フラグ建築は何かがおかしい?
前作への評価・ブックマーク有難うございました。
ご期待に沿えるか分かりませんが、続編になります。
五歳の時に高熱を出して、私は転生していて、ここが前世大好きな乙女ゲームの世界だということに気付いた。私という見た目や名前は特に覚えがなかったので、きっとモブなのだという結論に落ち着く。そして私は、大好きだった、所謂悪役令嬢のクロディーヌ様にお近づきになろうと、この物語の舞台となる魔法騎士団への入団を決意したのだ。
――――そこまでは、良かった。
入団するための勉学や訓練に熱中していたあまり、私は重大なことに気付かないまま物語の舞台に首を突っ込んでしまったのだ。
というのも、なんとこの世界、『キャラクターの性別が逆転した乙女ゲーム』の世界だった。イケメンが美少女になっていた。私が大好きだったクロディーヌ様は美少女から美しい青年へとジョブチェンジしていた。ちなみにその時には、私はもう既に彼の部下になっていて、現実を突きつけられたとき、私は卒倒した。
ただ、性別は違ってもやっぱり性格はあのクロディーヌ様のままで、性転換が地雷ではなかった私はなんだかんだ現実を受け入れ、彼女もとい彼の幸せを願うことにしたのだ。そう、具体的には、彼の恋を応援することである。
彼、クロード隊長の元で色々経験を積んでいく中で、気がつけば私は隊長の右腕的な存在になっていて、必然的に隊長を取り巻く環境を見る機会が多くなった。そこで気付いたのは、さすが悪役令嬢ポジションなだけあって、攻略キャラとの接触は多いことだ。それに、私からすれば彼女たちは隊長に、恋とはいかずとも良い感情を抱いているように見えた。
例えば、第三王女、フランソワーズ・ギヴァルシュ様。彼女は頻繁に隊長をお茶に誘う。そして二人で楽しそうに話をしている。二人とも身分が高い方だから、色々話も合うのだろう、多分。そして私は何故かよくそのお茶の準備をさせられ、そしてそのまま同席させられる。気を利かせて出ようとしたら、隊長が睨んでくるのだから仕方ない。隊長はどうやら美人と二人きりになるのが恥ずかしいのだと思う。意外と照れ屋さんなのかな。
例えば、騎士、シルヴィ・ジェデオン様。彼女は頻繁に隊長と稽古をしている。隊長は魔法職で優秀な人だし、シルヴィ様は騎士職で優秀な方なので、練習も上手くいくだろうし、自分の能力アップにもつながるだろう。そして私は何故かよく稽古の審判係をさせられる。気を利かせて辞退しようとしたら、隊長がそれぐらいできないのかと怒るのだから仕方ない。隊長はどうやら真面目に稽古をしているらしい。少し位の下心、あってもいいと思うけどなあ。
例えば、天才魔法使い、ナタリー・ブランザ様。彼女は頻繁に隊長と魔法について互いに教え合っている。二人とも優秀な魔法使いなので、弾む話もあるだろう。そして私は何故かよくその教え合いに参加させられる。気を利かせて断ろうとしたら、お前も勉強しろと無理矢理連れていかれるのだから仕方ない。隊長はどうやら部下想いのようだ。いや、これは実際私も為になっているけど、二人には申し訳ないです、邪魔して。
こんなにも美少女、美女たちが隊長の周りにいるのに、隊長が誰ともくっつかないので、とうとう二年が経って主人公が来る時が来てしまった。ここで私は、もしやよくあるゲームの強制力とやらが働くのでは、という不安を抱く。だって、ここまでイベントが起こって隊長が誰とも恋仲にならないのはおかしい。何かある気もする。
そして、強制力がもしあれば、主人公と攻略キャラのフラグが立つと、どんどん隊長が悪役になってしまうのだ。それではゲーム通りになるので、困る。
――――こうなったら腹を括るしかないのは明らかだった。
ついに私の前世のゲーム知識が猛威を振るう時が来る。
さあ、今こそ、隊長の恋路を邪魔する奴のフラグを叩き潰すのだ!!
