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1-1 ハングリー精神あふれる《狼男》事件

作者のアッキです。

活動報告と同じ話なので、そちらを読んでる方は飛ばして貰って構いません。

 1873年8月下旬、アメリカのワシントン州ではとある事件が人々の関心を集めていた。

 鉄道会社を中心に、レストランや自動車製造会社、さらには屈強な警備で有名な蒸気機関の軍事施設にまで、そこに居たとされる会社の幹部達が何者かに殺されるという事件が発生したのだ。

 警察は同時多発的な企業攻撃だとして事件の捜査を展開した。


 しかし、事はそんな簡単な事件ではないのだ。

 なにせ、それを目撃した一人の会社員がこんな事を証言したからだ。


 「幹部を殺したのは会社に来ていた男性であり、そしていきなり"化け物となって襲ってきた"」と証言したからである。

 そんな事が噂として広まり、この事件ではこんな事がまことしやかに語られ始めた。


 この事件の影には、月夜を浴びて怪物と化す"狼男"が居ると。


「うわぁ……すっごーいですね」


 空まで高く伸びている建物群、強力な力で高速で走っている蒸気馬車、街を歩いているおしゃれな人達。

 とっても大きくて、けれども歩いている人達の眼はどこまでも寒々としていて――――どこを見ても日本とは桁違いの、まさしく夢の世界だと思います。


 日本から優秀な音大生として海外留学が許された私、滝廉華(たきれんか)は目の前に広がっているアメリカのワシントンという街並みを見て驚いていた。

 こじんまりと、だけれども人情に厚かった我が故郷とは全く違う。


「ここがこれから私の住む街、ワシントン……!

 私が住んでいた街と違ってとても広いですね……うぅ、大きくてとてもこの私に住めるかどうか分からないです」


 これからこの街で私は暮らす訳ですが、大丈夫でしょうか……。

 うん、そう思ってやるしかないですね。とにかく4年間、この夢のような近未来の街で私は暮らす事になるんですから。今から怯えていても仕方がない、ですね。


「よ、よし! まずはこれからお世話になるオキャク・ダイーさんの家に菓子折りを持ってご連絡を差し上げませんと……。え、えっと……お世話になる人への正しい方法は、っと……」


 私はペラペラッと、持って来ていた辞書に書いておいた「正しい挨拶の仕方」というページを読む。既に数十回以上読んでいて内容は頭の中に記憶されているし、何も見ずに何が書いてあるか言えるくらいにまで読み通しているんですが、それでも最後の確認と言う意味では必要です。


「お、落ち着け、私……。ぜ、ぜったいに成功するんだ。

 タレイア大学への進学を取り付けてくれたお母様、それにアメリカ政府と交渉してくれた新政府様のためにもぜ、ぜったいにここで失敗してはいけないんですから」


 すー、はーと息を整えながら、私はオキャク・ダイーさんの住む家へと向かうのでした。

 その時の私はまさか、あんなことが起きるだなんて思っても見なかったんですが。




「いらっしゃい! ようこそ、日本の学生さん!」


「は、はじめまちてです! え、えっと……お、オキャクらん! ……あぅ、噛んでしまいました」


 私がそう言うと「ハハッ、そんなに気後れしないで大丈夫よ?」とオキャク・ダイーさんは笑いながら、私の背中を叩いていた。ううっ、結構強くてい、息がしづらいです……。

 オキャクさんはとても大柄なおばさんで、笑顔がとても良い人。そのおばさんは手に大きな鍋つかみをはめて、こちらに優しく手を差し伸べていました。


「大丈夫よ、英語はちょっと不慣れかしら? けれども、少しずつ慣れていけば良いからね。焦らず、ゆっくりと、ね。

 確かレンカ・タキちゃんね。あのタレイア大学に入学出来るってだけでも凄いんだから、もっと誇って良いのよ? 英語はおばさん、とーっても気が長いから少しずつ覚えていけば良いからね」


「は、はい。オキャクさん」


 うぅ、オキャクさん。問題なのは英語の方じゃないんです、ただ緊張してしまっただけなんです。

 これから大学生として頑張る以上、日本(こきょう)に恥を晒さないように、頑張らないと。


「気軽に読んでくれて良いんだよ、レンカちゃん。

 ほんと、ちっちゃくて、まるでお人形みたいだねぇ。おばちゃん、年甲斐もなく嬉しくなっちゃうよ」


 うぅ……あまり褒められ慣れていないから、そんなに言わないでください。恥ずかしいです。

 と言うよりも、私は普通ですからね! 日本人としては同年代の平均よりもちょっと低いくらいであって、決して小さい訳では……胸は小さいですけれども。


「……さて、おばちゃんは今からシチューを作らないといけないからね」


「シチュー、ですか? えっと、手伝います」


 台所に着いてくる私を見て、「手伝ってくれるなんてうれしいわぁ〜」と、本当に嬉しそうな表情を浮かべるオキャクさん。


「そう! 今日はね、うちの息子が会社に行ってるのよ。いわゆる、就活って奴よね。

 正社員目指して、息子には頑張ってもらわないと。だから、息子が好きなシチューを作って待ってるのよ」


「就活ですか……確か今のアメリカの就活はかなり厳しいんじゃないでしょうか?」


 今、アメリカで「正社員」と言うのはなかなか難しい。

 日雇い労働者で会社事業を行う会社が増えており、一方で正社員の需要は大幅に減少しているみたい。蒸気機関車の中で読んだアメリカ新聞にも、「増える日雇い、減る正社員!」と言うタイトルで長々とコラムが書かれていたくらいである。


