☆▽/優丘高校球技祭 ~姉遁使いの赤髪くノ一~
「☆▽†/優丘高校球技祭 ~イナズマトゥエルヴ~」の続きです。
〈 ☆▽ 〉
遠くの校庭から女子の嬉しそうな叫び声が聞こえた。
そういえば、ゆら姉や愛姉のチームは勝てているのかな。
そんなことをちらりと思いながら、俺はサッカーフィールドを走っていた。
相手チームのゴールキーパーからのパスが俺のチームに渡ったり、俺のチームのシュートが隣のグラウンドの関係ないサッカーゴールに入ったりと、ほぼ素人の集団らしい感じで試合は進んでいく。
けれど、最終的にはやはり秘姉がドリブルでゴール前まで運んでいった。
それに相対するのは姉貴。
しかし誰もが秘姉の勝利を疑っていなかった。いくら姉貴でもくノ一の素早さの前ではボールに触ることすらできないと、俺ですら思っていた。
しかし次の瞬間、姉貴がクリアしたボールが俺のチームのゴールへ飛んでいった。歓声が上がる。虚を突かれた俺たち1-Bは、相手チームが再びリードするのを許してしまった。
「秘代!」
姉貴が小走りをしながら、唖然としている秘姉に声をかける。
「そんなんでいいのか?」
それだけ言うと、チームの仲間とハイタッチをしに離れていく。
秘姉は目を伏せる。自信を失くしているのかもしれない。
そこへ俺は近づき、声をかける。
「秘姉」
「あ……ご、ごめんねそうちゃん、ぼくのせいで」
「いや、秘姉がいないと一点目は入らなかったよ。まあ実行委員長があんな感じのこの大会だし、気負う必要ないって。危ないと思ったら俺にパスちょうだい」
「う、うん、ごめんね、ありがとう……」
秘姉は潤んだ目を細めた。少しだけ溢れた涙を、そっと指で拭う。
技術としては秘姉も素人だ。いくらスピードがあっても姉貴なら見切れるということなのかもしれない。忍術を使わないのは、注目を浴びすぎるのが嫌だったからだろうか。まあ、あれはちょっとずるいし。
また試合が動き出す。俺がドリブルで上がっていくが、三年生のプレッシャーに耐えかねて味方へパスする。精度の低いパスだったが、味方のサッカー部員が上手く運んでいき、そこから更に秘姉へと繋いだ。
そしてその前に再び、姉貴が立ちはだかる。
俺は気付いた。秘姉は怖がっている。
あの姉さんは、男勝りで人付き合いの良い姉貴に憧れてはいたが、それだけに姉貴の前では萎縮してしまうのだ。
もちろん他の生徒に対しても怯えの感情はあるだろう。だが他の生徒はくノ一である秘姉に対してどこか「勝てない」と諦めているようだから、姉さんも気圧されずに済んでいるのかもしれない。
しかし姉貴は違う。技術に裏打ちされた自信と、妹には負けられないという闘志がある。
恐らく秘姉が姉貴にクリアされたのは、気負いがあったからという理由もあったのだろう。
自分が上がって秘姉にパスをもらい、試合の流れをこちらに引き戻すしかない。そう思って走る俺の耳に、姉貴と秘姉の会話が届く。
「秘代。おまえを見てると、昔の宗一を思い出すぜ」
「む、昔の……?」
「ああ。おれにべったりで、おれを中心に世界が回ってるみたいに振る舞ってたあいつ。おまえもきっとあいつと同じで、時が経てばその気弱なところもなくなっていくだろうな。
けどな秘代。なにか大きな壁にぶち当たった時、その壁が時間とともに腐ってくのを待つなんて悠長な手を使うわけにはいかないこともある。乗り越えようと思っても、仲間もいなければ忍術壁走りも通用しないこともあるかもしれねえだろ?
そういう時も今みたいに怖気づいてたらだめだ。だからおれが新しい忍術を教えてやる」
「え……新しい術……?」
秘姉と同様、俺は戸惑っていた。
姉貴は何を言ってるんだ?
あいつはくノ一じゃないんだから忍術なんて使えるわけがないのに。
俺は疑問に思いつつも走る。
けれど、
姉貴は歯を見せて笑った。
忍術でも何でも為せてしまいそうな、不敵で、強くて、見る者を元気にする笑顔だった。
「忍術名は、『女は度胸の術』だ!」
姉貴がくるぶしにボールを乗せてふわりと上に飛ばす。その先には秘姉がいる。頭に当たると思ったらしい姉さんは目をつむり体を強張らせるが、そこで俺は叫んだ。
「秘姉っ!」
姉さんは目を閉じたまま、声がしたほうへとヘディングをした。
その数秒後。
秘姉のヘッドを受け取った俺はゴールを決め、点差はふりだしに戻った。
「宗一ナイスシュート!」 「やられた! 碑戸々木・姉、なにやってんだ!」
歓喜と落胆が入り乱れるフィールドをゆっくり走りながら、俺は自チームのメンバーとハイタッチを交わす。そして秘姉と姉貴のほうを見る。
目をつむったまま思い切ってヘディングしてみるのもいいのではないか、ということを姉貴は教えたかったのかもしれないが、いやいや姉貴がそんなまるで人生の先輩染みたことを考えているはずがない、と打ち消す。
「☆◇▽♡†/優丘高校球技祭 ~決着は紫とともに~」に続きます。




