Dカップって、シリコン何cc?(解答編)
「お~、いいおっぱい入ったわね~」
CASTの控室に顔を出すなり、リエさんがニコニコして言った。
ようやく前かがみにならなくても歩ける程度に回復した私は、手術のためにお休みをもらっていたマスカレードにあいさつに来たのだ。
「はい! 私のおっぱいです!」
私も笑顔で答える。
「どれどれ」
おもむろにリエさんが胸のほうに手を伸ばしてきたので、私は腕でおっぱいを隠すようにして「いきなり何しようとしてるんですか!」と言った。
「何って、決まってるじゃな~い」
リエさんは「良いではないか、良いではないか」と舌なめずりしながら、なお私との距離を詰める。
私が半泣きでナナさんに助けを求めると、ナナさんは苦笑いしながら「仕方ないわねぇ」と言った。
「いや、エリカちゃん。マジレスすると、術後はおっぱいが……っていうか、シリコンが固まっちゃわないように、胸のマッサージしないといけないじゃない?」
リエさんが真顔になって言う。
そういえば、確かに病院でもそんな話をされたっけ。しかし、まだ痛みも残っているし、ちょっと恥ずかしいような気持ちもあり、あまり自分で揉んだりしていなかった。
「自分でやってるの? マッサージ」
リエさんが意地の悪い顔で言う。
「う~、やって…… ません」
リエさんは、嬉しそうに「そうじゃろう、そうじゃろう」と言い、再び私の胸に手を伸ばす。
「フーム」
仕方なく、私が無抵抗に胸を揉まれていると、リエさんは少し考えて「ズバリ、Dカップ。350cc!」と言った。
私が何のことやらわからず呆然としていると、ナナさんが「リエちゃんの得意技なのよ。カップとシリコンバッグの容量を当てるのが」と言った。
「どうよ」
リエさんは、勝ち誇ったように言った。
「…… 正解です」
なぜか私はとても悔しい気分にさせられた。
リエさんが「よっしゃ!」とガッツポーズをしている横で、ナナさんが「夏休みが明けたら、大学にも女の子の格好で行くの?」と聞いた。
「はい。ずっと本当の自分を偽り続けることはできませんから」
「そう……」
ナナさんは、にこりと笑ってリエさんと二人で控室の隅のほうへ行った。
「ナナ姉、降りるんだったら今のうちよ」
リエさんが、ひそひそ声で言いながら私のほうをチラッと振り返る。
「いやいや、いくらエリカちゃんがかわいくなったからって、いきなり告ったりとか、あるわけないでしょ~」
ナナさんもひそひそ声で答える。
「じゃあ、決まりね。負けたら焼肉アンド飲み放題」
「乗った!」
話がついたようで、二人して私のところに戻ってくると、口々に「おっぱい入って良かったね」「これで大学にも女の子デビューだね」などと笑顔で言った。
私は、引きつった笑顔で「はあ、どうも……」などと答えながら、本気で転職を考えたほうがいいかもしれないと思った。
拙著『医大に受かったけど、親にニューハーフバレして勘当されたので、ショーパブで働いて学費稼ぐ。』の、本編では語られなかったサイドストーリーです。
『ダンジョンメンタルクリニック』シリーズと併せてご覧いただければ、より楽しめるかと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。