16.いざ上陸
いつも読んでくださりありがとうございます。
人間からみた彼女たちはどのように見えるのでしょう?
陸からコーネリウスというあの人間の王子の使いが迎えに来たという知らせが届き、護送という名の監視用のシュリッテンで浅瀬まで送られた。周りは護衛騎士たちで固められている。逃げはしないのに…。
いつも私のシュリッテンを引いてくれているディリーとフィンは私と離れることを非常に嫌がり、暴れだし始めたので小さくなってついて行くことを許可した。陸に上がることを説明しても大丈夫との一点張りだったので、もう勝手にしろという要領で連れてきたのだ。一体どういう方法で陸に上がるつもりなのやら…。
私たちがこの国を発つということで、宮殿の者はほとんどせいせいするといった表情であった。
「災禍の姫がようやく出ていった!」
「恐ろしい存在がようやくいなくなった!喜べ!民たちよ!」
「うおー!国王陛下万歳!」
「シャルロッテ姫万歳!」
その中に、シャルロッテやアデリナがいた。彼らは勝ち誇った顔でこちらを見ていたが、お父様はいなかった。
「ふん、最後まで嫌な奴ら。シオン姉様がどれだけこの国の為に尽くそうと努力してきたかも知らないで。」
「ヘラ、もういいんだ。」
「だって、私だったら悔しい。今まで頑張ってきたのに、厄介払いみたいな扱いをされるなんて…。例え意図があって今は陸に行くとしても、絶対何か言い返したり、ほんのちょっとでも仕返しをしてやりたい。」
「ヘラ…」
そうだろうな。普通であればそう思うのも無理はないだろう。だが、ずっと疎まれていたからだろうか、お父様からの関心を持つことを諦めたからだろうか、それとも、感情を表に出すことを我慢し続けていたせいだろうか…もうそんな感情を抱いているかどうかも分からない。
「あ、姉さん見て―。」「あっちはなんか違う雰囲気みたいだよー。」
宮外の街の方を見やると、古株のじいや衆や少なくない民たち、宮殿の雑用をしている魚たちがいた。どうやら、我らを心配してくれている者たちもいるようだな。
「一の姫様、災禍の姫って言われてて怖かったけど…でも…」
「あんなに一方的に追い出されるなんてかわいそう」
「他の姫様方も自ら付いて行くなんて…ひょっとしたら一の姫様は悪くないのかも…」
「一の姫様!儂らは姫様が政務でもノッケンメーア王国を支えてきたことをよく知っておりますぞ!」
「今まで、何もしてやれず、汚名を払拭させることもできず、かたじけないわい。」
「必ず、ここへ戻ってきてくだされ~!」
「一の姫様がいなければ我らの負担が…」
「一の姫様~!」「「「姫様~!」」」
…全く、今まで散々恐れ避けていたくせに、調子のよいことを言ってくれる。
「全くだねー」「確かにー調子よすぎー」
だが、別に悪い気はしない。今までとは、ここ400年とは異なる視線を向けられていることに。
「姉さん優しー」「時々優しすぎー」
私はどんなに宮殿の多くが愚かであろうとシャルロッテやアデリナの傘下になろうと、この民たちがいる限りこの国を見捨てることはない。なんだかんだ言って、私は次期国王として、この国を愛してきた。例え畏れられようと、避けられようと、この国を守る。それは変わらぬ。
そう、心に誓って街から離れていった。
浅瀬に近づくにつれ、懐かしき日の光を強く感じてきた。妹たちにとっては初めてだろう。まぶしさのあまり目を細めていた。
浅瀬につき、浜に上がる前に変化する必要があるのだが、はじめに私が試すこととした。アメリアや妹たちは猛反対したが、ドロテアの作った秘薬を一番に試したいと言うと妹たちは渋々了承した。アメリアはそれでも引き下がらなかったが、変化するとき何か異変があればすぐ対応してくれるよう頼むことで強引に納得させた。
魔力を腕輪に流し込む、そのキラキラ光る白銀のオパールが更に輝いた瞬間、その効果はたちまち現れた。
「うっ…あ…!」
まず足が引き裂かれるように痛み、思わず声を上げるほどだ。立ち泳ぎがおぼつかなくなったと思ったら鰭が2本に増えて人間の脚そっくりのものになった。月光色の鱗が一枚一枚剥がれ落ちるように舞い散り、中から同じような白さの脚が2本、現れたのだ。
腕や背中についていた鰭も無くなり、鱗もほとんどない皮の肢体に変化した。なんだか防御力が心もとない皮だな。
顔や腕の部分の細やかで透明な鱗が陽の光に反射して煌めきながら海の中に散って行った。
ついで顔横にあった鰓が閉じてゆき、息ができなくなった。急いで空気を吸わねばという感覚が襲い、慌てて水面へと顔を出した。はじめのうちは胸の痛みが伴ったが、慣れれば鰓があった時と同じように息ができた。
この間約1分ほどであったが、変化を終えて周囲を見るとアメリアや妹たち、監視の目付け役までも呆然とこちらを見ているようであった。痛みのあまり少し声を上げてしまって、妹たちを怖気づかせてしまってはいないだろうか?
