14. 準備万全
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ドロテアは私たち姉妹とアメリア含めた8人の変化薬1年分をとりあえずと言って瓶に詰めて渡してくれた。そのキラキラ光る瓶の蓋はスポイトになっていて、きちんと1滴ずつ出すことができるようになっていて安心した。
私はその銀に輝く瓶を大切に包み、首にかけたロケットのある胸元へと抱き寄せてシュリッテンへ向かう。もう出立は明日になるのだから、早めに帰った方が良いだろう。もっとも、それとは別にシュリッテンを引いてくれるディリーとフィンは身体こそそこらの同じイルカより2回りより大きくて寒さに耐えやすいとは思うが、長居してしまうと凍えてしまうかもしが着たり
私はドロテア殿にまたロケットを使って連絡をすると約束し、お互いに見えなくなるまで手を振り続けた。久しぶりに会えてたったの数刻しか話せなかったのは寂しいが、何か満たされたような思いでいたためか、帰りは同じ時間とは思えぬほど短く感じた。
「お姉様、ご無事で何よりです。」
テアが安堵した表情を見せながら出迎えてくれた。私が外出した場合、いつもであれば宮殿が怪物でも来るかのような厳戒態勢が敷かれるのが最近の常であったが、今はそれどころではなさそうなくらい慌ただしさを感じる。
「ただいま戻った、テア。やはり会ってみて良かった。ドロテア殿は変わらず良き師匠であった。その証拠にしっかりとこの薬を貰ってきたのだ。」
包みを開けて瓶を出すとテアは感心したようにその薬に見惚れていた。
宮殿に戻った後の様子を見るに、私自身がすることはそこまで多くないようだ。皆、外に出るにあたり必要なものは既にまとめたようで「迎えはまだか」といわんばかりにそわそわしていた。
「ウータ、ウーテ」
「「なーに?シオン姉さん?」」
「そのような無垢な笑みで返事したとしても、私にはそなたたちがアデリナやシャルロッテ、人間の部屋に悪戯をしたのはお見通しだ。」
「え、えぇー?」「してないよ、ね?ね?」
「誤魔化でない。そなたたち、部屋をコンブだらけにしたり、人間の部屋に至っては墨だらけにしただろう?」
「あちゃばー」「バレちゃったー」
「なんでバレちゃった?」「姉さんついに千里眼?」
ウータとウーテは留守中に行った悪戯が何故か私にバレていて驚いていた。が、悪戯をされたシャルロッテや人間の王子は誰がやったのか確固たる証拠をつかめず地団駄を踏んでいたそうだ、ということを開き直って自信満々に説明しだすので私とテア、ヘラは頭を抱えた。この双子は自由すぎて王女としての振舞いらしからぬ行動が多い。おかしい、同じ教育を受けてきたはずなのだが…。私の教育の仕方が悪かったか?
「姫様、双子姫様は生来のフリーダムな性分が沁みついているため諦めたほうが良いでしょう。」
「お姉様、彼女たちはどうやっても大人しくならないわよ。」
「テア姉様に同感。」
ずいっとララがフリーダを引っ張って私の胸元に飛び込む。
「お姉様!それでそれで、海で一番怖い魔術師さんからお願いを聞いて貰えて?!」
「お薬、貰えたのでしょうか?」
ふふ、久々に会ってドロテアが今も変わらず私を想ってくれていたのだ。その彼女からの特上の薬をとくと見よ!と言うように自慢げに銀の薬を皆の前に掲げた。
「「「おぉーーーー!」」」
「これが…この海一番の…うわぁ、まるで材料が分からないしちょっと複雑すぎるんじゃない?」
ヘラがジ~~~ッと薬を睨んで解析をしようとしたが、少し難しかったようだ。後で教えてみても良いかも…秘薬であったな。ドロテアの許可を得てから教えよう。
「これを…飲めばいいんですの?」
ララが指を突っ込んで舐めようとしたのでアメリアに目を配らせた、瞬間、アメリアが超高速で移動したかと思うとララを羽交い絞めにした。
「もともと、その薬は飲むために作られたのだが…、このように使うこともできようと思ってな。」
おもむろに視線を自身の二の腕あたりにはめた腕輪を見やる。そう、先ほど創ったものを早速つけてみたのだ。
「あー!新しい奴!」「可愛いとおもってたんだ~」
「珍しく新しい装飾品を行事以外でつけていると思ったら…」
ふふ、ヘラも気づいていたのだな。
「薬を用いることで、この腕輪に魔力を通せば薬と同じ効果を得られる魔術具にしてみたのだ。その方が何かと便利かと思ってな。」
「さすがは姉様…!素晴らしいです!」
「とても綺麗な腕輪ですわね、それであれば毎日でもつけていたいくらい。」
フリーダもテアも気に入ったようだ。自由な双子姫と、未だ羽交い絞めにされている暴走姫は眼がキラキラしている。
私は、自室に会った真珠貝7つと、黄金サンゴの在庫を水晶棚から取り出してそれぞれ7つ分の腕輪を編み出した。
「そなたたちの腕輪だ。だか、これには肝心の核となるものがない。核には、この薬と混ざりあってもらわねばならぬのだが、その核はそなたたちそれぞれに合ったものでなければならない。そなたたちの一番馴染みよい核を持ってきてくれないか?」
言うが否や、瞬時に妹たちは消えた。残っているのはアメリアだけだった。
「アメリア、そなたもだ。そなたも一緒にいてくれるのであれば、この腕輪は必要であろう。」
「ありがたき幸せ…ですが、姫様を守るものがいなくなってしまいます。」
