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またねのない場所

作者: 春風 月葉

 思い出は場所に残るものだと思う。

 私がこの場所を訪れたのは三年前の冬だった。

 たった一度、それもほんの僅かな時間だったため、ここに来るまで私はそのことを忘れていたけれど、自分がこの場所であの子と出会っていたことを思い出した。


 三年前の冬、私は父と共に身体の弱かった母に会いに来ていた。

 まだ子供だった私は静かな部屋の中がつまらなくて、母に会うとその後は一人で外に出て行った。

 そうして偶然、建物の裏庭で一人の少女に出会った。

 彼女は私より二つ三つ歳が上なのに、私よりも背が低くて、手足は触れたら壊れそうなほど細く、母と同じような服を着ていて、その隙間から覗く肌は青白かった。

 彼女は私にお話をしようと言った。

 私は首を縦に振った。

 彼女はほとんど何も話さず、終始私ばかりが話していたのを覚えている。

 少し時間が経つと、私は両親のいる部屋に戻らなければならないことを思い出した。

 少女にそれを伝えると彼女は寂しそうな顔で私に手を振った。

 私は彼女にまたねと言ったが、彼女は首を縦に振らず、ただ手を振り続けていた。


 母が死んでしまったのはつい先程のことだ。

 私が病室に着いた頃にはもう遅かった。

 父が母の手をずっと握っていたのを覚えている。

 病院の中では声をあげてなくこともできないから、私は外に出て裏庭まで来ていた。

 三年前、この場所で出会った少女は今の私と同じくらいの歳だった。

 彼女はあの日、何を思っていたのだろう。

 この場所に来ると私は誰かを失ってしまうような気がした。

 今この場所で死ぬことができたなら、私の心もずっとこの場所にいられるのだろうか。

 離れたくない、失いたくない、会いたいと思う気持ちを無理矢理止める。

 流れた涙にハンカチだけでは足りなくて、コートの袖で拭いてから私は病院に戻る。

 自動ドアが開くと嫌な匂いがした。

 次はここで誰を失うのか、私はまたそんなことばかりを考えていた。

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