「アメリア、妹たちよ、大丈夫か?その、少し痛みはあったがこのように問題なく変化できた。不安はあるだろうが、安心して続いてほしい。」
鼓舞するように彼女たちに呼びかけると、アメリアが最初に口を開いた。
「…美しいです、姫様。」
…ん?
「変化する様はとても幻想的で、まるで伝承の女神さまが降臨なさったかと見違うほどです。姫様のお美しい鱗の一つ一つが光り輝いて、マントのように覆った後に出てきたお姿は人間の姿に似てはいますが神々しさを纏っておいでです。この光景は一生忘れとうございませんわ。」
…そんなに褒めるような光景であったか?私はただあまりの痛さに少し声を上げてしまい、更に少し蹲ってしまったためてっきりみっともない姿を晒して呆れるか変化薬を飲むことに躊躇いが増してしまったかと思ったのだが。
「お姉様!とっても素敵でしたわ!お姉様の今の姿はきっとどの人間の姿よりも美しいのですわ!やっぱりお姉様は何をしても美しくて輝いていて、神秘的な気持ちを皆に抱かせるのですわ~!」
あまり、変化することについては不安はなさそうだな?
「では、これから同じことを皆にさせるが、躊躇いはないな?」
「姉様と同じになれるのなら、何も後悔することはないです!」
念のための質問に食い気味で応えるフリーダ。その後ろでは、皆一様に頷いていた。
ただ、先ほど感じたように変化中多少痛みが生じる。中には誰かが溺れてしまうかもしれないと、少し心配して彼女たちを見ていたが、苦悶した表情を浮かべながらも皆ちゃんと水面に向かって泳ぎ、空気を確保しながら変化を完了させていた。
…と思ったらヘラは上手く脚で水を蹴れないのか、少しずつ沈んでいったためアメリアが抱きかかえる形になった。
そのほかを見ると、愛らしさをそのままにした人間姿の妹たちが自らの腕を、足を、お互いの顔を触りあって人間に変化したことを面白がるように確かめていた。少なくとも、溺れるそぶりはヘラしかいなかったため、安心だ。
「お姉様、これが人間という種族が感じる海ですのね!なんだかいつもより浮かびやすいですわ。」
テアは大丈夫そうだ。上手く適応して無理なく水面に浮かべているようだ。自由双子組は早速二本足で遊んでいるようだから大丈夫だろう。フリーダとララはというと、
「ちょっとララ!いつまでも落ち込まないで、ね?ほら、あなたの自慢の美しい髪と私たちと同じ瞳は変わらないですよ。」
「で、でもフリーダお姉様、あのキラキラ光る私たちの鰭がぁ、鱗がぁ…。」
どうやらララは自分の姿を余程大切にしていたらしいが、人間の姿に変化すると聞いたときにこうなることを予想できなかったのか?まぁ、フリーダがなんとか相手してくれるだろう。
「ララ、人魚の姿に再び戻れないわけではない。大丈夫そうであるならそろそろ行くぞ。早いところ陸に上がらねばこの薬の副作用でまた人魚に戻ってしまう。ドロテア殿によれば、完全に人間に変化した後少し時間がたったのち、再び水を被れば人魚に戻るとのことだ。そうなる前に、さぁ早く。」
「じゃ、浜まで競争しよー」「誰が一番早いか、よーいどーん!」
双子組はまた勝手に遊びを始めたようだが、ちょうどよい、後を追うのはフリーダとララに任せ、ヘラとテア、アメリアと私で海からの追跡魔法を警戒しながら進んでいった。
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エルメンタ帝国第2王子のコーネリウス殿下の直属舞台である王立第2騎士団の第4隊は、主であるコーネリウスから直々の命令を下されていた。それは、今後表向きは留学に来た客人として、そして裏向きには人質として、迎え入れる伝説の種族人魚の王女7人を浜で迎え、城まで無事に護送するという役割を仰せつかっていた。