「数分くらい一人でいたところで何も問題はないであろう。そなたの核はある程度想像はつくが、それはそなたの部屋にあると思う。行ってくるがよい。」
「姫様…では、妹君が戻られましたら、私は10秒で行って参ります。」
相変わらず固いのか過保護なのか…そう話しているうちに、猛スピードで入ってきたのはウータ・ウーテだった。
「「じゃーん!!」」
ウータはサファイア、ウーテはアクアマリンの手のひらサイズの石柱だった。
「私たちの色と同じなのが」「やっぱり一番よねー!」
そういって彼女たちは私に手渡し、急かすように、せがむように見上げてきた。
やれやれ、こんなにせっかちで純粋な妹たちの言うことなら、聞かねばならないな。そう思い、私は薬品をスポイトから思い切り吸い上げ、それを水中に散りばめる。散りばめられた銀色の光る水滴は生きているかのようにサファイアとアクアマリンとに混ざり合い、それぞれ海そのものを閉じ込めたような色の核に変化した。その二つが各々の腕輪にカチリと収まり、双子の腕に巻き付いた。
喜ぶ双子の後ろには、後から追いついた妹たちが息をのんで自分たちの番を待っていた。
「何を見ている?早くこちらへ持っておいで。」
私が手を差し出すとルビー、エメラルド、カーネリアン、イエロートパーズが同時に置かれた。
「姉様がいつも魔術を披露するところを見るのが大好きなの。」
ヘラが照れながら言う。しょうがないなと銀の水滴薬をさらに散りばめ、同様にそれぞれの宝石に混ぜ込んでいく。輝きが増した核がそれぞれの腕輪にはまり、各々の腕に同じように巻き付く。
「さあ、最後はアメリアの番だ。」
喜びに歌い始めている妹たちの後ろで待機していたアメリアの手を取り、彼女の分を作り出していく。彼女の核は、ロードナイトだった。私が初めて彼女にあげた土産だったか。
彼女らしいと思いつつ、彼女の分の核も作り上げ、腕輪として完成させた。
その後は陸に旅立つまでの間、私が留守にしていた間での出来事を妹たちが話してくれた。
どうやら一部の古くから宮仕えをしている者や人魚以外の生き物たちは皆私たちがここから出ていくことを耳にし、反対して止めようとしてくれていたらしい。
が、そのような小さき声はお父様やアデリナが一蹴してしまったと妹たちが言ってきた。
「古株じいや衆って呼んでた、あのいつも目立たなかった宮勤めの方たちが顔を真っ青にしてお父様に詰め寄ってたんです。いつもはお姉様を怖がってた大臣たちも…。でも…、アデリナが来てすぐに却下されちゃったそうです。」
「宮殿の魚たちは震えながら懇願してたという話ですわ。お姉様が真の後継者として本能で知っていたり、昔を知っている古くからの者は、お姉様がいなければダメだと悟っているようね。」
しきりに宮で起こったニュースを教えてきたフリーダとテア。お姉様が偉大なのを思い知ったわけねー!ほーっほっほっほと高笑いしだすララを止めたり突っ込んだりするものはこの中にはとうにいない。
「でも、正直今更だよねー。」「ねー。今まで何もしてくれなかったのに今そういう風に言われてもねー。」
「なんだか姉様が宮殿を離れること自体に反対しているみたいよね。閉じ込めておきたいという意図を感じなくもないわ。」
ウータ、ウーテとヘラは急に慌てた態度を取る者たちの理由に懐疑的らしい。私が返ってくる前から今に至るまで、宮殿から集まった噂をあーでもないこーでもないと話し合っていたのだろう。だが、そんな議論も、どのみち決定された未来には意味がない。どうせ今日にも私たちは海から出るのだから。だが、その方がもしかしたら私も妹たちも、マシな状況になるかもしれない。
実際、人間の国に行くことはもちろん嫌だったが、少しばかりこの国を出たいという思いもあった。妹やアメリアなど数人を除いたら常に私を邪魔に思うもの、畏怖の対象と見るもの、奇異のまなざしで見るもの、どうでもよいと無視をするものばかりで、大好きだったこの場所が、海が、いつしか沈んだ気分にさせるなんとも居心地の悪い場所へと変わっていったからだ。記憶を取り戻してからその思いがより強くなっていったのだ。
私だけではない。妹たちも妹たちで、私ほどシャルロッテやアデリナからの嫌がらせや周囲からの冷遇にも似た態度を取られているわけではないが、信頼できる後ろ盾はこの国では乏しいだろう。彼女たちの侍女が、アデリナ達のご機嫌伺いの為シャルロッテの世話係に立候補して妹たちの侍女として人間の国について行かない意思を表明したのがその証拠だろう。まったく、この宮にはアメリアより忠義に篤いものはいないようだ。
とどのつまり、この国に留まるより外にでて、一時的に人間の国に滞在することになるとは思うがその後旅に出たりすることもできる可能性がある今の状態の方がよっぽど自分たちらしい生き方を容易く選び行くことができるだろうというもの。アデリナ達の悪巧みからこの国をどうにかできた後は彼女たちの道ももっと自由なものになると思えば、今の状況は悪くない、と冷静になればなるほど思えてきたのだ。妹たちも同じ気持ちなのか、支度はもうすでに完璧に用意して迎えの使いが来るのをそう悲観的でない顔で待っている。
そして、そう長く待たない間に、衛兵の一人が陸から使者を確認したとの報告が入ったのだ。




