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16.末端騎士エルンストの憂鬱

いつも読んでくださりありがとうございます。

他者視点が続きすみません。

今回はエリュシオネーからは空気だった人魚の護衛騎士(一応いたんですよ)のお話です。

彼は後々海で色々働いてもらおうと思います。


 王国きっての腕自慢とかつて自ら謳い、水中王都の西の棲家を中心に暴れまわっていたエルンストは王宮の護衛騎士の一人に喧嘩を売ったことでその生活は大きく変わった。

 幼くして親を亡くし、身寄りもなかった彼は片っ端から食料や何か財産を持ってそうな人魚に喧嘩を吹っかけてはその者の所持品を奪うなどして生活していた。同じような境遇のより年下の子供たちもおり、彼らの兄的存在であったエルンストはそうして彼らを養い、生き延びていたのだ。


 彼は喧嘩を売った護衛騎士、ディ―ターにコテンパンにやられたが、その後エルンストを見込んだその護衛騎士の推薦のもと彼自身も護衛騎士となった。

 彼が護衛騎士の末端になったことで子供たちの生活も保証され、「無頼漢エルンスト」と呼ばれ嫌われ者だった彼も今や住民から感謝される立場になった。


 エルンストは自分を引き入れてくれたディ―ターと彼が仕える王に恩義を感じ、真面目によく働いた。そんな彼だからこそ、年齢は非常に若かったにも関わらずある極秘任務に呼び出されたのだ。


 「一の姫の目付け役をせよ。表向きとしては陸までの護送、秘密裏に彼の姫君に監視・追跡魔法をかけてアデリナ様の水晶と連携せよ。」


 これが彼の任務であった。王宮に勤めると王族同士の関係の噂は嫌でも耳に入る。ディアーク王がぞっこんだという第1側室のアデリナ様が自分の娘以外の姫君を嫌っており、特に一の姫エリュシオネー王女を嫌忌していたことは王宮内では誰もが知っていた。


 だが、エルンストに躊躇いは何もなかった。自分はただ従順に命令を遂行するだけでいい、誰が次期王などと、正妃だの側室だの、自分には関係のないことで目の前の子供たちが無事なら主は王であろうがアデリナであろうが誰でも良いという気持ちもあった。


 エリュシオネー王女の噂は荒くれものだった頃からよく聞いていた。500年前に感情が高ぶったことで大嵐を海中に巻き起こし、王国中の海をも荒れ果てさせた恐ろしい「災厄の姫」と。

 実際に会ったことは末端の彼には幾度も無かったが、そんな噂があるとは信じられないくらいに無表情且つ寡黙なお方だった。身のこなしも気品があり、とても噂通りの方には見えなかった。

 が、ただそれだけだ。

 エルンストはだからといって王宮のドロドロとした関係には突っ込もうとは思えなかったため今回の任務について王女に対して思うところなど特になく遂行するのみだと思っていたのだ。


 …そう、思っていたのだ。

 7人の麗しい姫君とその侍女の護衛もそろそろ終わりにかかり、他の護送兵の目を盗んでいざ追跡魔法・監視魔法をエリュシオネー王女にかけようとしたその時、なんとエリュシオネー王女の腕輪が光ったかと思えば、人間に変化し始めたではないか。


 みるみる剥がれる上半身の細かい鱗は、海に舞い散り反射した光がまるで神からの祝福をエリュシオネー王女が受け取っているようであった。エリュシオネー王女の髪は特殊で、彼女の髪自体が光り輝いているため神々しさに余計に拍車をかけた。


 尾ひれが裂け脚が2つに変化していく様は人魚が人の形をした神に進化したような、そんなありもしない幻想的な光景を目の前で見せられたエルンスト。

彼はただあんぐりと口を開け、棒立ち泳ぎするしかなかった。


 気が付いたときには他の姫君や侍女もつぎつぎと変化していった。急いでエリュシオネー王女に魔法を…と思ったが、途端に冷汗と悪寒が走る。彼女を覆っている魔力の密度が濃すぎて如何なる魔法も通用する気がしないのだ。

 

 (ダメだ…自分は任務を全うすることができない。)

 彼は即座に思った。


 何故今まで彼女の高魔力に気づかなかったのか。この魔力は今まで自分が会ったどの人魚とも比べ物にならない。下手すると王でさえも上回っているだろうか。かの姫の魔力は他の妹姫君たちの何倍も高く、濃い。その場にいるだけで重圧が体に押しかかるようだ。


 他の兵たちも魔力の高さを感じている者も数名いるようだ。気づいていない者は海に生き抜くにはあまりにも鈍すぎる。


 なぜ今まで彼女のことを災厄の姫と忌避の対象として見る余裕があったのだろう?

