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「ここは2次試験でよくでる場所らしいですよ」


「へぇ~、そうなんだ」


個室から、大部屋に移された俺は高岡さんと一緒に勉強をしているところである。あれからも、ノートのコピーとプリント類を届けに来てくれるだけでなく、こうして一緒に勉強をするようになったのだ。

 一緒に勉強といっても、主に数学の授業で出た難しい問題を教えてもらっているという状況である。他の教科は自分一人でも何とかなるレベルなのだ。


「受験まで残りあと僅かだっていうのに、何だか悪いね」


「人に教えた方が理解も深まるし、全然大丈夫です。逆にこんな時期に入院なんかさせてしまって申し訳ありません」


「いや、全然気にしなくていいよ。高岡さんが気にすることないよ。突っ込んできた車が悪いんだしさ」


「天海君が助けてくれなければ、私の方が入院して、受験どころではなかったかもしれません。だから少しでも力になれればと思って………迷惑…でした?」


「いや、そんな事ないよ。すごく助かってる。高岡さんにこうして数学の分からないところを教えてもらえるなんて、しあ……夢みたいだよ」

 

「?……夢? これは現実ですよ。くすくす。天海君は可笑しなことをいいますね。そろそろ予備校の時間があるので、私は帰りますね。じゃあ、また来ますね。萌ちゃんも、また明日学校で」


「あ、ああ、じゃあ、また」

「ばいばーい」

 俺は病室から高岡さんが出て行くのを見送った。


「は~、チキンですね。もっと強気にいっても大丈夫だというのに。さっき、しあ……っていいよ淀んでいましたけど、何て言おうとしたんですか? シアン化ナトリウムを一緒に飲んで、転生しよう!!なんて言おうとしてたんじゃないですか?」


「そんなわけないだろ!! 何だよ。シアン化ナトリウムって?」


「青酸ナトリウムですよ。別名青酸ソーダとも呼ばれて、いわゆる青酸カリの類似品ですよ。まー、そんなギャグは置いておいて、実際は幸せだとか言おうとしてたんじゃないですか? 気持ち悪いですね。一緒に勉強したくらいで幸せを感じれるなんて、幸せのハードルが低すぎますよ」


「……別にいいだろ。高岡さんは学校では高嶺の花の存在なんだからさ。一緒に勉強できれば他のやつも幸せを感じるって。絶対に」


「は~、やれやれ。そんな事で幸せを感じることができるなんて、本当に摩訶不思議ですね。勉強の苦痛の方が上回るというのに」

 萌は椅子に座り直し、手元にある本に視線を落とした。

 その本は俺と高岡さんが勉強している横でずっと読んでいたものである。

 俺の部屋にある漫画である。ここ最近10冊ずつ部屋から持って来ては、ここで読んで家に帰るということをしているらしい。

 本人曰く、この世界の調査のためという事らしいが、ただ漫画を楽しんでいるだけにしか見えない。


「ここに来てからずっと漫画ばかり読んでるけど、受験とかどうするつもりなんだ? 高校を卒業したらニートでもするつもりなのか?」


「それは大丈夫だよ。考えがあるからね♪ そんな事より、私が楽しんでいるだけとは聞き捨てならない台詞ね。お兄ちゃんが信者集めに消極的だから、私がこうして戦略を練っているっていうのに。それに、何個か信者集めのアイデアが浮かんだわ」

 どうやら思考を読まれたようである。


「どんなアイデアだ?」


「ちょっとこれを見てくれない?」


「なんだ?」


 萌は手に持っていた漫画を俺に見せる。それは悪の学校で主人公がのし上がっていく不良漫画だった。


「これを読んでピーンと来たのよ。こういう学校ならポーションの力が効力を発揮するんじゃないかってことよ。私達が通っている学校は平和すぎるわ。喧嘩なんて一切起きないもの。でもこれを見て。毎日、こんなに怪我人が出てるのよ。ポーションの力を発揮するには持ってこいじゃない。ここでなら一気に信者を獲得できるわ。という事で早速転入手続きをしましょう」


「いやいや、これは漫画だから。こんな学校は実際にはないからね」


「それがそうでもないようです。調べたところ2校ほどこの地域にも似たような学校がありましたよ。鈴宮高校と桜蘭高校というところです。どちらにしますか?」


「ちょっと待った。何で後少しで卒業というところで、そんなところに転校しなくちゃいけないんだよ。そもそも後少しで受験なんだから、そんなところに行くことに親が同意するわけないじゃん」


