♡♪/エセ関西弁とガチブラコン
〈 ♡♪ 〉
県立優丘高校では夏に球技大会をする。
俺はそれに関する連絡を職員室で受け、資料をもらったりした。その後、友人たちと弁当を食べるために教室に戻る途中、見慣れた女子と見慣れぬ女子の姿をみとめた。
「お! 弟くーん」
「愛姉」
「どうしたの? 職員室から呼び出し? わ、悪いことしてないよね!?」
「してないしてない」
「おやおや? 宗一くん、あいぽんの弟だったんか?」
愛姉の隣の見慣れぬ女子のほう、俺を見上げる背の小さな三年生の女子。
脳内にこの女子と一致する顔があるか検索していると、彼女はにかっと笑って手のひらを振った。
「くノ一の秘代ちゃんに忍者同好会に入ってくれるよう、ゆうてくれた?」
「ああ、衣留蘭子先輩」
似非関西弁の、と言いそうになるのをこらえる。
「思い出してくれておおきに。あ、もしかして宗一くんが噂の幼馴染かいな? あいぽん」
「そうだよ。あのね弟くん、わたし今、蘭子ちゃんに校内を案内してもらってるんだ」
「あいぽんはしっかり者やからなー、さっきもちゃんとメモとっててん。って、幼馴染やからよーわかってるか」
「はい。愛姉は、ネットの何かのサービスとか使う時に出てくる長すぎる利用規約を必ず全て読みますから」
あははは真面目やなー、と元気に笑う衣留先輩。愛姉は微笑んでるけど、少しぽかんとしている。利用規約をちゃんと読むことは普通のことだと思っているのかもしれない。
「そうだ、弟くん、一緒にお弁当食べない? 蘭子ちゃんが良い場所教えてくれるみたいなんだー」
「嫌だよ。周りに変な勘違いされたくない」
「せやな、ふじゅんいせいこーゆーは、うち個人としては見逃せても生徒会役員としては見過ごせないやんな」
「へえ、衣留先輩って生徒会役員でしたっけ」
「不純異性交遊!? ち、違うよ蘭子ちゃん! わたしは別に弟くんのことを男として見てないっていうか」
「……うん」
「あ、その、ごめんね弟くん、男として見てないっていうのはつまり弟くんはやっぱり弟的存在だから……つまり性別を超越した絆で結ばれているの!」
「夫婦やん!」 「夫婦かよ……」
ちがうのちがうんだよー、と愛姉は顔を赤くして目を泳がせる。それを見てまた腹を抱えて笑い出す衣留先輩。
よく笑う幼げな先輩だなとぼんやり思った。ちらりとのぞく八重歯が似合っている。
「と、とにかく、こっそりでいいから一緒にお昼ご飯食べよ? 響も誘うからさ」
「なんてゆうとりますよ、旦那さん」
「うん。離婚しよう」
「もー、夫婦じゃないんだってばぁ」
「じゃあ俺は行くよ。教室で友達が待ってる」
「そっか……仕方ないね」
愛姉は一瞬だけ目を伏せたが、すぐに笑いかけてくる。
「じゃあ、家に帰ったらまた話そうね」
「別々の家にいながら窓を開ければすぐ話せる。有力お嫁さん候補やな!」
「ちょっと蘭子ちゃん、ここ廊下なんだよ!」
「あはは、ごめんごめん」
衣留先輩はいつでも自然体で笑っているようだが、少し面白いくらいでも満面の笑顔だ。
「あいぽんは、宗一くんのことが大好きなんやな!」
「だ、だだだ、大好き!? だからそんなんじゃなくてっ! 弟くんは弟で、それ以上なんかありえないっていうか、確かに弟くんのことは大好きだけどそういうのとは違うっていうか!」
「んふふー、遂に『大好き』ゆうてしもたなあいぽん。宗一くんはイケメンやからなー、無理ないでー」
「もうっ! 怒るよ蘭子ちゃん!」
「あはは、ってくすぐったい! ご、ごめんなあいぽん、メロンパン奢ったるから……やっ、うわひゃひゃひゃ! ひゃ、ひぃ、と、というわけで宗一くん、ほななー」
「あっ、蘭子ちゃん待てー! じゃあね、弟くん!」
愛姉のくすぐり攻撃を食らってたまらず逃げ出した衣留先輩。彼女らに別れの軽い挨拶を返し、教室への廊下を歩く。
愛姉が俺に弟分以上の感情を抱いていないだろうことはわかっているが、衣留先輩の茶化しは俺をも揺さぶっていた。
しかも愛姉には『弟として』とはいえ、大好きだとも言ってもらえた。思わずスキップしそうになるのは抑えるが、頬が緩むのは我慢しきれない。
自分にため息をついてから思考を切り替え、今日のニゴ姉が作った弁当はどんなかな、と思いながら歩いていると、教室はすぐそこだ。




