◇/まゆらだけは -溺愛の理由-
〈 ◇ 〉
三年前。
近所の河川敷で、俺はある物を見つけた。
拾って、それをしげしげと眺める。
付属した台座の裏を見ると、文字が書いてあった。
「燦然院……まゆら……?」
それは、
アニメの美少女の、
1/8スケールフィギュアだった。
〈 ◇ 〉
今日もゆら姉は異次元級の美貌でマンガと睨めっこしていた。
俺の部屋で。
「…………」
七月の中旬。そろそろ俺にとって初めての、高校生としての夏休みが始まるという時期だ。
そんな中、いつものようにゆら姉が俺のベッドに腰掛けて『姉のおなかをふくらませたい!』というマンガを読んでいた。不穏。
逃げるべきかと迷っていると、姉さんが「宗くん」と話しかけてきた。
「なに?」
「宗くんはいつ私のおなかを膨らませてくれるのかな?」
部屋を出た俺はシャロ姉の部屋にお邪魔し、護身用スタンガンを借りてから自室に戻った。
「で、なに? ゆら姉」
「怖いよ宗くん……そ、それはもちろん、強引にされてみたいとも思ってはいるけれど……」
「ゆら姉こそ怖いよ……」
完全に桃色図書に影響されている。俺は、頬を染めて内ももをすり合わせているゆら姉とスタンガンを見比べた。まさかスタンガンを本当に使うわけにもいかないしどうしよう。
「ところで宗くん」
ゆら姉が、すぅはぁと部屋の匂いをかぐ。
「消臭剤をかけたね?」
「かけたけど」
「もったいないじゃないか」
「なにが」
「私は宗くんの部屋のちょっとくさい匂いが好きなのに。はあ……それと嗅ぐだけでもいいのだけれど、できれば直接、濃厚な宗くんの」
「それ以上言ったらスタンガン」
「濃厚な宗くんの作ったお味噌汁を毎朝飲みたいよ」
逆パターンなプロポーズをされた。
「俺が味噌汁作る時はつい味噌を入れすぎるからなあ……。それにしてもさ、ゆら姉」
「なにかな?」
「やけに俺の部屋好きだよね。俺の匂いが好きだからとか、本当にそれだけなの? 布団の中で変なことしたりしてるし……」
ふむ、とゆら姉は思案顔になる。普段俺の前では色っぽくしていることも多いけれど、こうしている時はとても聡明な雰囲気が伝わってくる。考えている内容が賢いかはわからないけど。
「宗くん」
「うん」
「私と出会った時のことを覚えているね?」
「忘れたいけどね」
「あの時私はマスターベ」
「げほっ! げほっ、ごえほっ!」
「ンをしていたわけだけれど、それは本当に欲求不満だったからなんだ」
「けほ……どういうこと?」
「私が宗くんの部屋にいるのが好きな理由。それは宗くんが近くにいるだけで私は幸せだからなんだ。けれど、それだけでは説明にならない。きっと宗くんが求めているのは」
落ち着いたアルトの声。
「私が宗くんをこんなにも愛している理由」
普通にしていればミステリアスな姉さんは、フフ、と微笑んだ。
「突飛すぎるからと、いつまでも話さずにいるわけにはいかないからね――話そうか」
「あの時。三年前……私は」
「宗くんに命を救われたんだ」
「◇/まゆらだけは -次元を越えて-」に続きます。




