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□☆/ニゴと響と一緒にデート~スカイツリー(6000m)~

「ニゴと響と一緒にデート~同じこと思ってたなんて運命だね(?)~」の続きです。

〈 □☆ 〉



「なあニゴ、どこ行きたいっつってたっけ?」

「スカイツリーには興味を失ってきましたが、水族館には行ってみたいです」

「おっ、水族館か。ペンギンいるらしいぜ、ペンギン」

「現代のペンギンは古代と違い、空を飛ばずに海を泳ぐのだそうですね」

「ニゴねえがいた古代って一体……」


 一階のソラマチ商店街へ到着したアネキとニゴ姉と俺。


 観光客が集まるそこは、注意すれば自由に歩けるギリギリの人口密度だ。

 団子屋やクレープ屋などの食べ物の店もあれば、落ち着いた雰囲気の靴屋もあり、見ていて飽きない。


「俺は友達とスカイツリーできたての頃来たけど、姉貴も来たことあるんだっけ?」

「ソラマチにはな。学校の帰りに一回、りっちゃんと来た。スカイツリーには上ってない。よし、宗一、おまえはクレープ屋に並んどけ。おれとニゴは他のところ回るから」

「は?」


 列に並ぶ。クレープを買う。げんなりしながら姉貴とニゴ姉に合流する。


「うまいうまい。サンキュな、宗一」 「ありがとうございます、宗一さん。とてもおいしいです」 「はいはい」 「よし次だ! 行くぜ!」


 俺も姉さん二人と一緒にいろいろな店を回った。

 ニゴ姉は体も歩幅も小さいから、はぐれないようにと俺と手を繋いで歩いた。姉貴には「親子かよ」と笑われたが、ニゴ姉は少しむっとしていた。俺も俺で、「俺はそんな老けてねーよ!」と言い返した。


 アクセサリー店に入ると、姉貴が品物を見ながら「へえ~」「うおっ、マジか」とか言いながら珍しく長居しそうになったので、俺とニゴ姉で引っ張って遠ざけたり。また、高級そうな時計店に入ると、ニゴ姉が店員に何やら高度な知識に裏打ちされた質問をして、びっくりされていたり。けっこう楽しい。


「そういえば姉貴。りっちゃんさんたちとの待ち合わせ時間には間に合うの?」


 俺が訊くと、姉貴は腕時計を確認して頷く。

「忘れるとこだった。けどまあ、間に合うだろ。すぐそこだから。ようしニゴ、『ソラマチ広場』に行ってスカイツリーを見上げようぜ」


「いえ、スカイツリーはもういいのですが」

「全然スカイに届いてないかもしんねーけど、頑張って立ってるんだ。一度は見ておこうぜ、な?」

「そうですね。来る途中で電車から望めたビル程度の高さにしか見えなくとも、スカイツリーは都民に愛されていると聞きますから」


 ニゴ姉は穏やかな無表情で、とことこ歩き始める。

 俺と姉貴はアイコンタクトを交わす。緊張でドキドキしてきた。おそらく姉貴も同じだろう。


 スカイツリーは既に姉貴によって『実質六〇メートル』にされている。本当の高さはそれを十倍以上にした六三四メートルだ。だが俺は初めてスカイツリーを下から見上げたとき、六〇〇〇メートルくらいはあるんじゃないかと血迷うほど高く感じた。あのタワーは、高いと知っている俺から見てもあまりに高すぎて驚く。

 ニゴ姉は姉貴の法螺をすっかり信じきっている。楽しみだ。どんな反応をしてくれるのだろう。爆竹ケーキに入刀したときの俺の写真はまだ姉貴の部屋に飾られているらしいが、ニゴ姉も餌食になってしまうのか。


 ソラマチ広場側の出口からソラマチ商店街をあとにする。

 景色が開け、広場には上空の写真を撮る観光客たち。


 そこに俺たちはやってきて――


「さあ、ニゴ、これが――」


 ニゴ姉がほぼ真上の空を見上げると――


「――これが、世界一のタワーの――」


 抜けるような青空とともに――


「――東京スカイツリーだ」


 天を突く“実質六〇〇〇メートル”の姿が、ニゴ姉の目に飛び込んで――






〈 □☆ 〉






 それからはいろいろあっていろいろあったが、姉貴とニゴ姉と俺はなんとか無事に帰りの電車に乗ることができた。


 隣に座るニゴ姉が「スリープモードに入ります」と告げてから、俺の横によりかかって眠り始める。


 姉貴が、起こさないようにと俺の耳の近くでささやく。

「疲れたんだろうな。ニゴがあんなにはしゃいだことなんて初めてだろうし」


「うん。そうだ、写真見ようよ」

「いいぜ」


 がたんごとんと揺られる車内で、夕日の光を頼りにしながら、姉貴と俺は寄り添って写真を眺める。


 スカイツリーの天望デッキでガラスの床に立ち、ぷるぷると震えるニゴ姉。

 天望回廊から外を一心不乱に見つめてカメラ目線になってくれないニゴ姉と、りっちゃんさんたちと、ピースサインをする姉貴。

 水族館でペンギンを指差し、目を輝かせてりっちゃんさんの服の裾を引っ張るニゴ姉と、それを見て大笑いする姉貴。


 そして、今日の最初の写真。

 四枚あるそれには、初めてスカイツリーを見上げたニゴ姉の、驚いて指先まで固まったまま後ろにコテンと倒れるまでの様子がコマ送りのように写されていた。


「また来ようぜ。今度はシャロたちも連れてな」

「うん」


 馴染みのある景色がそろそろ、電車の窓から見えてくる。

「ニゴと響と一緒にデート編」はここで終わりです。

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