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『それで、【ポーション作成】ってどうやればいいの?』
『念じるのです。そうすればポーションが作成されます』
俺は【ポーション作成】と念じるように中空を見つめる。
ポトリ。
中空から透明な瓶の容器が現れ、俺の腹部の上に落ちた。
俺の腕は動かすことができないので、代わりにモエールこと萌が布団の上から取り上げた。
『飲んでみますか?』
『それを飲んだらこの怪我が治るのか? だったら、もうちょっと様子を見てからの方がいいかも。いきなり考えなしに目立ってしまうのは良くないかもしれない』
『その心配には及びません。このポーションはlv1のものですから、一日一本服用をかかさず行えば怪我の治りが2倍になるという程度のものです。目に見える皮膚の切り傷なんかはすぐに治るでしょうけど』
『?? たしか、骨折は治ると言ってたような気が?』
『神様の罰で序列が第773天使から第777天使に下がってしまいましたので、能力も下がってしまいました。なので、骨折などはすぐには治せません………』
ホワット? 詐欺か? そんな能力で信者を集める事ができるのか? というか、天使は777人しかいないって言ってたことを考えるとド底辺じゃねぇか。
『大丈夫です。宗次郎はポーションを理解するのに時間がかかりましたが、それでもこのポーションを使って信者を集めてくれました』
『宗次郎って?』
『お兄ちゃんの前に異世界へと送りこんだ転生者です』
『その人は信者を何人くらい作ったの?』
『最終的にはだいたい1000人くらいですね』
なんか思ったよりショボいな………というか、それだけで序列が4つも上がるのか………
『宗次郎は最初、この能力はガラスの容器を生み出す魔法だと勘違いしていたみたいで、なかなか信者を増やせなかったのです。しかし、中身の液体こそ素晴らしい能力があると気付いてからは、早かったのですけど………時すでに遅し。寿命には勝てませんでした』
ポーションの概念が分からなければ、ガラスの容器の方が高級品に見えたのかもしれない。ちゃんと説明をしたのだろうか。
『というわけで一本いっちゃいましょう』
萌は容器の蓋を外した後、俺の人工呼吸器のマスクを取ると、ポーションを口に流しいれた。
『どうですか? こちらを見てみてください』
かばんから手鏡を取り出し、俺の顔の前に差し出す。映し出された俺の顔はところどころ切り傷ができていたが、みるみるうちに塞がっていく。
「す、すごい!!」
マスクが外されたが、相変わらず喋りくさは変わらない。喋るたびにあちこちが痛むのだ。
『そうでしょう』
萌はドヤ顔で鼻息を荒くしている。
『でも、これって不味い気がする。いきなり、こんなにも傷が治るなんておかしすぎる』
『いいじゃないですか。これで、どうしたんだって聞かれて、ポーションの事を言えば信者ゲット間違いなしですよ』
『いや。そんな簡単にいかない気がする。そもそも、ポーションの生み出し方もおかしい。何もないところから生み出されるなんて、魔法が存在する異世界ならいざ知らず。この世界には魔法なんて存在しないんだ。こんな力を見たら、最悪どっかの施設で研究対象扱いされるかも』
そういう漫画を見た事がある。
『そんなものですか………』
『だからひとまずは、信者を獲得するにしても、計画を立てていかないと。いきなり目立つような事をするのは不味い気がする』
『仕方ありませんね』
萌はカバンから、カッターのようなものを取り出す。
『ちょっと、ちょっと何をする気?!』
『もう一度、顔に傷を作ろうと思いまして』
『いやいや、グロすぎだから。そんなの耐えられない………そうだ、そこにある包帯で顔を巻いてくれないか?』
腕や足に包帯が巻かれているだけあって、病室には包帯が幸運にも置いてあるのが見えたのだ。治ったのに包帯を巻くというのは変な話である。
『仕方がないですね。お兄ちゃんの計画とやらを信じることにしましょう』
俺の顔に包帯が巻かれてしばらくすると母さんと父さんが病室に入ってきた。
「どうしたんだ?」
父さんが俺の顔に包帯が巻かれているのを見て驚いた。
「ちょっとお兄ちゃんの顔の傷がひどくて見てられないから、包帯を巻いたの。ダメだった?」
「萌は本当にお兄ちゃん想いねぇ。全然いいわよ。その方が治るのが早くなるに違いないわ。今日はお兄ちゃんが目覚めたお祝いよ。帰ったらすき焼きよ」
「わーい」
えっ?
何かが………何かがおかしいような気がするのだった………