2-1 手作りの破壊力
急いで書いたので少し読みにくいかもしれません。
おかしな所は発見し次第、修正していきます。
百合花と出会ってから数日が経過した。
結局あの日以降、毎日公園に行き、百合花と話をするのが日課となっている。
話の内容は基本的になんて事ない日常についてだ。
特に百合花は自身の話よりも、他人の、つまりは葵についての話を聴くことが好きなようだ。
その為基本は百合花が質問をして、葵が答えそこから話を発展させていくといった感じである。
しかし、この日はどうも少し違った。
「あ、あの……葵さん」
モジモジとしながら、小さい声で百合花が葵に話しかける。
「……ん?どうしたの?」
ここ最近は会話をするのにも慣れてきたのか、あまりおどおどとすることが無くなってきただけに、葵はその違和感に首を傾げた。
「あの実はですね……これなんですが」
「これ?」
そう言って百合花が取り出したのは、一つのバスケットだった。
「バスケット……?」
葵は突然目の前に現れたそれに首を傾げる。
しかし、それも仕方ないと言えるだろう。
なぜならば、昨日までの話題の中に、バスケットやまたそれに関連するものの話題は出ていなかったのだ。
だが、この状況自体には覚えがあった。
覚えがあるとは言っても、実際に体験した訳ではない。
しかし、はっきりとその場面に出くわした事はあった。
そう、漫画や小説といった形で。
「…………っ」
ゴクリと息を飲み込む。
もし葵の予感が正しければ、これから体験することは、「あーどうせこんなこと一生体験することはないんだろうな」と半ば諦めていたことだ。予感とはいうが、十中八九そうだろう。
現に、バスケットの辺りから香ばしく甘い良い香りが漂ってくるのだ。
バスケットを見つめ、何やら真剣な表情を浮かべる葵。
そんな葵の前で。
「あの、お口に合うかわかりませんが……どうぞ!」
言って、百合花がバスケットを開くと。
「クッキー……?」
そう、その中身はハート、星、ダイヤなどなど色々な形をしたクッキーだった。
「はい。クッキーです。……その、一応私の手作りです……」
「手作り!?マジ!?」
手作り。その3文字の、しかし圧倒的なまでの破壊力に、葵は思わずバッと百合花の方を向き、声を上げてしまった。
「は、はい!」
葵の謎の威圧感に若干気圧されながらも、百合花は返事をした。
「手作り……女の子の手作りかぁ……」
彼女いない歴イコール年齢であり、それ以上に今迄女友達すらいなかった葵。
先程もしかしたらと考えてはいたが、実際に体験することになるとこうも破壊力があるのかと葵は謎の戦慄感に襲われていた。
「で、ではいただきます」
「は、はい。どうぞ」
あの後、クッキーを目の前に固まっていたが、ついに葵は動き出すと、言葉と共に手を伸ばし、クッキーを一つ手に取った。
持ち上げたことでより強まる、甘く芳ばしい香り。
その香りに葵は恍惚とした表情になりながら……遂にクッキーを口に入れた。
「…………ん!?」
爆弾。
そのクッキーを一言で表すとしたら、その言葉が正しいだろう。
口に含んだ瞬間に広がる香りに旨味。それが噛んだ瞬間に鼻腔を抜けていく。
「う、美味い……」
これが、女の子の手作りお菓子か。
おそらく百合花がおかし作りが上手であることがこの美味しさに繋がっているのだろう。
しかし、葵は、女の子の、それも一目惚れした子に手作りお菓子を作ってもらったというその事実が、この美味しさの根幹を担っているような、そんな気がしていた。
「……ふふっ」
と。葵が百合花の作ったクッキーに舌鼓をうっていると、突然百合花がクスリと笑った。
「…………ん?」
それに気づいた葵は、クッキーから視線を百合花へと移す。
「あ、いやごめんなさい。失礼かもしれませんが、葵さんが何だか子供のように可愛くて……つい」
「可愛い……か」
自身よりも3つほど若い少女に、子供のようで可愛いと言われる。
状況によっては、バカにされていると怒る人もいるだろう。
しかし、葵はその百合花の言葉に嬉しさと、若干の照れ臭さを感じていた。
それは百合花が年下であることを思わせないほどに、落ち着いた雰囲気を持っているからだろうか。
まぁ、実際は男として可愛いよりもかっこいいと言われたい所ではあるのだが。
その後も百合花と葵はクッキーを食べながらいつものように会話を続けた。
クッキーの甘く香ばしい香りに包まれながらする会話は、何故だかいつも以上に心弾むものだったような、そんな気がした。