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○□/oppai

〈 ○□ 〉



 俺は学校から帰ってきて、リビングで数学の宿題を解いていた。

 πを含む計算の途中、思う。


(シャロねえならば円周率を百ケタくらいは暗唱できるのでは……)


 シャロ姉は理系のことなら何でもできる天才だ。記憶力もいいはず。

 俺は無意識にシャロ姉を探すように顔を上げていた。

 ちょうどその時、風呂上がりの彼女がリビングに入ってくるところだった。すぐそばのキッチンにいるニゴ姉もそれに気づく。


「さすがにもう夏の前だし、部屋もあったかいわねー」

 シャロ姉はバスタオル一枚を体に巻いただけの格好だ。部屋干しされている洗濯物を探している。

「んー、お姉ちゃんのパジャマは……」


「シャキロイア姉さん、命令してくださればニゴが着替えを用意しましたが」

「ニゴちゃんはお料理中じゃない。パジャマがお味噌味になっちゃうわ」


 手の洗浄くらい数秒で終わりますよ、まあそうよねー、などと会話をする二人の姉さん。シャロ姉のほうは平然とタオルを外し一糸まとわぬ姿になるので、俺はテーブルに勢いよく突っ伏す。


「あら? 宗ちゃん、どうしたの?」

「ゆら姉風に言えば、『アニメの美少女風呂シーンで男子に忌み嫌われる謎の光が今は恋しい』」

「ニゴちゃん風に言えば?」

「『解析完了。Gカップです』」

「ひめちゃん風に言えば?」

「『ぼ……ぼくだって変化の術さえ使えば……』」

「ヒビちゃん風に言えば?」

「『ちくしょう! なんでおれの胸はまな板なんだよ!』」

「あ! 宗ちゃん、うしろに激怒したヒビちゃんが」


「やめろ! そんなんいるわけ」

 額をテーブルにつけたまま叫ぶ。

「……いないよね?」


「いませんよ、宗一さん」

「ああ、うん……とりあえずパジャマ着てよシャロ姉……」

「はいはーい」


 俺はシャロ姉がハンガーからパジャマを外している音を聞きながら、疑問が湧き上がるのを感じていた。なぜπはパイと読むのか。また、もしも英文のisが、isでなくoppaiだったら日本人はどうしていたんだろうか。アネキの体なら見てもほとんどなにも感じないけれど、シャロ姉の裸体には見慣れていないせいで変な気分になってしまいそうになる。


「はい、着たわよ~」

「うん。……うん? うん」

「シャキロイア姉さん。宗一さんの心拍数の上昇を確認しました。それは刺激的すぎます」


 俺は再びテーブルに突っ伏す。

 シャロ姉は下を穿いていなかった。ボタンを一つしか付けていないピンク色のパジャマだけを着て、その裾を引っ張って下腹部を隠している。

 たぶん干されていた洗濯物にパンツがなかったのだろうとは思うけれど、だったら俺の前で立ち止まらず早く別のところへ探しに行ってほしい。


「もう、宗ちゃんったら可愛い! そうそう、男の子はこの頃が一番可愛いんだから!」

「やめて……」

「ふふっ、数学の勉強してるの? お姉ちゃんが教えてあげようか? お姉ちゃんが考えたのに現代では他の人が考案したことになってる一般相対性理論くらいは教えてあげられるわよ? ほらほら」

「やめろ……」


「シャキロイア姉さん。宗一さんに数学を教授するのは構いませんが」

 伏しているので見えないけれど、ニゴ姉が冷ややかな目でシャロ姉を見やるのがわかるようだ。

「その状態は姉としてどうなのでしょう」


「え~、いいじゃない。姉として弟の可愛い姿を見たがるのは普通でしょ?」

「なるほど、そういうものですか」

「ニゴ姉、納得しないで! シャロ姉の『弟の可愛い姿を見る』手段は間違ってる!」


「なんにせよ」

 ニゴ姉の声。

「まずは宗一さんの顔を上げさせなければいけません」


「うーん、でもねニゴちゃん」

「はい」

「この、テーブルに頭をちょこんと乗っけてる小動物みたいな宗ちゃんも、すっごく可愛いの」


 だめだこれ。このまま仮眠をとることにする。

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