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由衣の冒険5  作者: 和瀬井藤
サイクリング
24/43

 それなりの距離を走りたいという事になったが、今のままでは難しいという話になり、少し慣れてからサイクリングに行こうと決まった。

 そういう事で、一週間ほど由衣は早紀と一緒に自宅付近を走り回っていた。

「割と楽に走れる様になったなあ。坂道は辛いけど」

「ふふふ、由衣はがんばっているわ。素敵よ」

「いやあ、それほどでもあるかなあ」

 由衣は少し自信が出てきた。平坦な道ばかりなら、割合走れるものだと思った。

「さあ、シャワーを浴びてお昼にしましょう」


「――サイクリングかい。いいね、楽しそうだねえ」

 カフェY&Hの店長、中村は、由衣の話に笑顔で答えた。

「わたしみたいな運動オンチでも、意外と走れるもんだなあってね」

 由衣はカレーライスを頬張りながら、終始ご機嫌だ。隣で一緒に食べる早紀も言う。

「二十キロくらいの距離なら普通に走れると思うわ。すごくがんばっていると思うの」

「前だと考えられなかったけどね」

「そういえば、食べる方も随分食べられる様になったんじゃないかい?」

 中村は、由衣の食べっぷりに少し驚いていた。

「うん、前よりお腹が空くようになったんだ。それにおいしい。もちろん、Y&Hのカレー自体もすごくおいしいよ」

「ははは、ありがとう」

 以前の由衣は、通常の半分くらいしか食べられなかった。なのでいつも量の少なくしてもらっていた。今日は通常の量のカレーライスなのだ。しかも、それがもう少しで完食できそうである。

「うん、運動の効果が出ているのかもしれないね」

 中村は頷くと、由衣を見て微笑んだ。


「——やっぱさあ、吉備高原都市まで行かない?」

 滝澤は、iPadでグーグルマップを見ながら、煎餅をひと口食べた。

「吉備高原都市って、ちょっと遠くないかな?」

 由衣は否定的だ。

「そう? 三十キロかそこらでしょ。楽勝よ」

「いやいや、それ片道でしょう。帰ってこなきゃならないんだから、実際は六十キロだし!」

 由衣にとっては六十キロはおろか、三十キロですらまだ走った事がない。もちろん走れる自信などない。発症前なら、そのくらい楽勝だったが、今の体では……。

 吉備高原都市とは、岡山県中部の山の中にある街だ。いわゆる計画都市で、様々な構想の元に作られた。が、交通の便が悪すぎる、そもそもの財政難などの問題が山積し、現在はかなり寂しい状態である。計画通りとは言い難い。ちなみに周囲は完全な山の中の田舎であるため、知らずにやってくると、突如として街らしき建物などが見えてきて驚く。

「それに吉備高原都市だと、山の中だから……上り坂が多くて辛いかもしれないわね」

 早紀がさらなる厳しい点を指摘した。由衣が提案する。

「往復で二、三十キロ程度でいいんじゃないの? それだったら……国分寺くらいでいいんじゃないかな」

 国分寺とは、岡山県総社市にある備中国分寺の事だ。五重塔などの建物や、付近ののどかな自然が風光明媚である。ちなみにここから、岡山総合グラウンドまで、サイクリングロードがある。少し解りにくいルートだが、平坦な道ばかりで割と走りやすいと思う。

「えぇ、国分寺じゃ近すぎよ。あっという間じゃないの」

「そんな事ないって。そもそも先生は、そんな長距離走れる自信あるんですか?」

「私は楽勝よ。なんせ愛車が由衣とは違うしぃ」

 ニヤニヤする滝澤に、早紀が言った。

「先生は国分寺までは、走った事はあるんですか?」

「え? いや、まあ……走った事はないけど、大丈夫じゃない?」

「もう、適当だなあ……」

 由衣は呆れた。続いて早紀が言った。

「……やっぱり国分寺くらいが、ちょうどいいかもしれないわ」

「だよねえ」

 由衣は同意した。

「ええ、まったくしょうがないわねえ。ふっ、まあ初心者に合わせるというのも、上級者の余裕というものかしら」

「……先生」


 一週間後、由衣達は国分寺までのサイクリングに出発する事になった。由衣のマンションから出発する。

 由衣はこの日のために、様々な装備を買い揃えた。ヘルメットに、サングラス。指切りグローブも購入した。ウェアは自転車専用ではなく、スポーツ用のインナーにシャツを羽織った。下は膝までのカーゴパンツである。足元はスニーカーだ。それに小さめの自転車用リュックを背負った。

 早紀も似た様な格好である。早紀はロードバイクだが、ビンディングペダルはまだ装着していないので、足元も普通のスニーカーである。

「由衣、かっこいいわ。とっても素敵よ」

 早紀は、由衣を見て言った。

「ははは、ありがと」

 照れた顔で由衣が言うと、

「それじゃあ、あとは先生を待つだけだね」

 由衣は時計を見ながら言った。


 十分ほど待ったところで、滝澤がやってきた。

「イェイ! お待たせぇ」

 相変わらずの気合満々の姿である。今日は、前回とは違うウェアを着てきた様だ。

「先生、こんにちは」

「由衣も早紀も、今日は張り切って走るわよ!」

 滝澤は、とにかくテンションが高い。


 由衣の自転車は、アメリカのメーカー、トレックのクロスバイクだ。オレンジのカラーが気に入っている。

 早紀の自転車は、イタリアの老舗メーカー、コルナゴのロードバイク、CXーZEROというモデルである。値段は約三十万円で、ミドルクラスのロードだ。

 そして、滝澤の自転車は……同じくイタリアの老舗メーカー、デローザのロードバイクである。アイドルという名称のついたモデルだ。これはフレームのみの販売らしく、走れる様にするには、たくさん部品を揃えて組み立てなければならない。無論、滝澤は選ぶだけで、組立は店がしてくれる。しかし、合計で五十万円以上になったというから、ずいぶんお金をかけたものである。


「それにしても……気合が入ってますね」

「当然でしょ。私達、走るのよ」

 滝澤は、まさにフル装備だった。本人の身なりは上から、ヘルメット、サングラス、レーサージャージ、レーサーパンツ、指切りグローブ、そして足元はビンディングシューズである。とてもお金がかかってそうな身なりだ。どれも割合高額なものを身につけている。

「それじゃあ、出発しましょうか」

「しゅっぱぁつ、シンコォ!」

 滝澤が片手を振り上げて言うと、三人は元気良くマンションを出た。

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