○/シャロと一緒にプレゼント選び ~世界一のプレゼント~
〈 ○ 〉
俺は一人で帰り道を歩いていた。
俺と秘姉がいた雑木林は割と家の近くだった。姉さんは林でもう少し修業を続けると言うので、あまり暗くなりすぎる前に帰ってきてねと伝えてから、俺だけで我が家を目指している。まあ暗くなっても姉さんはくノ一だし大丈夫だと思うけど。
それにしても、と考えてみる。
姉さんたち、本当にいろいろ考えて響へのプレゼントを選んでたな。
もちろん俺だってしっかり考えてはいたけど、なんというか、芸がないというか。だってピアスだし。そりゃあ、姉貴の好みは把握してるから、たぶん喜んでもらえるとは思うけれど。
そんなことを思いながらてくてく歩いてると、「あら、宗ちゃん!」と背後から声がした。
振り返る。
そこにいたのは、白い日傘を差した姉さんだ。
「シャロ姉」
「帰り道?」
金髪ロングで百万二千七百二十歳の姉さんは、白くつややかな肌にほんのりと汗をにじませながら、夏の夕暮れの中を近づいてくる。
「駅のほうから来たわけじゃないみたいだけど……友達と遊んでたのかしら?」
「いや、実はかくかくしかじか」
愛姉とプレゼントを買いに行ったところから、秘姉の忍術修業に付き合ったところまでを、かいつまんで説明。それから「持つよ」とシャロ姉の荷物を受け取った。
「ありがと♪ ちょっと重いかも」
「大丈夫。中身は……生クリーム? イチゴ? いろいろあるな」
「うん。ヒビちゃんへのプレゼントは、お姉ちゃんの特製ショートケーキにしようと思って!」
「へえ。そういやシャロ姉ってお菓子作りもうまいんだっけ」
「うーん……ふつうかしら」
「普通かよ」
「お料理全般はニゴちゃんか、ゆらちゃんか、愛ちゃんのほうが上手だしね~」
シャロ姉は日傘をくるくると、ロングスカートをひらひらとさせて歩く。
「でもお姉ちゃん、精密機械の整備は得意だし、お菓子作りも大丈夫だと思うわ?」
「すごい心配になってきた」
「も~、なんでよ~」
「……ところでさ、シャロ姉」
「なあに?」
俺は今日のことを思い返してみる。
昔から、俺と姉貴を助けてくれる愛姉。
誕生日の大切さを誰よりも理解しているニゴ姉。
姉貴の世界を広げたいと、贈るマンガに幾重にも意味を込めたゆら姉。
嬉しい思い出をくれたことへのお返しに、物ではなく行為を贈ろうと決めた秘姉。
「シャロ姉は、どうしてそのプレゼントを選んだの?」
迷っていた。
姉さんたちが立派にプレゼントを用意する中、俺は何の変哲もないピアスでいいのかと、少し、悩んでいた。
姉貴の言うとおりかもな。
俺はやっぱり、すごい姉たちに囲まれて、自信をなくしているのかもしれない。
俺の質問に、シャロ姉が「んー」と考え、「そうねえ、お姉ちゃんは……」と語り出す。
「お姉ちゃんがプレゼントにケーキを作ってあげようと思ったのは、一番心を込められるものだから」
「心を?」
「そう」
長いまつげをやや伏せ、口元で微笑むシャロ姉。
「ケーキを自分で作れば、隠し味に愛情を込められるでしょう? 一つ一つの工程を大事にしたら、作り手のわたしはもっとヒビちゃんのことを好きになる。好きな気持ちが大きいほど、その気持ちは伝わりやすいと思うの。伝わって、わかってもらえたら、とっても素敵よね♪」
「……俺さ。姉貴に選んだの、ピアスなんだよね」
「いいじゃない! ヒビちゃんはおしゃれさんだからね~」
「気持ち、わかってもらえるかな」
シャロ姉は、隣を歩く俺のことをじっと見つめる。
見透かすような澄んだ碧眼は、やがて優しく細められた。
「宗ちゃん。何よりも大切なのは、『好き』を込めることよ。何をあげるかじゃなく、何をしてあげたいかなの。宗ちゃんはピアスを選んだわ。それはヒビちゃんに、もっと可愛くなってほしいからでしょ?」
俺は頷く。「うん、まあ」
「じゃあ、その思いを伝えなきゃね。……覚えておいて、宗ちゃん。形あるプレゼントは、古代文明風に言えば、タイムマシンなのよ。自分の誕生日が過ぎ去って、伝えてもらった思いを忘れそうになっていても――プレゼントを見て触れることで、『あの日伝えてもらった思い』をよみがえらせることができる」
夕焼けの道を歩くシャロ姉は、金髪を燃えるように輝かせていた。
「思いのこもった宗ちゃんのプレゼントは、きっと世界一のプレゼントになるわ」
〈 〉
それから、家に到着した俺は自分の部屋でぼんやりとしていた。シャロ姉は、ロストテクノロジーが生み出す異空間でケーキを作るらしい。姉貴へのサプライズには、そのほうがよさそうだ。
俺はピアスの入った小さな袋を適当な場所に隠してから、独りごちる。
「世界一、か」
明日は、八月一日。
決行の日に向けて、英気を養っておくことにする。