▽
あっさりとその時は来て、その日は光の属性を持つ平民が入団するという話で持ち切りだった。さあ、ゲーム通りのイベントが始まる。……性別逆転しているけど。
主人公はちゃんと男になっていて、ここまでくると安心した。もし女のままだったら、女で女を攻略……?という、私には未知の世界になっているところだった。
さて、まずはさっさと主人公と出会ってしまおうと思い、私は主人公との出会い頭ににこりと笑いながら挨拶をした。
「初めまして、貴方が噂の新人さん?私はシャルロット。よろしくね」
ここでは貴族言葉なんて一切使わないので、前世の時のように喋れるのがありがたい。私はどうも堅苦しいのは苦手で……前世の庶民魂が残っているのかな。
「初めまして、ニコラといいます。よろしくお願いします」
主人公――ニコラは、ぺこり、と挨拶をしてくれた。とても感じが良い青年だ。主人公のビジュアルはそこまで出ていなかったので他のキャラほどの衝撃はないけれど、それでも主人公の女の子の面影が残っている。
「貴族ばかりで大変でしょう。困ったことがあったら言ってね」
「っ、あ、ありがとうございます!」
よし、掴みはばっちり。これで主人公と仲良くなれるはず。ただお互いに勤務中なので、お話しは程々にして引き上げた。これから頑張ろう。
やり込んだだけあってストーリーは覚えているけれど、攻略キャラと主人公の出会いはどうやっても避けられない。だから、その先の恋愛フラグを叩く必要がある。……私はできる限り折る努力をするけど、それでも攻略キャラが主人公になびけば、それはそれで仕方ないと思っている節もある。だって、主人公になびく人は隊長にふさわしくない、という姑みたいなことを思っているからだ。でも、その子のことを隊長が好きだったら、それは努力したいと思う。隊長が誰の事好きなのか、まだ目星はついてないけれど。
起こるイベント全部私が邪魔をするのは無理だとして、重要なポイントは押さえておきたい。手っ取り早いのが3週間後に起こる糾弾イベントだろう。主人公に嫉妬した貴族たちが、無い罪を擦り付けて、主人公を追い詰めるのだ。ここでは、一番好感度が高いキャラが助けに来てくれて、ぐんと距離が縮まる。だから、攻略キャラがいくはずのところを私が邪魔をして、私が主人公を助けちゃう作戦だ。うん、完璧。
このイベントは日付も明確なので、先回りがしやすい。上手く立ち回ってみせる。
▽
それからちょくちょくニコラとは話し、知り合い以上の距離には縮めたはず。そして、今日が、ついにニコラが糾弾される日だ。隊長はフランソワーズ様とのお茶会中だが、今日は、私は用事があると言い逃げ出してきた。申し訳ありません隊長。でも、今日はフランソワーズ様と二人きりだし、きっといい雰囲気になっているだろう。良いことをした。
思いの外ニコラの姿が見えず焦っていたら、怒鳴り声と騒音が聞こえてきた。間違いないと思いその方向へ行くと、人だかりと、その中心にニコラがいた。遅かったかと焦る。
「平民のくせに、いい度胸してるな?」
あ、この台詞。まだ大丈夫だ。というかね、平民のくせにとか、そうやって醜い嫉妬をしている人間は貴族どころか平民以下だと思うのだけれど。……まあそれはいい。攻略キャラが入ってくる前に、私が割り込まなければ。
「騒がしいけれど、何をされてるんですか?」
私がそう言うと、水を打ったように静かになった。ふふん、これでも隊長の側近的な扱いで一目置かれていますからね。
「この平民が、昨日の晩――――……」
醜い貴族様たちは、そうやって無い罪を私に言ってくる。これも想定済み。だから私は確実に助けられるように、罠を張った。
「昨日の晩ですって?私、昨日の晩、ニコラと会っていたのですけれど。ね?」
「は、はい!」
私が問うと、ニコラはこくこくと頷く。
昨日の晩、と言われるのは分かっていたので、私はあえてニコラをこっそり夕飯に誘い、遅くまで歓談していたのだ。店にも聞けば分かるだろう。アリバイはばっちりだ。
「な、シャルロットさんみたいな方がこんな平民と――」
「私はそんな身分気にしません。確かに私は彼と、昨晩夕飯を共にしていましたから。店の方にも聞けば分かることです。むしろ、わざわざ身分を盾にして他人を無い罪で糾弾している貴方たちに、貴族を名乗る資格があるとでも?」
そう言うと全員黙ってしまった。
爽快感がすごい。勝ち誇った気分だ。
「ね、では、今回は、ただの勘違いということにしておきましょう」
にこりと笑ってやると、野次馬や貴族様たちは口々に何かを言いながら去っていった。
「……シャルロットさん、ありがとうございます」
「いえ、気にしないでね。私が勝手にやったことだから」
「で、でも、申し訳ないので……お礼、させて下さい!」
この台詞はゲーム通り。どうやら何故かモブの私でも代役を果たせたようだ。勿論、お礼は有り難く受け取ることにし、今週末の休日に街に遊びに行くことになった。
▽
「すごい!ねえ、ニコラ、あれ何?」
「あれは口の中に入れるとぱちぱちはじける飴です。カラフルで綺麗ですよね」
