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 俺の記憶が事故で失われたのだろうか。


 しかし、俺が生きてきた18年の記憶は全く失われていない。妹の記憶だけが喪失してしまう。果たしてそんな事があるのだろうか。


 俺が自分の記憶を辿っていると、高岡さんが俺のベッドの側まで頭を下げた。


「あ、あの、ありがとうございます」


 一瞬何の事か分からなかったが、そこで車にはねられた時の事を思いだした。そうか、やっぱり助けていたのだ。何か返事しようと思ったが、人工呼吸器が口の周りを覆っているので喋ることはできない。代わりに俺は頷く事で返事した。


 高岡さんの目にはうっすらと涙を浮かべていた。


「気にしなくても大丈夫よ。殺したって死にやしないんだから」

 母さんの目にも涙を流した後が見えるが、いつもの調子で高岡さんに話しかけた。その声は少し震えているように感じる。


「ひとまず意識は取り戻したようだし、お医者さんの話だと1カ月もすれば退院はできるらしい。今日は来てくれてありがとうね。もう夕方だし、近くまで車で送るよ」


「いえ、そんな」

 父さんの提案に高岡さんは遠慮しようとする。


「私も買い物があるから、ついでよ、ついで。遠慮しなくてもいいわ」


「………ありがとうございます」

 母さんの圧力に屈して、高岡さんは送ってもらうことにするようだった。車中でどんな話がされるかが不安である。


「私は少し残るわ」

 妹と名乗る少女は病室に残るらしい。


「分かったわ。買い物が終わったら、ここに寄ってから家に帰るから、ここで待ってなさいね。萌」


「は~い」


 萌?


 何かその音の響きには聞き覚えがあるような気がした。


 3人が病室から出ると、室内には俺と萌だけが残された。


「さて、どこから話しましょうか………」


 さっきまでと声の調子が変わる。俺はただ聞く事しかできなかった。


「実は呪文を間違えてしまって、転生先を間違えてしまったのです。間違って元の世界へと返してしまいました」


 そこで一呼吸入れた。


「そして、それを知った神は私に罰を与えました。私をあなたの同じ世界へと堕とすという罰を………もうお気づきかもしれませんが、私は第777(・・・)天使モエールです」


 つまり、アクゥルアという異世界ではなく元の世界へと転生させてしまったと。それは転生でなく、蘇生ということになるのか。

 それが何か神の逆鱗に触れて、同じ世界にきてしまったと。


 しかし、俺にとっては生き返らせてもらったということになるのだ。何だそれはとは思うが感謝の言葉しかない。


『あ、ありがとう』


『いえ、いえ、どういたしましてです』


『えっ?! 頭の中で会話できているような気がするんだけど……』


『【念話】です。我々は高次元の存在ですから、念話ぐらいは簡単にすることができます。喋りにくそうですので、今からの会話は【念話】にて行いますね』


『あっ。そうなんだ………いろいろ聞きたい事が多すぎて………お兄ちゃんってのは何?』


『そのままの意味です。私はこの世界ではあなたの妹という地位にいます』


『えっ? 俺には妹なんていなかったよね。一人っ子のはずだけど』


『そうですね。なので1000人くらいの記憶を少し弄っておきました。この世界では双子の妹という事になっていますので、これからはそういう事でお願いします』


『ええっ? 何でそんな事を………』


『私たちは一蓮托生なのです。お兄ちゃんの力を使って私への信仰心を手に入れ序列を上げていかないと、いつまでたっても天界へと帰ることができません。最悪【堕天使】という不名誉な称号を冠されてしまいかねません』


『それって、この世界でも有効なの?』


『信仰心という力は世界に関係なく存在する第六次元の力なのです。3次元世界に生きるあなた達にはわからないかもしれませんが……』


『記憶を弄れるなら、それで信仰心を植え付ければいいんじゃ』


『いえ、信仰心とはそういうものではないんです。心の底から、誰にも操られずに祈りを捧げなければ力にはならないのです。それに私には記憶を弄る力はもう残っていないのです。最後の力を使ってあなたの妹になったのです。少しは感謝してほしいところです』


 何に感謝すればいいのかがよく分からなかったし、1000人でも自分の兵隊になってくれれば信者を増やすことができそうな気がする。


『ふ~、やれやれですね。お兄ちゃんは何も分かっていませんね。1000の兵隊よりもお兄ちゃんに授けた能力なんですよ。1000の兵隊がいたところで信者を40億人も増やすことができると思いますか?』


『40億?』


 確かこの世界最大の信者数と言われているキリスト教徒の数が22億人である。その約2倍を手にいれようというのか。2000年近く布教活動をしてその数なのだ。40億を目指しているなら1000人が頑張ったところで、たかが知れているだろう。


 だが、それが俺だったからと言って変わらないような気がする。


『分かってません。分かってませんよ。お兄ちゃん。【ポーション作成】の能力があれば、そんな事はお茶の子さいさい、へのかっぱ、なんですよ。そのことを何より理解しているのはお兄ちゃんのはずですよ』


 確かに俺が読んだ小説の中には【ポーション作成】能力で無双する話がいくつもあった。


『【ポーション作成】ってこの世界でもできるの?』


『できますよ。お兄ちゃんに授けた能力ですからね。この世界だからできないという事はないですよ』


『でもアクゥルアっていう世界と違って、この世界って困っている人がそんなにいない気がするから、俺が出る幕なんてないんじゃあ………モエールさんの名を広めるのは無理そうっていうか………異世界ならそれもありかな、なんて気になってたけど冷静に考えれば俺がそれをするメリットって何もないような………』


『あっ、あっ、なんて酷い事を………私は能力を振り絞ってまで、お兄ちゃんを蘇らせて、能力を授けてあげたというのに……鬼です、鬼畜です。あんまりです~』

 

 ベッドに顔を埋もらせる。


 それを見ていると、なんだか気の毒な気しかしない。手違いとはいえ、この世界に生き返らせてもらったのは事実である。俺は決心した。


『わかったよ。どこまで、できるかわからないけど頑張る事にするよ』


 顔を上げて、満面の笑みを俺に向けた。

「うわ~ん。ありがとう。お兄ちゃーん」

『ぐふふ。チョロイ』


 心の声が【念話】でだた漏れで、俺は心配になった。 

 


  

 

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