「まぁ、でも大丈夫よ。なんたって、今回のは大丈夫だって分かってるから。うちの息子も、すごくリラックスした状態でやって、内定もきっと手に入れて帰ってくるわよ。だからこのシチューは、息子のお祝いなの」


「……えっと、それってどういう--」


 そうやって聞こうとしようとすると、《ジリリリ!》と言う大きなチャイムの音が鳴り響いていた。

 「きっと息子ね! レンカちゃん、ちょっとシチューを見ておいてね!」と言って、玄関に言ってしまった。とってもエネルギッシュな人だな、と思いながらシチューをかき混ぜて待っていると、


《キャアアアアアアアアアアアアアア!》


 いきなりオキャクさんの悲鳴が聞こえてくる。

 なにが起きたかと思ってシチューの火を消して玄関へと行くと、そこでは目を疑うような事が起きていた。


「お、オキャクさん!?」


 玄関には右腕が食いちぎられて血だらけになったオキャクさん。そして目の前には――――怪物の姿があった。


「な、なにこれ……」


 怪物、それはまさしくそうとしか表現出来ない生物であった。

 鋭く尖ったツメ、まるで大木のような腕に強大な脚部。そして、荒々しい獣のような頭部には大量の血がこべり着いていた。

 今まで生きて、笑っていたオキャクさんを屠り、潰し、引き裂き、殺した巨大な"人"の力を得た"獣"は、狂気に満ちた顔でこちらに向かって来ていた。


「ば、バケモノ……!? な、なにこ、これ?!」


《ガルルルルゥ! ガルルルルルル!》


 化け物は、強大さを感じさせるような狂った声を放ちながら、こちらに向かって来ていた。


《ガルルルルゥ!》


「ひぃ! や、やめてぇ!」


 もうダメ、と思ったその時。



「諦めるのはまだ早いと思うのだがね? 日本人よ」



 そんな力強い声が聞こえて来ていた。


「だ、だれ……?」


 声の主は、白いパーカーを着た金髪の男性。彼は頭にヘッドフォンを付けた、その男性はと言うと指をパチンと鳴らしていた。


「……ふむ、狼の顔を持った人間――――いわゆる、《狼男》ね。とは言っても、人間らしさよりも獣らしさを重視してしまっているから、私としては残念でしかないけれどもね。

 この世で最も知性溢れる人間の素晴らしさを犠牲にしまっていて手に入れたのが、野性味と破壊性を強調されただけか。まったく、度し難いとしか表現出来ないよね」


《ガルルルルルゥ!》


 《狼男》は大きな声をあげていて、それを見てパーカーの男は「やれやれだね」と答えていた。


「ほうほう、そんなに怒って貰っても困るんだけれどもね。

 まぁ、このボクの街をバケモノの血で汚される訳にはいかないからね。君が魔力を使うバケモノである以上は、仕方があるまい」


 《狼男》が大きく腕を振るい男性を襲う――――しかし、男性はそれを華麗に避けて、《狼男》の懐に飛び込んでいた。


「このボクの力をお披露目させて貰おうじゃないか。既に条件は揃ったのだから」


 彼はそう言いながら懐から木の杖を取り出していて、高らかに振るっていた。



「魔力を"m"、力の正の向きを"a"、使われる魔法陣を今回は"g"と仮定する! そして魔法の発動を"W"とする!

 ――――発現したまえ、『W=amg』!」


 そして男の手によって杖が振るわれ、彼の前に大きな紫色の陣が展開される。そしてその中に"なにか"が収束していくかのように入っていき、そして《狼男》めがけて金色の光となって放たれる。



『ガルルルゥ!?』


 《狼男》は金色の光に当てられ、壁へと激突する。そしてガタッと倒れると共に、金色の光は消えていた。


「……ふむ、やはりまだ攻撃にムラがあるな。この辺りは式の調整が必要となって来るだろう。いや、重要なのはそこではなく、もっと別の――――」


「あ、あの……すいません」


「……ん?」


 と、そこで彼はようやく、いや今まで気付いていなかった私の方を見て



「……誰だね、君は?」


 と、質問するように返していた。

 それを聞きたいのは私の方なんですが……。


「そうだね、その前に自己紹介がまだだったね。

 ボクの名前はトーマス・エジソン。アメリカが生んだ世紀の大天才にして、あらゆる事象をたちどころに解決してしまう探偵!


 そして、自然の摂理を探求する、《科学者(まほうつかい)》さ」



 これが私と彼、トーマス・エジソンとの初めての出逢いでした。

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