週末、街で行われている祭りにニコラと二人で来ていた。貴族である以上、前世は庶民といえど、貴族らしいことをしてこなかったので、とても楽しい。元は庶民なのでなんなくこの空間に馴染めた。それがニコラにとっては驚きだったようだが、そんな私を見て楽しそうに笑っていたので、嬉しい。
「あ、あのベンチ空いてますね。あそこでご飯にしましょう」
両手いっぱいに食べ物を買って、にぎやかな声から少し離れた所のベンチに座る。もぐもぐと買ったものを食べながら、他愛もない話をした。
「買い食いなんて初めてした。どれもおいしい!」
「俺はシャルロットさんが思いの外全力で楽しんでくれてて嬉しいです」
本当にニコラは良い子だなあと思う。主人公補正ってやつだろうか。
「あ、そういえば。ニコラって何歳?」
これ、ずっと気になっていた。多分私と同い年だと思う。
「19歳ですよ」
「じゃあ私と同い年だ!ね、敬語やめにしよう」
「え、でも、俺平民ですし……」
「一緒に働く仲間でしょ!それに、ほら、私達、もう友達だもの」
やっぱり同い年だったから、無理を言って敬語をやめてもらおうとした。だって主人公、ずっと敬語だし丁寧だし、もっと砕けた姿見てみたいとはかねてより思っていたのだ。そういう目的もあるし、友達だった方が色々便利だという気持ちもあるけど、ニコラとは友達になりたいのは本心だし。主人公だからと敵のように思っていたけど、なんだか守ってあげたいような、そんな気分になってしまっている。私も主人公にあてられているのだろうか、ただのモブのはずなのに……。
「わ、分かったよ。シャルロットさんがそう言うなら……」
「ロティでいいよ。家族や友達はそう呼ぶの」
「えっと、ロティ、でいいの?」
「うん!」
これで名実共に私とニコラは友達だ!満足。
ご飯を食べ終わってからも私は二コラを連れ回し、祭りを堪能していたら、もう暗くなってきた。そろそろ時間だろうか。
「いやー、楽しくてつい時間のこと忘れてたね」
「うん。すごい楽しかったよ。ロティのおかげだ」
庶民魂がうずいたのか、本当に楽しかった。また来たい。
「あ、ロティは夕飯どうする?」
「決めてなかった」
「じゃあこの辺でオススメのお店があるんだ。庶民の味が口に合うかどうかは――」
「行く!行く!!」
「反応はやっ!?じゃあそこにしよう」
今の私は庶民の味を求めている。そう思うと、先に言葉が出ていた。ニコラは笑っているけど気にしない。がめつくたっていいじゃない。
――――その店に向かう道中に、事件は起こった。
「あれっ、隊長じゃないですか!」
なんとびっくり、隊長も祭りに来ていたのだ。しかも、シルヴィ様と一緒に。二人とも特に良い家の育ちだから、こんなところにいるのには驚いた。
それは向こうも同じだったのか、私に声をかけられて固まっている。
「あ、ああ。シャルロット殿。こんなところで会うとは偶然だ」
「ええ、そうですね。お二人は……もしかして、デートですか?」
「ち、違っ……!!私が祭りに興味あるからと、無理矢理クロード殿を付き合わせただけで!」
おお?シルヴィ様の顔が赤いぞ……?これはもしかして、脈アリというやつでは?
「あら、そうなんですね。失礼しました」
野次馬根性丸出しで色々聞いてみたいけど、ここは大人しく引き下がる。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られるからね。あと、普通に隊長と誰かが上手くいくのは喜ばしいし。
「シャルロット殿こそ、その……」
シルヴィ様は私の隣で黙っているニコラに目をやる。
「ニコラがお祭りに誘ってくれたんです。とっても楽しくて!こんな時間まで連れ回してしまいました」
「ああ、そうだったんだな。意外な組み合わせなもので」
そうでしょうね。違和感しかない組み合わせだと思う。私ってどっちかというと悪役サイドの人間だし。……あ、悪役といえば、さっきから隊長はなんで黙ってばかりなのだろう。私がいるからニコラは隊長の害じゃないですよと言ってやりたい。
「隊長、黙ってるとなんだか不気味ですよ?」
「お前には関係ないだろう」
あ、デート邪魔するなってことですね。それは失礼しました。
「じゃあお二人の邪魔にならないうちに、私たちは失礼します。
……さ、行こう、ニコラ!夕飯!」
「ちょっとロティ走らないで!ご飯は逃げないから!!」
▽
その数週間後、私とニコラが付き合っているという噂が流れ始めたのにはびっくりしすぎてひっくり返るかと思った。勿論ただの友人だと否定はしたが、邪推されるのは防げないだろう。
―――――ニコラと友達になって満足していた私は、フラグ折りという当初の目的をすっかり忘れていて、この噂でそのことを思い出した。でも、今のところフラグどころかイベントすら起こらなくなったから、いいよね!それに、私が彼女かもと邪推されれば攻略キャラへの牽制にもなるし!これで主人公じゃなくて隊長に流れていって、隊長の恋路も上手くいくはず!
ただ、最近当の隊長の機嫌がすこぶる悪いことには首を傾げるばかりだった。
隊長がとても可哀想なので、いつか続きを書いてあげたいです。出したいキャラもまだいるので。次もあればひとまずは短編でシリーズ化しようと思います。
⇒「イベント発生は何かがおかしい?」に続きます