処刑台、末期の告白
西欧のとある国に古い断頭台があった。世界で初めて造られた由緒も由縁もある断頭台だ。
断頭台が提議されて初めて設計され、数えきれないほどの首を斬り、血に塗れてきた死刑執行の象徴。かつては断頭台といえばそれのことを言い、畏怖と狂喜を集めた。
しかし、時が流れる内に断頭台はそれ一つではなくなり、人々は最初の断頭台のことを忘れていった。
断頭台という種類の道具の一つでしかなくなったそれに心があったことも知られないままに。
この思いを知ることになった誰かがもしいるのであれば、どうぞ私の最期の言葉を馬鹿にしないで心に留めておいてください。
私はもうすぐ死んでしまうでしょう。
随分と長い年月を過ごしてきました。お父様に造られて以来、さる高貴な女性からつまらない物盗りまで、数え切れないまでの首をせっせと斬りました。
柔らかい頚椎の方は良いのですが、骨の硬い韋丈夫だと刃が痛んでしまうんですよ。お父様が硬くて綺麗だねと褒めてくださったチャームポイントでしたが、今は随分傷や曇りが増えてしまいました。
職人の所へやってくれる時はいいのですが、下手くそな処刑人に研がれると刃が傷んだものです。
沢山の思い出を貰ってきました。受刑者のこと。処刑人のこと。職人のこと。執行される時のこと。
今日も一人、首を斬ってあげないとなりません。何でも痴情の縺れから隣人一家を殺害してしまったとか。
あまり苦しまなくて済むように首を落としてあげるのが私の仕事です。
……もうしばらくしたらこんな風に気を遣ってあげることもできなくなってしまう。
私の枷に嵌めた人にただ刃を落としてあげるだけの無機な自分はきっと愛されることはないのでしょうね。
私は物です。お父様が発明して、高貴な方の首を落として多くの人が私に強い感情を抱いた時に、私はまだ世界に一つだけの私だったから意識を得ることができました。
けれど、私だけの名前、私だけの感情、それが多くの私が造られていく中で私だけのものではなくなっていく。
私は無数の私の中へ溶け込んでいくことで私だけの名前が無い物へなっていってしまう。そうなった時、意識も記憶も感情も失って、私はただの処刑台になる。
それが怖くて怖くて堪らない。
皆が私を刃が滑落する木組みの台座として見て、あの日あの場所であの高貴な人の首を斬った私を忘れてしまう!
お父様が呼んでくださった名前を無くしてしまう!
私は私を忘れたくない……。
また一つの首を斬り、鮮血と観衆の叫びを身を浴びると意識が霞んでいく。眠いような、疲れたような、虚脱感。
誰もが私をただの断頭台。無数にある道具の一種だと忘れていってしまう。
ああ、どうしようもなく恐ろしい。
私は意識もなく預けられた首を斬るだけの物に成り果てるのは嫌です。そんなことには堪えられない。
自らの名の元に罪人へ赦しと安息を与える誇りある物だったはずだ。
もう誰の首も斬りたくはない。
誰か私の声を聞いて。
誰か私の名を呼んで。
私は処刑台。
名前の無い怪物にはなりたくない。