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そこがどこかも分からない。一番に視界へ飛び込んでくるのは目が眩むほどの大木だ。自分の存在が米粒ほどに思えてしまうほど、それはあまりに巨大な木だった。隙間無く葉が生茂り、ざわざわと風に枝を揺らす。月明かりに照らされるそれは神々しくもあった。
そんな大木に歩み寄る少女が一人。赤い髪を揺らし、小川に沿ってゆっくりと歩みを進める。草花に止まっていた蛍が空気に漂うように足元を照らす様が美しい。音がほとんど無い幻想的な空間。そこを行く少女もまた人とは思えない涼しげな空気を纏い、大木の根本に腰を下ろした。
両足を崩して座り、幹にもたれ掛かる少女の周りを飛ぶ光。蛍とはまた違う、白と青の光の粒達。
「ただいま」
囁く少女に応えるように、光はくるくると少女の周りを飛び回る。それに右手を差し出して慈しむような笑みを浮かべ、そっと目を閉じた。
「今日も人里へ降りてきたぞ。昨日出会った少年をもう一度見たくなってな」
返ってくる言葉は無い。
「ただの……興味本位だったんだ。今、人はどうやって暮らしているのだろうと……思っただけだったんだ」
紡ぐ少女の言葉が揺らぐ。ルイと行動を共にしていた時には決して見せることの無かった表情だ。戸惑いと困惑が入り混じった声色。俯き、垂れた前髪で瞳が隠れる。励ますように速度を上げて飛び回る光にありがとうと囁く。その時、第三者には聞こえない何かを聞く少女は驚いたように大木を見上げた。その場に響くのは枝の揺れる音だけ。だというのに、しばらくジッと見つめた少女が困ったように笑う。
「何度も言っているだろう。契約はしないよ。君達と主従関係になんかなりたくない。みんな私の……友人だ」
まるで会話を交わしているように。この場にいるモノ全てに視線を向け、そっと大木に体を寄せた。両手を幹につけ、大切なものを抱えるように優しく力をこめる。
「大丈夫。人は嫌いなんだ。今までも、これからも」
そう溢す少女は、どこか自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
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