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ありがとうとさようなら

作者: ヒダカ

物心つくと、私はずっと、亜咲さんと一緒だった



どっちが自分の家かわからないくらい、お互いお隣を行き来しててさ…



高校に入学しても、心のお姉ちゃんのまんまだった



でもこの夏、私にの大切な”お姉ちゃん”とはお別れが廻ってきた



難病を抱えたお母さんの転院で、神戸に引っ越すことになって…



お姉ちゃん…、いままでありがとう、そしてさようなら…



お隣のいもうと、ケイコより




ー享年17歳、恋人の運転するオートバイで転落死した横田競子の日記より抜粋ー






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別れ/その1

ケイコ




私たちは病室を出て、その階のロビーで長椅子に腰かけた


今日、私はオカンと妹の美咲の3人で、一緒に亜咲さんのお母さんと面会した


おばさん、神戸の病院に移ることになったんで、みんなで最後のお見舞いに来たんだ


で、亜咲さんもあっちでアパートを借りることになったそうだ


まもなくお別れだ、亜咲さんとも


しばらくすると、亜咲さんがロビーにやってきた



...




「あ、おばさん、さっきの餞別、あんなにいっぱいもらっちゃって。母が封筒分厚いから、確認してみろっていうもんですから、すいません、中を。丁重にお礼、言って来いって。母も恐縮してて。お心使い、ありがとうございました」


「いいのよ。咲江さんには、本当にお世話になったから。”あの時”、助けてもらってたこととか、絶対忘れないわ…。お大事にしてやってね」


「はい。今日は皆さんで来てもらって、母、とても喜んでました」


「咲江さんとは長いお付き合いだしね。淋しいわ。いろいろ思い出しちゃって、思わず涙がでてきてね、ゴメンね、亜咲ちゃん。最後なのに、しんみりさせちゃったわね」


「いえ、ウチも昔のこと思い浮かべて、先に大泣きですもんね。返ってすいませんでした」



...




高原家と横田家はお隣同士で、家族ぐるみの長いお付き合いだった


もともと、私が生まれる前、建売の2棟現場だった今の家を、ほぼ同時に両家が買って、まあ、それ以来ずっとって訳だ


周りは田んぼばっかりで、ホントは家建てられない場所だったそうで、とにかく最近まで2軒だけポツンと建ってた東京の飛び地でね


そういうことで、いわゆる訳あり物件を購入した2軒が、共に手を携えてって、そんな感じだったと思う


私は物心つくと、年中、亜咲さんと一緒だった


どっちが自分の家かわからないくらい、お互いに行き来しててさ…


やがて、妹がオカンのおなかの中に宿った


で、出産間近になって、オカンの体調がおかしいということで、入院となったんだ


うち、お父さんが商社マンなんで、ずっと海外赴任だったから、幼い私は亜咲さんとこに預けられてね


おばさんは、毎日のようにオカンの病院に通ってくれてたらしい


それこそ、身の周りのこととか、全部引き受けてくれてたって


出産は結局、帝王切開ということになった


後から聞いた話じゃ、母子とも状態は、決しておもわしくなかったんだって



...




オカン、よく言ってたわ


夫がいなくて不安な気持ちを、おばさんに励ましてもらって、どんなに勇気つけられたかって


出産当日は付きっきりで、妹が無事生まれた時は、我が子のように感激して泣いてくれたらしい


未熟児で生まれた妹も、産後は順調で、親子そろって退院となった


私もうっすらとした、断片的な記憶はある


とにかく、記憶ではみんな女だったなあって…(笑)


うちの両親は、お世話になったおばさんとオカンの一字をとって、「美咲」と命名した


これ、私の母校の小学校名物、”名前の由来”って作文の授業で、みんなの涙を誘ったらしい


美咲とはたまたま担任が同じで、「お姉ちゃんも、いい話だったしねえ」とか、言ってたようだ…





別れ/その2

ケイコ





「美咲ちゃん、お願いがあるんだけど。これからは、ジョンのお世話、頼めるかな」


亜咲さんは美咲に向かって、やさしい口調で言った


「えっ…?ジョン、神戸に連れて行かないの?」


「うん、アパートだから飼えないんだ。お母さんは、美咲ちゃんがちゃんと世話してくれるんなら、飼ってもいいって言ってくれてるんだけど。どうかな?」


「お母さん、本当にいいの?ジョン、うちで飼って」


ジョンの件は、美咲には話してなかったので、ちょっと驚いた様子だった


「ええ。お父さんにも話してあるわ。お世話できる?お姉ちゃんはそういうこと、ダメだから」


あのね…、いいって、わざわざ私に振らなくてさ…(苦笑)


「うん。約束するよ。ジョン、大切に育てるよ。ありがとう、亜咲さん」


よかったな美咲、ジョンもお前が大好きだし、世話しっかりな



...




「じゃあ、これから準備とかでバタバタすると思うんで、引越しの直前には改めて、ご挨拶伺います」


「何か手伝えることあったら、遠慮なく言ってちょうだいね。ケイコ、部活ばっかり夢中になってないで、お世話になったんだから、あんたも手伝ってやんなさいよ」


「ああ、分かってるよ。亜咲さん、そういうことだから、一人で無理しないで、声かけて。何でも手伝うよ」


「ありがとう、ケイちゃん。それならさ、なにかと買い物とか、こっちで済ませること多くてさ、そんなの付き合ってくれるか。いろいろ意見聞いたりしながら、決めたいものもあるしさ」


「ああ、いつでもOKよ~ん。私でよけりゃ」


「はは…、じゃあ、向こうへ発つ前に、何度かバイクの後ろ乗ってもらうようになるかな。いいかい?」


私はにっこり笑って、頷いた


ここで私たちは別れ、亜咲さんは病室に戻っていった


亜咲さんめ…、最後まで気遣いがカッコいいねえ


私がマシンの”乗っかり納め”狙ってたの、承知だった訳ね、ハハハ…


なにしろ、私にとって心のお姉ちゃんだった亜咲さんとのお別れはカウントダウンを迎えたんだよな…






















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