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†▼/ロリ先輩とくノ一先輩 ~殺伐! 死の魔王~

〈 †▼ 〉



 俺はサッカーを選んだ。


 県立優丘(ゆうきゅう)高校の球技祭では、クラス内で分けられたそれぞれのグループがそれぞれの競技に出場する。グループは、バスケットボール部門、バレーボール部門、ソフトテニス部門、サッカー部門の中からどれか一つにクラス代表チームとして参加する。俺はサッカーをやろうと思って、ホームルームでのクラス代表サッカーチーム募集の際に挙手をしたのだった。


 そして球技祭当日。

 校庭、サッカーゴール付近。

 だりー、あちー、熱くなれよ、などと会話をする友達の輪に加わってユルい準備体操をする。涼しくなるかと思い、俺はアネキから教わった「幻の第五の競技部門」なる優丘伝統の怪談を話した。とある男子生徒たちが球技祭の終わった放課後に、草木も眠る丑三つ時までボウリングをしていたら翌日先生に怒られたのだという。話し終わると山田に殴られた。姉貴のせいだ。


 と、後ろから声をかけられる。


「ひとときくーん」


 振り返ると、一輪の手押し車に体育座りした女子と、それを押す女子がこちらに向かってきていた。


 二人とも体操服だ。

 手押し車に乗った女子は桃色をしたツインテールの髪が縦にロールしており、顔が小さく、かなり幼げな雰囲気を纏っている。赤ん坊を連想させる肉付きのよさもあった。


使野つかの先輩。どうしたんですか」

「あのねあのね、まお、球技大会の実行委員長なんだけどね」

「はい、知ってます」


 自分のことを「まお」と呼ぶ、ちょっと痛い感じの二年生・使野(つかの)真桜(まお)先輩は手押し車に乗ったままビスケットを食べている。


「あれ、そおいえばひとときくんも実行委員だっけ。とにかく委員長はたいへんだよお、会議ちゅうにおやすみしようとすると、しのちゃんに指の関節外されそうになるしい」

「そうですか」


「――その通りだ」

 手押し車を支える同じく二年生の夜光院(やこういん)志乃(しの)先輩が低い声で応える。


 髪の色は黒かと思うがよく見ると濃い紫で、ポニーテールにしているが、ひめ姉とは違い髪留めが筒のように縦に細長い。女子生徒なのに背は俺より高く、百八十センチ程度はありそうだ。


「――拙者としても真桜の反撃は脅威。故にあまり殺人術を使いたくないのだが」

「そうそう、この前ね、ビスケットの最後のいっこを食べようとしたら、しのちゃんがまおの喉を狙ってパンチしてくるから、まおはその腕を折るために、」

「あ、もういいです、あんまり聞きたくないです」


 使野先輩はふにゃふにゃした笑顔で楽しそうに体を揺らして、深紫の先輩との死合について話をする。夜光院先輩の方はピンクの先輩を乗せた手押し車を支えながら、抜き身の日本刀みたいな雰囲気を醸している。

 二年D組の殺伐コンビは、その仲の良さで有名だ。


「それで、なにか用ですか? 時間あるんで世間話でも別にいいんですけど。穏やかな話なら」

「んーとね、実行委員として、可愛い後輩をげきれいしにきたんだあ。どーお? 調子は」

「良好です。うちのチームには一年なのにサッカー部のレギュラーだったりする奴もいますし、優勝しますよ」

「おお、きあい入ってるねえ。わが陸上部の名声をたかめるためにがんばってくれたまえ」

「使野先輩は今回の大会ソフトテニスですよね? 円盤投げで培った腕力でものすごいサーブ打ちそうですけど」


 やだなあまおは女の子なんだから腕力なんてないよお、と笑う使野先輩は、陸上部のエースで円盤投げの女子高校生記録保持者だ。

 その見た目に反して強い力と戦闘技術により夜光院先輩と日々格闘しているせいで、周囲の人たちは巻き込まれないか気が気でない。


「――しかし貴様、優勝できるのか? 学年総合故、三年ともぶつかる筈だが」


「はい、そうなんですが……。姉貴も女子サッカー部門出るんですけど、そのチームに順位が負けるとちょっと嫌な事態になるんです」

 女子サッカーと男子サッカーで独立していて男女は戦わないとはいえ、女子の一位と男子のビリでは格に違いが出る。姉貴のチームより格下になると、いろいろあるのだ。

「姉貴がいるだけでそのチームは優勝確定だろうし、負けないためにはこっちも優勝しないわけには」


「姉貴って、ひびきせんぱいのことだよね? やーな事態?」


「あいつに負けたらいろいろあるというか、罰ゲームが待ってるんです」

 自分でも顔面蒼白になるのがわかる。

「もし負けたら……俺の人としての尊厳が……」


「あははは、そんなひどい罰ゲームなの? どんなどんな?」

「――拙者も気になるが」

「どんな、ですか……直接口にするだけでおぞましいので遠まわしに言わせてもらうと、十センチ定規でいっぺんに無限を測るかのような……方位磁針を頼りにほくほく西せいなん西せいなんなんとうという謎の方角を目指すかのような……」


「あ! あそこにまゆらちゃんがいる!」

 使野先輩が遠くを指差し、手押し車を叩く。

「しのちゃん、行くよ! じゃーね、ひとときくん!」


「――少年よ。真桜が話を聞かず、すまない。此奴には悪気はないのだが、許せないなら拙者が成敗しよう」

「や、別にいいですよ。これが使野先輩の持ち味ですし」


 夜光院先輩は鋭い眼光で見つめてくる。怖い。しかし先輩はフッと日本刀を鞘に収めるように雰囲気を和らげると、ガシャンと音を立てて手押し車を別の方向へ向けた。

 そして顔だけで振り向く。


「――少年は優しいな」


 いえ、殺伐コンビが怖いだけです。

 とは言えない。


「ほら、行こ! しのちゃん!」

「――拙者は籠球部門故、貴様とは当たらぬが。上級生として健闘を祈っている」

「あ、ありがとうございます。先輩も頑張ってください」

「――それと」


 夜光院先輩はもう手押し車と一緒に進み出していた。


「――秘代ひめよによろしくと伝えておいて欲しい」

「わかりました」


 風魔流の上忍、夜光院志乃は俺の返事に何の反応もせず校庭を歩いていった。

 常人離れした聴力があるから、聞こえてないことはないだろう。


 俺は先輩から視線を離し、自分の1-Bチームに目を向ける。このメンバーなら、相手が忍者でさえなければきっと何とかなる。

 まず一回戦、しっかり勝つぞ。

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