「親なんて何とかなりますよ。ここだけの話、事故を起こした車の乗り主が相当なお金持ちだったようで、お兄ちゃんが目覚めたことで多額の示談金で事故そのものを闇に葬ることに同意したようですよ。だから、金銭的にも潤っているので、多少の無理は説得すればなんとかなりますよ。それに、考えてみてください。ここで信者を獲得してポーションの能力を上げた方が受験勉強するよりも素晴らしい未来が拓けるというものです。じゃあ、そういう事で鈴宮高校ということで、ファイナルアンサー?」


「いや、全然ファイナルアンサーじゃないから」


「わかりました。じゃあテレフォンを使いますか?」

 萌はポケットから携帯電話を取り出した。いつの間に携帯を手に入れたのか………


「誰にだよ!!」


「やれやれ、お兄ちゃんは我儘ですね。では、どうやって信者を獲得するんですか。あれから時間も結構経ちましたし、いいプランがあれば聞かせてもらいたいですね」

 

 俺は言葉につまる。はっきり言って、まだノープランだった。高岡さんが俺に会いに来てくれているという事実だけで舞い上がってしまっていたのだ。高岡さんにいいところを見せようと昼間は勉強ばかりしていた。


「いや、それはまだ………。ひとまず怪我を治して受験が終わってからだな。じゃないと自由に動けないし」


「そんな悠長にしていたら、40億の信者なんて夢のまた夢ですよ。まず1にレベルアップ、そして次にレベルアップ、最後にレベルアップです。レベルアップさえしてしまえば何とでもなるんですから。お金だって、がっぽり稼げますよ。だから、信者獲得が最優先事項です。受験勉強なんて2の次、3の次です」

 ポーションの力があればお金は稼げるだろうが、何となく今までやってきた受験勉強が無駄になるのが嫌なのだ。俺は萌の説得を試みることにした。


「いや、ここで医学部に入れば、堂々と患者を治すのに力を使うことができるから、そんな不良校に転校するより、今勉強して大学の医学部に入る方が信者獲得に動きやすいんじゃないか?」


「お兄ちゃんは医学部を志望しているのですか?」


「いや工学部にしようと思っていたけど、示談金とやらで金銭面に余裕があるなら医学部もありかなと思っただけだけど………それに医学部にいけばポーションの力を存分に使うことができると思うし」


「そうですか、それは…………却下ですね」


「何で?」


「学部は心理学部がいいんじゃないでしょうか。人の心を操る術を学べるようですよ。信者を獲得するには是非とも欲しい知識です。それか宗教学なんてものもいいですね。この世界の宗教がどのようにして信者を集めたのかを研究すれば、信者獲得のヒントがそこにあるかもしれません」


「いや、それ2つとも文系じゃないか。俺は理系の勉強をしてきたんだから、文系のところはちょっと………」


「理系だから文系は受験できないというわけではないでしょう。理系だからということで選択の幅を狭めるのはよくないですよ。考えて見てください。医者になって力を使っても果たして信者を獲得できるでしょうか。患者は治してもらって当たり前なので、感謝はされるかもしれませんが信者になるかと言えば疑問です。それよりも不思議な力を前面に押し出して、お兄ちゃんを神の如く崇めてもらうようにする方がいいと思うんですよ。となると………やっぱり、心理学部がいいですね」


「選択の幅を狭めているのはお前じゃないか!! 心理学部には萌が行けばいいじゃん。俺は工学部か医学部のどちらかだ」


「ふ~、やれやれ。お兄ちゃんと私は一心同体ですからねぇ。大学の進学先は同じところだと決まっているんですが………まぁ、いいでしょう。受験まではもう少しありますからね。心変わりするかもしれませんし」


「いや、しないし。そもそも、漫画ばっかり読んでるのに俺と同じところにいけるのか?」


「まぁ、それは………ふふふ、くすくす」

 何か笑いをこらえてるようで、気持ち悪い。何か受験に受かるスキルでも持っているのだろうか………

 俺が冷たい目で萌を見ていると、萌の念話が頭に響いた。


『それと気づいてましたか? 隣のベッドの女の子のこと』

 

 俺は隣のベッドに目をやると、片腕と片足を包帯に巻かれ、顔にガーゼを当てている子がベッドの上に座っていた。髪の毛は茶髪で腰のあたりまで伸ばして、軽くウェーブがかかっている。顔が全部見えてないがお姉さんの色気みたいなものがある女性だ。

『あの子が何か?』


『見舞いに来ている子の制服を見てください。あれは桜蘭高校の制服ですよ。噂をすればです。やっぱり日常的に怪我をしているようですね。これはチャンスですよ。隣にいるというのも好都合です。ポーションの力で信者にしてやりましょう』

 

 何やら、ふんすと張り切っているようであるが嫌な予感しかしないのであった………


 


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