11.濁水メンタリティー
エリュシオネーを敵視しているシャルロッテ視点のお話です。
「そういう訳だ。分かったな?エリュシオネー。」
あぁ、なんていい気分なのぉ。いつも仏頂面で何をしてもビクともしない、やり返してこない、けれど決して芯を折ることのなかったあの女が、あんな絶望の表情を浮かべるなんてぇ。
今日、この日をどれだけこのシャルロッテが待ち望んでいたか。隣には私の愛するコーネリウスさま、後ろにはお父さまとお母さまという最強の布陣で、今私はついにあの邪魔な女を追い出したわぁ!
歓喜のあまりつい表情が抑えられなかったくらいよぉ。
生まれた時から、この国の一番は私なんだという曖昧な意識があった。お母さまからは「あなたは将来この国の頂点に泳ぎ出るのよ」と繰り返し言い聞かされていた。お父さまからは他のどのおねぇさまたちよりも優しい声をかけられ、何か行うたびお褒めの言葉をいただいたわ。ずっと生まれた時から私はどのおねぇさま方よりも優遇されて、愛されていたわ。
でもお父さまは、エリュシオネーおねぇさまだけはいつも気にしているようだったわ。私を中心にした幸せな世界にはいつもエリュシオネーおねぇさまの影がちらついていた。いつもなら他のおねぇさまが話しかけても私を優先してるのに、エリュシオネーおねぇさまがお父さまに話しかけるとすぐにそっちに行ったり、時々エリュシオネーおねぇさまの方を見て悲しそうな顔をしていたのぉ。
まるでぇ、私よりエリュシオネーおねぇさまの方が大事みたいな反応じゃない。
それに、あの女はいつ見ても腹が立つほど完璧なほどに美しく輝いていたわ。
私の容姿を褒めたたえていた侍女や侍従も、裏ではいつもあの女の容姿と比較していたの知っているのよ。
私の魔力だって年齢の割に高いはずなのに、魔力で注目されているのはいつもあの女だけだった。
だから、宮殿の皆はいつも私を褒めたたえる裏でエリュシオネーおねぇさまのことを次期王の候補として疑わなかったわ。…それって、この宮殿の本当の中心があの女みたいじゃない!
…そんなのは許せない!
私が一番世界で全ての者から愛されるべきなの!そうお母さまも言ってたわ!
だから、正妃の娘という立場を使ってあの女が私を虐げているだとか、おねぇさまは以前恐ろしいことをして、将来も災いを招くとか色々言いふらすようにお母さまがお友達の家の方々に言ったり、私も率先して「災禍の姫」の呼称を流布したものだわぁ。
そうしたら宮殿の外はすっかりエリュシオネーおねぇさまを悪いお姫さまとしてみるようになった。うっふふ、いい気味ねぇ。
でもあの女、どれだけ目の前で悪女扱いしても、嫌な噂を吹聴してもなんともないような顔をしちゃって。
昔から氷のように無表情なのが気に入らないの。だって、ちっとも堪えたようにみえないんだもの。あの女が私に屈したという態度を見せないんだもの。
お母さまはお父さまがエリュシオネーおねぇさまを気にするのは正妃の娘だからと言っていたわ。本当に愛しているのは私とお母さまだけなんだって。だから信じて待っていれば最近はエリュシオネーおねぇさまのことも一切お父さまは見なくなったわぁ。
ようやくいない幽霊のような前の正妃のことを気にせずによくなったのねきっと!
そうして気分が良くなって禁止されている陸の近くの海の上で泳いでいたらぁ、運命の出会いをしたのぉ。
そう、コーネリウスさま!
はじめはとってもびっくりしたけど、でも、一目見て分かったわ。私と彼は結ばれるべき間柄なのぉ!
彼は私に見合う美しい容姿に美しい声で私に優しく話しかけてくれたわぁ。たどたどしい人魚語がとってもかわいらしかったのだけれど、逢瀬を交わす度に上達して、今では私たちと同じように話せるの。
コーネリウスさまと海の上で逢瀬を重ねて10回に満たないくらいかしらぁ?彼からプロポーズの言葉をいただいたときは海面で大ジャンプをしたいくらいうれしかったわぁ。
でも、私は人魚。人間の国ではうまく生きれるかわからないし、陸では干からびちゃうわ。そんなことを言うと、コーネリウスさまは彼自身が海で一緒に過ごしてくださると言ってくださったのぉ!本当にお優しいの。そしてとても賢いお方。
賢いお方だから私、正妃の娘であるあの女を何とか追い出せないかコーネリウスさまに相談したの。
あの女を追い出せさえすれば、私が次期国王の候補になるし、好きなようにコーネリウスさまを番の相手として結婚できるわ。
そんな風に彼に言ったら、一瞬彼の目が恐ろしいほど鋭く光って。でも、すぐに優しく微笑んで全力で協力すると言ってくれたわぁ。
そうしてお母さまにコーネリウスさまを紹介した後に開かれたのがあの番候補発表の宴と今のエリュシオネーおねぇさまへの追放宣言。
あぁ~やっぱり、こうでなくっちゃ!世界は私の思った通りに動くのよぉ。
私の癇に障ったもの、私より綺麗なもの、私より愛されているもの、私より優れているもの、ぜぇ~んぶ無くなってしまえばいいの。
だってほら、そう願ったら今この時も叶ったでしょ?
さぁ、さっさと出ていきなさいなお邪魔虫。
あなたがいなければ私が一番綺麗で、優秀で、皆から愛されている姫になるのよ。
そう、私はこの世界で一番愛されているの。
この広い海の国で、素敵な王子さまと幸せに物語のようにいつまでも暮らすんだから。




