□♡/世話焼き幼馴染、愛香
〈 □♡ 〉
まず最初に、隣の家の前にトラックが停まっているのに気付いたのは俺だった。
学校から帰ってきた俺は少し立ち止まると、自宅に入り荷物を玄関に放る。身軽になってから、トラックから降ろされる荷物を受け取る彼女の姿を見た。
「愛姉」
その声に振り向いた縛阿木愛香は、ハッと目を見開くと、パッと顔を輝かせ、バッと身を翻して後ろの父親に荷物を押し付けると駆け寄ってくる。
「弟くん! 久しぶりだね! 元気にしてた?」
「うん」
「わー、背、伸びたねー! 体調悪くない? 響と仲良くしてる? わたしがいなくて寂しくなかった?」
「ん、寂しかったよ」
「そ、そう? もう仕方ない子だなー弟くんは」
愛香は少し顔を赤らめ、俺を指差す。
「いーい? わたしがいなくても大丈夫にならなきゃ、一人前にはなれないんだからね!」
「うん」
「あ、制服にゴミがついてる。ほら、身だしなみもきちんとしなきゃダメじゃない」
「掃除の時間に友達と遊んでたら箒が直撃して」
愛香――愛姉の久しぶりの説教を聞きながら、俺は彼女をじっと見ていた。三年ほど直接は会っていなかったけれど、美人になってるなと思った。茶色がかったセミロングな髪は日光を編み込んだかのようにつやつやと光り、整った顔かたちは三年前よりも大人びている。
と、視界の端で碑戸々木家の玄関扉が開いた。
「宗一さん」
メイド服を着たニゴ姉だ。
「ただいまも言わずどうしたのかと思えば、例の縛阿木愛香さんがいらっしゃっていたのでしたか」
「え? この子、もしかして」
「ニゴ姉。うちの次女になった古代人。百万二千七百歳」
「初めまして、ニゴです。よろしくお願いします。引っ越し作業をお手伝いさせていただいてもよろしいでしょうか」
「こ、こちらこそよろしくお願いしますね」
弟くんの新しい家族について知ってはいたがいざ会ってみるといろいろ突っ込みたい、とでも言いたげな表情をしている愛姉。
「でもそんなに小さいと、荷物は運べないだろうし、お気持ちだけ受け取っておきます」
「ニゴ姉は家族で一番力持ちだよ」
「え?」
「現代のクレーンではニゴには敵いません」
「えぇ!?」
ニゴ姉が重力制御機能でトラックを浮かせてから、機能を止めて三トンのそれを片腕で支える。それを見てはしゃぐ愛姉は「もしかしてそのままジェット噴射とかで飛べたりするんですか?」と言い、ニゴ姉が「やってみます」と答え、俺が「やめてくれ」と慌てた。
「冗談ですよ、宗一さん。そんなことをすれば目立つし、そもそもニゴにはジェットエンジンなどという遺跡から出土するような大昔の装備はありません」
「いや、ニゴ姉は俺たちからすればジェットエンジンなんかよりもっと昔の古代人だけどね」
「えっと……ニゴさんが只者じゃないってことはすごくわかったんだけど」
愛姉が苦笑いをしながら、両指を絡ませる。
「なんだか、まだ呑み込めないっていうか……現実味がないなー」
それはそうだろう。俺だって、シャロ姉とニゴ姉が現れてからあまりの突拍子のなさに驚きっぱなしの生活を送っていた。特にニゴ姉は四次元ポケットやステルス機能を持っていたりして、メイド服と銀髪を合わせると非日常を凝縮したような存在だ。なんでもありな科学で、今でも俺をびっくりさせている。
それに加えて、ニゴ姉は無表情なことが多い。出会って数日はとっつきにくさを感じていたのも事実だった。
「あっ、でも、これからいっぱいニゴさんと過ごせばいいんですよね!」
愛姉も、笑わないニゴ姉に不安になったのか、そわそわしながらそれでも声を明るくする。
「しばらく父の転勤はないと思うので、末永くお付き合いくださいっ!」
「はい。いつでも遊びに来てください。大抵ニゴは家にいますので。それと、『さん』は付けなくていいですよ。敬語も必要ありません」
「あ、はい! わかり……わかったよ、えっと……ニゴお姉ちゃん!」
ニゴ姉は、おそらく愛姉でもわかるほどの微笑で応えた。ニゴ姉もニゴ姉で、人当たりが良くなるよう努力はしているのだ。先ほどのジェット噴射の冗談がその証拠だ。
安心したらしい愛姉は目を輝かせて「そうだ、アンドロイドならロボットダンスとかできたりするの?」と言い、ニゴ姉が「やってみます」と答え、俺が「やめてくれ」と慌てる。




