☆◇▽/下校道~美少女三姉妹~
〈 ☆◇▽ 〉
「おっ、宗一。おまえも帰りか」
「宗くん、帰ろうか。まゆらお姉さんと一緒にね」
「あ、そうちゃん……一緒に、帰ろっか……」
県立優丘高校、放課後。
俺は三人の姉さんに囲まれて昇降口を出ていた。
響、ゆら姉、秘姉。この三人は現役の高校生だ。姉貴は三年、ゆら姉は二年、秘姉は俺と同じ一年。それぞれ指定の制服を着こなしている。
姉貴は一言で言えば、少し不良っぽい。白いブラウスは普通だけれど、癖っ毛の赤い髪は染めたものだし、ピアスをしているし、ミニスカートは小麦色の脚の焼けていない部分が見えるくらいだ。
ゆら姉は女学園のお嬢様っぽい。黒のブレザーや長めのスカートもそうだけれど、たっぷりとした紫の長髪が風になびくところは絵になりすぎて逆に違和感だ。
秘姉は、地味だ。なにもかも校則通りで特筆すべきところはない。いや、前髪の長さは特徴的だろうか。今日も秘姉は黒の前髪の隙間からちらちらと俺の様子をうかがっている。
「響姉さん、軽音部はどうしたんだい?」 「サボリ。おまえも漫研があるんじゃねーのか?」 「漫研が活動しているのは月・水・金だけなんだ」 「へー。秘代は忍者同好会には入らねーの?」 「えと……うん、入らない……」 「秘代ちゃんは本物のくノ一なんだし、入ったら楽しいのではないかな」 「うーん……緊張、するし……」
姉さんたちは歩きながらそんな会話を続けている。俺は三人とはやや離れて、しかし歩幅は合わせて歩く。
姉貴と一緒になると酒豪の姉御みたいに笑いながら肩を組んできたり、ゆら姉と一緒になると恋人のように腕を組んできたり、秘姉と一緒になると弱々しく服の裾を引っ張ってきたりする。そこを目撃されると良くない噂が立ったりするから、離れているのが正解だ。
そう思っていると、
「宗一、もっとこっち来いよ」
と姉貴に引っ張られ、三人の姉の中心、姉貴とゆら姉の間に引きずりこまれる。
「なんだよ姉貴……」
「はははっ、嫌な顔して、本当は美少女三人に囲まれて嬉しい癖に」
「はあ?」
「宗くん、きみはどうやら優丘高校で五指に入るほどの有名人なようだよ」
ゆら姉が恐ろしく自然な動きで腕を組んでくる。
「運動神経抜群で音楽的センス秀抜の赤髪不良気味美少女・響と、引っ込み思案だがその正体は伝説の風魔流美少女くノ一・秘代、そして私。そんな美少女三姉妹に溺愛される謎の弟として有名だ、と漫研の先輩が言っていたんだ」
姉貴が美少女とか、それ絶対『美少女三姉妹』って括ったほうがすっきりするから成り行きで美少女呼ばわりされてるだけだろ、ゆら姉と秘姉はともかく。
そう軽口を叩こうかと思ったけど、美少女と言われてご満悦の姉貴の機嫌を損ねれば命はないので言わないでおく。
「……まあ、俺が有名ってことは友達から聞いてたけど、五指に入るほどの有名人だったのか……って言うか、別に俺ゆら姉以外に溺愛されてなくない?」
「そうかな? 姉弟は必ずしも仲のいいものではないけれど、私たちは違うだろう? 秘代ちゃんは宗くんのことをとても頼りにしているし、響姉さんは宗くんに悪戯するのが好きでそれはつまり宗くんのことが大好――」
姉貴がゆら姉の頬を引っ張って黙らせる。
それからニヤニヤと凶悪な顔をして、言い出した。
「けどな、宗一。おまえシスコンとしても有名なんだぜ。気持ち悪いなー、身の危険を感じるなー」
「なんだよそれ……。でもそれを言うなら姉貴たちだってブラコンとして有名ってことじゃん、溺愛とか言われてるらしいし」
「噂は四分の三当たってて四分の一間違ってんだよ。おまえがシスコンなのはマジで、まゆらと秘代がブラコンなのもガチで、おれはブラコンじゃない」
「とか言ってるけど、ゆら姉、秘姉」
「その通り。私はブラコンであることに誇りを持ち、いつ如何なるときでも宗くんのことを考えているよ」 「ぼ、ぼくは……その……そうちゃんのことが……その……」
ゆら姉は訳のわからないことを言いながら胸を張り、秘姉は顔を赤くして縮こまってしまう。
しかしゆら姉のほうはすぐに俺の意図に気づいてくれたようだ。俺がシスコンであることを否定してほしいという俺の意図。
ゆら姉はフフフと笑うと、告げる。
「まあ噂は全部当たっているね。宗くんはシスコンで、響姉さんはブラコンだ」
「まゆらこいつ!」 「ゆら姉ー!」
手の甲で口元を隠しながら笑うゆら姉に、俺と姉貴は食ってかかる。声色も、勢いも、タイミングも同時だった。
まあ、実の姉弟同士、通じ合っているところがあることはある。だが俺はシスコンではない。姉貴以外の姉さんに優しいというだけだ。
秘姉が「け……喧嘩はやめよーよぅ……」と涙目で訴え、姉貴は構わず俺とゆら姉の頭を掴んでぐらぐら揺らす。確かに、こんな様子を見られたら変な噂の一つくらい立つよな、と思う。




