スキルクリエイター、試合する
翌朝、修練場に集められた生徒達に武器や防具が渡された。
「うおっ!すげえ!剣なんて初めて見た!」
「えー!なにこの服!ヘソ出ちゃうじゃん!」
「おっ!いいな!着ろよ!」
「やだ〜、えっち〜」
ワイワイと騒ぐ生徒達とは対照的に一葉は騒げずにいた。
何故なら一葉に渡された装備はどれも生徒達に支給されている装備より数段劣るものだったからだ。
だが、装備しないよりはマシだと考えた一葉はそれを装備する。
粗悪な鉄の剣と盾。そして、ボロボロの革鎧に身を包んだ一葉は、勇者というより盗賊の下っ端にでもなった気分だった。
「全員揃ったようですね。それでは勇者様方、私の話を聞いてください」
そう言って初日とは違い丁寧な言葉遣いで鎧男、レイクが二回手を叩く。
それでもザワザワと騒ぐ生徒達。
スッと、雄二先生が立ち上がる。
「静かにしろっつってんだろうが!ぶっ殺すぞ!」
その叫び声と共に地面を踏み抜く、すると、修練場の床に蜘蛛の巣状にヒビが入る。
脚術のスキル【大激震】である。
雄二先生のスキルを目の当たりにした生徒達は、表情を青ざめさせて黙る。
そんな生徒達を見て、鼻を鳴らすと、雄二先生は地面に座る。
「おい、続けていいぞ」
「は、はい。それではですね_」
雄二先生の圧倒的な力を目の当たりにして、呆然としていたレイクは我に返ると説明を始める。
「本日からしばらくの間、勇者様方にはスキルの使用や、武器の扱いを覚えていただきます。その後、近くにある迷宮【クノウノ地下迷宮】にてレベル上げを行ってもらう予定です」
質問は?とレイクが尋ねるが、手を挙げるものはいなかった。
「ふむ…質問はないようですね。それではグループを作って練習を始めてください」
そう言われて各々仲良しのグループで組んでいく。
しかし、一葉は寝不足でぼーっとしていたせいで、組み損ねてしまった。
周囲を見渡しても全ての生徒がグループを組んでおり、1人でいるのは一葉を除けば、生徒達に指導を行っているレイクか、やる気なさそうにタバコをふかしている雄二先生しかいなかった。
(どうするんだよこれ。仕方ないスキルクリエイトでもして時間を潰すか)
そう考えた一葉は、【スキルクリエイト】を使用。
目の前に見慣れた画面が現れる。
スキルクリエイトシステムの特徴はなんといっても、既存のスキル同士の組み合わせによって作られるオリジナルスキルだろう。
例えば、【火魔法】と剣術スキル【四連斬】という、四連続の斬撃を放つスキルを組み合わせれば【四炎連斬】といった具合に火属性の四連斬を作れたり、その逆で【炎連撃】という炎を連続で放つ魔法スキルに変えることも可能という、実に奥が深いシステムなのである。
ℹ︎O内で、一葉よりこの技術で右に出るものはいないと言われていた。
一葉の作品は汎用的なものから、ピーキーなもの、更に使い所がわからないネタのようなものや、殺人用に特化したものなど、多数存在していた。
しかし、レベル1でSPも無い一葉は簡単にできるスキルを作るのだった。
「えーっと、剣術スキル【諸刃の一撃】と盾術【最後の砦】を合成…っと、成功だな」
出来上がったスキルは【諸刃の砦】というスキルだった。
効果は自身のHPを1まで減らすというものだった。
このままではデメリットしか無いため使えないゴミスキルである。
しかし、これを素材に更に合成していくのだ。
「次は、盗賊スキル【影踏不】とオリジナルスキル【諸刃の砦】を合成…成功」
そうして出来上がったスキルは【諸刃の砦の影】という最早意味のわからない名前のスキルだった。
効果としては体力が少なければ少ないほど素早さが上がるというものである。
「あれぇ?役立たずの宗賀君じゃないかぁ。誰とも組まずサボりとは関心しないねぇ?」
一葉がスキルの出来に満足して次のスキルクリエイトを行おうとしているとねちっこい声で声をかけられる。
一葉がそちらを振り向くと、そこにはメガネをかけた小さい男がニヤニヤと笑いながら立っていた。
メガネの男_飯山大輔は剣を抜く。
「さあ、僕と試合をしよう。そうすれば少しは君も使い物になるんじゃないかなぁ?」
そう言ってケタケタと笑う飯山を見て一葉は、面倒だなあ。と思っていた。
正直、ステータスの差なんてものは大した問題ではない。上位殺しなんてものは昔からよくやっていたからだ。
ただひたすらに面倒くさい。
しかし、時既に遅くギャラリーが集まってしまっていた。
レイクがやってくると、2人の状態を見て「うむ」と頷く。
「試合ですか、よし!それでは双方相手を殺すのは反則ですからね。それでは開始!」
開始の合図を聞いた飯山は、一葉を舐めているような目で見る。
「ひひっ!君に先に攻撃させてあげるよ」
「そうかい、ありがとよ。【諸刃の砦の影】」
一葉がスキルを放った途端、その身体から血液が噴出し、周囲のギャラリーは短い悲鳴を挙げる。
飯山もこれは予想外だったのか、驚いたような表情を浮かべていた。
一葉も予想以上の痛みに驚いていたが、確認したステータスの素早さの値が雄二先生すらも抜き去る高さになっていたことを確認し、満足する。
飯山は漸く、驚きから回復したのか、粘っこい笑みを浮かべる。
「自分を傷つけるスキルだなんてバカだなぁ?それじゃあくらえ!【ソードレイン】!」
飯山がスキルを放つと上空に半透明の剣が無数に出現して、一葉に降り注ぐ。
場の誰もが一葉の敗北だと思ったが、結果は違っていた。
なんと一葉は全ての刃を踊るように躱していたのだった。
そして、ソードレインの効果時間が終わった時、そこにはスキルを放たれる前と全く変わらない一葉の姿があった。
「なっ…!どうやって避けた!」
「普通に避けただけさ。それじゃ、俺の番だ、なっ!」
そう言うと一葉の姿がかき消える。
辺りを見渡す飯山の背中にポンと触れる者がいる。
飯山はあり得ないと思いつつ壊れたブリキ人形のように、ゆっくりと振り向く。
するとそこにはにっこりと笑う一葉の姿があった。
「それじゃあな、【起死回生】」
「うぎゃあああ!」
一葉の放った盗賊スキル【起死回生】によって、飯山は放物線を描いて修練場に激突し、気絶。
一葉の完全なる勝利だった。
※こちら不定期更新となっております。