアの声に威圧の魔力が乗る。その力の強さにあらがえる民はいなかった。


 「正当な王位継承者の挨拶の歌をこの宮殿に来て聞かないとは、無礼者ね」


 トパーズ色の五の姫、ヘラが腕を組み機嫌を害した表情で言う。

 

 ここまで言われて謝らない民はいなかった。皆、ひれ伏して許しを請い、エリュシオネー姫の歌を再度願った。


 歌が始まると辺りに金銀の粒子が舞い始め、宮殿一帯を祝福するように宮殿上に灯りを灯した。先ほどの6人の姫は座ったまま、エリュシオネーの歌に合わせて合唱しだす。

 とても美しい歌声に幻想的な情景ではあるものの、エリュシオネー姫のことを恐れる者が多く、また歌う前の一波乱の為かまばらな拍手ばかりで、先ほどまでの歓声には程遠い。


 エリュシオネー姫は、その縦長の瞳孔を持った鋭い金の瞳でちらりと先ほど耳を塞いだ民たちの方を見た。


 「っひ!こっちに気付いてらっしゃる!」

 「大変だ!呪われてしまう!」

 「後でご挨拶に伺ってご機嫌を直さねば…。」


 けれども、エリュシオネー姫はこんなことは慣れっこなのか、自分の持ち歌を歌った後は何事もなかったかのように自分の分の貝座へと表情を変えずに向かってしまった。

 

 「お姉様ったら、あ~んなに影口言われているのに、何にも思わないんですの?!いっそのこと睨みつけて術でもかけてやればいいのに。」


 二の姫、テアは憤る。


 「そうそう、姉さんの悪口言うやつ、皆魔法でやっつけちゃえばいいのにー。」「ぶっ飛ばす~?私なら、あーして~、こーして~…」


 少々物騒な発想をする双子の三、四の姫ウータ、ウーテ。


 「確かに民は無礼だけど、今ここでそんなに騒いだらダメ。お城ではもっとひどい奴にも耐えてきてるでしょ。公式の場だから、我慢我慢。姉様が優しいっていうのはあたしたちが知ってればそれでいいのよ。」


 五の姫、ヘラはしっかり者らしく冷静に状況を見る。


 「そ、そういえば、シャルロッテはどうしたんでしょうか…?ここにまだ来ないですけど…。」


 六の姫、フリーダは気が弱い。


 「あの子は別で「特別に」呼ばれるのでしょう。いつものお父様の贔屓ですわよきっと!」


 七の姫、ララは拗ねている。


 それぞれ好き勝手言っているが、エリュシオネー姫は依然無表情のまま、それぞれの妹たちの頭に手を乗せた後自分の尾ひれと同じ色の真珠貝の椅子、貝座に腰かけた。

 

 頭を撫でられた妹たちは、途端に大人しくなる。皆、一番上の姉が大好きなのだ。


 そうして姉妹たちが落ち着き、民たちも八の姫が中々出てこないことに騒ぎ出した時、一際大きなファンファーレが大広間に高く響き渡る。


 「八の姫、もとい、次期王位継承者であらせられる、シャルロッテ姫のおなーーーりーー!!」


 

 「「「「「「「…は?」」」」」」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] エリュシオネー姫ちゃん可哀そう(ノД`)・゜・。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