 なぜこれほどの強い魔力を持った方を差し置いて末姫を次期王にするという愚行を我々は疑いもしなかったのだろう?

 なぜ国王はこれほどのお方を退けてまで末姫を次期王に指名したのか?

 なぜ自身を含め誰もそれに疑問を持たなかったのか?

 なぜ…何故…

 数えきれないほどの疑問が浮かぶ。だが頭の中は嫌に冷めていた。


 我々人魚は元々魔力が高く、強い者に従ったことが国の始まりだ。だからこの国は、人魚は富も魑魅魍魎も混在する大海原を生き延びてこれた。魔力が高い種族であり、不老と呼ばれる人魚でも多くの怪物級の海魔やその他危険生物が共存する弱肉強食の海では、強くなければ長生きできない。だから、強い者はそれだけで国の宝だ。貴族や王という制度も、強さの序列から始まっているのものだから。


 我々は、もしかしたらとてつもない宝をおめおめと手放すことに、次の王に相応しい者を…海から二度と手の届かないところへ。

 しかもそのような崇高な存在を人間の人質となることに何の躊躇もなく送ったのだ。いかに今後の人魚の国が悲惨な目に合おうとも抵抗できはしないのだ。

 頭が冷めた瞬間に気づきたくなかった恐ろしい事実が目の前に来る。

 現在のこの国は、危ない状況にあるということを。

 

 誰か…そうだ、ディ―ター様にまずは相談してみよう。

 早く皆の目を覚まさなければ。次期王でなくとも、本当にこの国に必要な方が遠くへ行ってしまわれたと。その原因は我々にあるのだと。

 任務は失敗だ。こんなこと、できるわけがないししたくもない!


 末端護衛騎士エルンストは陸へ向かって泳いでいく姫君たちを追うこともせず、ただただ頭を抱えてその場に立ち尽くし、同じように他の護送兵も呆然と彼女たちの後姿を見送るだけだったのだった。

海には様々な生き物がいます。

知的生物として代表的なのは人魚ですが、実は「魚人」というのもあったりします。

人魚:上半身人間で下半身が魚の形態の保有魔力が平均的に高い種族。非常に長生き。ドロテアのようなタコ型やアデリナのようなサメ型、エイ型やエビ型の人魚もいる。

魚人:上半身魚で下半身人間の形態。魚の頭なので言葉は話さず、また知能も低い種族。人魚とは仲良い時と悪い時があります。


その他今回出てきた「海魔」には以下のようなものがあります。

肉食サンゴ:巨大サンゴのような見た目だけど体のいたるところが口で触れた生物を片っ端から噛みつき食べます。

クラーケン:イカの足にタコの頭、口は鋭く大きく、魔法抵抗のある巨大軟体生物。はぐれて1匹になった人魚はよく食べられる。

キラーホエール:黒く輝く巨大な体とは想像つかないほど素早く泳ぎ、狙った獲物は一撃でかみ砕く顎と歯を持つ殺人シャチ。魔法抵抗はもちろん、高い知能があり、一部は簡単な魔法を使ったりもする。実はディリーとフィンはこの生き物なのだが、シルヴィアは未だただの賢いイルカと思っている。

ウンフォルフシュタンディッヒ:足は甲殻類を彷彿とさせ、体はサメのようにざらざらと分厚い皮膚と鱗を持ち、その牙と尾・鰭には猛毒がある一つ目の巨大サソリである。非常に独特な見た目をしており、深海で出くわしたら最後、音もなく近寄りその頑丈な牙で魔力障壁をも突き抜けて食らいついてくる。

怪物級の海魔で、大量発生しないよう時々軍が討伐に向かっている。

カリュブーディス:固い鱗に覆われた古の海魔。今は眠り地形の一部となっている。その口でする呼吸は吸うと大海渦を呼び、吐くと周囲に津波を巻き起こす。

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