人魚、それはエルメンタ帝国はおろか大陸中の国でも書籍上にしか存在が記されておらず、長年海へ探索に行っても見つからなかった伝説上の生き物とされる種族であった。多くの書物には、そのしなやかな上半身は見た目こそ人間に似ているものの、細やかな鱗で覆われ、人魚によってさまざまな形の鰭を持ち、その歌声は多くの人を惑わす不思議な魔力を帯びているという不老の種族だそうな。
彼らの直属の上司であるコーネリウス殿下の母君の母国パヴァーヌ王国から送られてきたという、一番古い歴史書にも人魚について言及がされていたことをコーネリウス殿下が教えてくれた。
第4隊隊長ジェームスは今、その歴史書が書いてあることを思い出していた。
人魚はその昔、我がエルメンタ帝国が建国されるずっと前から海に巨大な国を持っており、かつてエルメンタ国が建国される前にあった大国「エピュメテウス連邦国」は人魚と交易をしていたという。だが、膨大な魔力を持った邪悪な一体の人魚が嵐を呼び、津波を巻き起こし、何年にも渡り海に面している国々を荒らしたそうだ。
その人魚は当時の英雄によって相打ちという形で討たれて世に平和が戻ったものの、大陸の沿岸沿いの何か国かは再起不能になり、その後いくつかの国が新たに興ったうちの一つが我が国というわけだ。
歴史書は普段彼らには持ち出せない最重要指定保管物とされ王族以外手に取れないものだったそうだ。中にはパヴァーヌ王族の薄暗い出来事についても詳細を記したものもあるそうだ。その中に記載があるということは、事実が記載されているとみて間違いないだろう。
問題は、恐ろしい力を持ちうる種族が7体も我が国に入ることだ。コーネリウス殿下は人質として飼い殺すおつもりだそうだが、それは7体の人質が大人しくしてくれる場合である。殿下は人魚の国を発見し、乗っ取る計画を立てておられ、その人魚の国を盾に人質を大人しくさせる寸法だそうだが、この隊長にはそう簡単にうまくいくか未だに疑問を持っていたのだ。
伝説上の種族で、どのような見た目かも、意思疎通が可能なのかもわからない未知の存在の到着を内心ひやひやしながら待っていると、水面上から勢いよく水しぶきが上がった。
最初に自ら現れたのはこの浅瀬の海を写したかのような髪色の娘、ついでその向こうの濃い海色をした同じ顔の娘、そこからほぼ同時に夕焼けの太陽のような真っ赤な赤と朱色を持つ娘達、遅れて若緑の娘に手を繋がれて可憐なカナリアの色の髪の娘も姿を現した。
最後に姿を現したのは、淡いオールドローズの髪色の女性に付き添われ完全なる美を持った娘の姿をした月の女神だった。
7人は今まで見てきた娘のその誰よりも美しい姿をしており、その後ろに静かについてくる侍女のようなオールドローズの女性もまた、なかなかの見た目の女性の姿であった。
娘たちは海の宝石で作られたであろう高価に見えるネックレスやブレスレット、腰巻や足輪などの装飾に加え、これも珍しい海の素材で作られたような胸当てを付けている以外、全く何も着ていなかった。下は辛うじて腰巻で守られているが、普通の状態であれば男たちは獣になっていたに違いない。
だが、その完全な黄金比を持つ肢体と日光に照らされ輝く色とりどりの艶髪、透き通り一切の穢れがない肌で、隙がないそのいでたちは人間ではない事をうっすらと第4隊の男どもに感じさせた。その為か、彼女たちを見る目は例え裸であっても決して性的に見るものでなく、何か別次元の天使や神を見ているような目であった。
何より、中でも特に肌が白く、その白い髪は他の娘と違い、この光当たる場所でも月の光のように自ら光り輝いている娘は別格なのだと一目見てジェームズは分かった。他の娘と同じ金色の瞳だが、瞳孔が縦長に鋭く光るその神々しい娘は、ジェームスを一瞥し、何かを傍らにいた侍女らしき娘に話した。
その侍女がジェームスらに近づき、驚いたことに人語を放ったのだ。
「お主が、この中で偉いのじゃな?この方たちはノッケンメーア王国の姫君なり。案内せよ。」
今回は7人姉妹の見た目の違いが少し描かれましたね。
裏話として7人の見た目についての設定は別途後で載せておきます。




