エピローグ
やはり僕も、ミツヤがヒロトと同じようにあらゆる人からこっぴどく怒られた。その後の進学も危ぶまれたけれど、なんとか僕らは退学などにはならずに各々の進路に進むことができた。
ヒロトは工業高校に入学してそのまま卒業し、両親の実家を継いだ。今でも、この不況のなか質のいい製品を供給し続けそれなりにやっているという。ミツヤは、遠くの大学に進学して、専門を生かして民間の研究所で働いているという。難しくて僕にはよくわからなかったが、自動運転の研究らしい。やはり、僕らの人生にとってマコトの死はとても大きかったのだ。
僕は、あの時二人に話した通り公務員になった。ただし、市役所の職員じゃなくて、警察官だ。僕の初仕事は、駐車違反とスピード違反の取り締まりだった。これほど取り締まりを熱心にやる新人はみたことがないと、当時の先輩に褒められたことは今でも僕の記憶に残っている。
そして僕は結婚して子どもを授かった。男の子だ。息子は、今年で小学生の高学年になる。そろそろ、大人の決めたルールに疑問を覚え始めるころ合いだ。
ある日息子は、僕に向かってきっと、こう問いかけるのだ。
「どうして、火花に近づいてはいけないの」
と。
そして僕はこう答えるのだ。
「怪我をすると危ないからだよ。だから決して、夏休みの間は火花のそばに近づいてはいけないよ」
今までは僕の言うことはすべて正しいと信じて疑わなかった無邪気な目に、今は疑いと不信の色が宿っている。僕は無意識のうちに、右腕に残った火傷のあとを反対の手で触るだろう。僕が一年長袖を着ている理由。それに、息子が気付くのはいつになるだろうか。
今年の見張りは気合いを入れてかかろうと、僕はそのとき決心するのだ。