8.方針相談会議 前
暫く抱き合っていたが、ヘラが急に慌てた様子で話した。
「ちょっと待って!姉様が魔力暴走したことが災厄だった件はいいとして、その原因が人間って言ったよね?!その人間が次期王に決まったシャルロッテの番候補になってたよね?!」
忘れてた。そうだ。そこが問題だ。
「そんな私たち人魚を襲ったことのある種族を次期王の番にして良いわけないじゃない!ましてや、ここ500年ノッケンメーアの民は海の底から出ることを禁じられてたのよ。私たちのように若い人魚は他の種族のことは歴史書でしか知らないというのに。良く知らない種族、しかも襲ったことのある野蛮な種族の下に頭を垂れるなんて、受け入れがたいことじゃない!」
憤慨するヘラをフリーダが宥めようとする傍で、テアは不安げな視線で己が疑問を口にした。
「それもですけど、やはりその人間を連れてきたシャルロッテ…あの子が次の海の王になるなんて…エリュシオネーお姉様はそれについて今まであまり何も言ってなかったですが良いんですの?」
「それについては今は問題ない。確かに、私は次期国王になることで僅かになったお父様との繋がりを保っていたかったとはじめは思っていたが…。もう数百年もあの様子ではこちらも諦めがつくものだ。私は国王という地位には興味がない。だからと言って、正妃でありとても立派だったと話されているお母様と昔は優しく名君だったお父様の子であり一の姫であるという誇りは失っていない。…ただ今は、目の前にいる妹たち、そして人間の手に渡りかねない我が国を何とかできるのであれば地位などどうとでもよいのだ。」
「お姉様…!」
「姫様、ご立派になられて…。」
「あぁああ愛しておりますわお姉様ぁああ!一生ついて行きますしなんでも協力致しますわ!」
普段は痛くて傷もできるからと鋭い私の尾びれには近づかないよう言ってあるのにララはそこに巻きついて血らだけになりながら頬ずりしてきた。もうこの妹の献身にはちょっとこわい。。何してるんだ全く。
「…ララは放っておいて、500年前の話に戻そ。私達はまだ生まれてなかったしそもそもこの話自体教えられなかったから分かんないんだけど、人間がどうして人魚を襲ったの?人魚は人間に何か悪いことしちゃったの?」
天井の妖光サンゴの一つに尾を絡ませて遊んでいたウータがぶら下がりながら聞いてきた。
確かにあの場にいた私でさえ人間が襲う状況に訳わからなかったから説明が必要だろう。
私はアメリアの方に向いた。
「アメリア、人間は人魚の血を狙ってた。そうだな。」
「はい。多くの叫び声の中で人間たちは人魚の血や肉を求めていたことは聞き取れました。なんでも、不老不死だとか騒いでいましたので恐らく私たちの長寿の力を血を飲むことによって得ようとしていたと推測されます。」
「私たちの血を…!」
「ララ、なんだか怖いですわ…!」
フリーダとララは二人抱き着き怯える。
「でもそれ、お父様も覚えているはずよね?なのにそんな種族を贔屓っ子の番にするなんておかしくない?」
ヘラが話を進める
「ヘラの言う通り、私もそこが疑問だ。腑に落ちない。人間が多くの人魚の民たちを殺したのは知っているはずだ。そんな簡単に人間を我々の国に近づけようともせぬだろう。あまつさえ人間を国に何の事前準備や私たちに相談もなく迎え入れるなど。正常な判断ができていないという可能性も視野に入れておくべきだと思う。」
「それって精神がおかしくなっているか、操られているってこと?そんな魔法海にあったかどうか…。ま、一国の王が下す判断としてはあまりにお粗末よね…。考えられる原因は…あのビッチビチのメスザメね。」
ヘラの言葉に、皆が同意する。
だがヘラ、言葉が少々汚いぞ、と視線を送る。
ビッチビチは、要はビッチのことなのだが、アデリナは昔色々あったという噂は有名なのだ。
メスザメはアデリナの尾びれの形から彼女がサメ型人魚(鮫人)だとみて分かるのだがその蔑称だ。
「嫌いなのはわかるし私も苦手だが、我らは王族。普段からその口調ではふとした時に出てしまうだろう?」
「ごめんなさい、お姉様…。」
一旦話が落ち着いたところで、左右にくっついていたウータとウーテが聞いてきた。
「んで、記憶が戻った姉さんはこれから人間をどうするのー?」「どうしたいのー?」
「どうするか、どうしたいか、か…。」
「まさか、このまま黙ってばかり、は言わないよね?」
いたずら気に彼女たちの目が光る。私の答えが分かっていて敢えて聞いているな、これは。
「ふむ…漠然とは考えている。そもそも私は…」
ばッと右腕を横に広げ、私は言い切った。
「人間が人魚の国王の番など、大・反・対だ!!」




