○▽/シャロと秘代と一緒にデート~安心安全冒険譚~
〈 ○▽ 〉
「そーうちゃんっ!」
土曜日の朝。
リビングのソファで部活の資料を眺めていると、シャロ姉が後ろから首に抱きついてきた。
「どうしたの、シャロ姉」
「宗ちゃんって優丘市の高校に通っているのよね? ちょっと用事ができたから優丘市の道案内をお願いできるかしら」
「今から? 別にいいけど、用事ってなに」
「仕事でたまたま知り合った優丘市の時計職人さんが、お姉ちゃんに教えてもらいたいことがあるんだって」
シャロ姉の部屋に行くと、たまにパソコンをバラしていることがある。機械いじりはシャロ姉の専門分野だ。きっと時計についてのスキルも超文明レベルなのだろう。
「ふうん。でもシャロ姉ならグーグルアースを一回見て完全に記憶したり、アメリカの人工衛星にアクセスして情報を盗んでからそれを自分で再構成して3D地図作ったりとかできるんじゃ」
「いいの! 一緒に行きましょ?」
背後にいたシャロ姉がソファにぴょんと乗り、隣に女の子座りをする。
「たまにはお姉ちゃんとデートしてくれてもいいでしょ?」
「デートって……まあいいけど……」
「ひめちゃんも予定が空いてるって言うから、三人デートね。ふふっ、わくわくしてきちゃった」
シャロ姉はにこにこしながら、なに見てるのー、と俺の手の紙を覗き込む。
陸上部の予定表だよー、と答えながら、シャロ姉は間合いが近いよなと思う。
いつ見てもこの金髪は太陽みたいにきらびやかだ。肌も優しい感じの肌色だし、古代人は皆こんなに綺麗な人々だったりしたのだろうか。
こんな綺麗な人とデートか……
「いや、デートではない」
「ん? じゃあ、冒険はどう? あ、でも冒険気分なのはお姉ちゃんだけかしら?」
シャロ姉が心を躍らせている様子を見ながら、まあ冒険のほうが正しいな、と呟く。少なくとも姉が響しかいなかった頃――暴君の遊びに付き合わされていた頃はそうだった。
姉弟の外出はデートではない。姉が首を突っ込み、弟が巻き添えを食らう冒険だ。
とはいえ、相手がシャロ姉と秘姉なら安全だ。今日も平和な土曜日になりそうでいい。
〈 ○▽ 〉
そういうわけで、シャロ姉と秘姉と俺は優丘市に来ていた。
テナントビルや大型スーパーが建ち並ぶ駅前の街並み。優丘高校の生徒である秘姉と俺は見知った場所だが、シャロ姉には新しい景色だ。
「時計職人さんの仕事場に行く時間まで、あと一時間あるわ。それまではカフェに行くんだったわよね?」
「うん。秘姉も知ってるよね? ティアラミス」
「え、えと……ぼく、高校から帰るとき、あんまり寄り道とか、しないから……」
「あら、じゃあお姉ちゃんとひめちゃんは、今日は宗ちゃんにリードしてもらいましょうかしら?」
駅前の広場でそんな話をしながら、俺は空を見上げる。ビルは建っていて空を狭めているが、そのぶん青空の綺麗さが凝縮されているように感じた。
ここからは雲一つ見えない快晴だ。どうりでシャロ姉の髪がまぶしいわけだ、と思う。
シャロ姉はその長く美しい金髪により目立っていた。たぶん、それだけじゃないけれど。
初夏という季節に合わせた薄手の服は、基本、色も涼しげな水色だ。その上から着ている薄ピンクのカーディガンは前を留めずにはだけさせているから、家族一大きな胸が強調されている。目立つし、弟としては困る。
対して、秘姉のほうは全然困らない。安心だ。
黒っぽい色を基調としたそのファッションは、秘姉の地味さを際立たせていた。暑くないのだろうか、長い袖で指を半分まで隠しておどおどとしている。あまり肌を露出させない暗めの着こなしは、夜の闇にまぎれるくノ一の癖みたいなものらしい。
「あ……」
秘姉が俺の視線に気づいて、目に非難の色を浮かべる。
「そうちゃん……ぼくとシャロおねえちゃんの胸、見比べてた……」
「え、いや、別に、」
「あら~? そうなの? 宗ちゃんも男の子だもん、仕方ないわよね~」
「ごめんね、秘姉。……でもさ、人の視線に敏感ってことは、きっと視野が広くて勘が鋭いんだ。やっぱりくノ一の秘姉はすごいよ」
「ふぇっ!?」
今の流れで褒められるとは思っていなかった様子だ。
「ぼ、ぼくは……その……ぼく、すごい……?」
「うん」
「そ、そっか……えへへ……」
胸をかばうような仕草から一転、頬を緩ませて体を寄せてくる秘姉。
この姉さんを褒めちぎるのは楽しい。
もちろん言っていることは本心だ。それに秘姉を嬉しがらせたいと思っている。けれど、姉さんが俺の言葉で必要以上に焦ったり嬉しがったりするのが愉快だから、こちらは恥ずかしがらずに褒められるのだ。
やっぱり秘姉は可愛い、と思いながら俺は歩き出す。
「じゃ、行こうか」 「はいっ、宗ちゃん隊長~」 「えへへへ……」
「○▽/シャロと秘代と一緒にデート~三人同士で××××~」に続きます。




