プロローグ 神の憂鬱
この度はこの作品を読んで頂いてありがとうございます。恙無い文章力ではございますが、楽しんで頂けたら幸いでございます。
「はぁ・・・・・・」
とある田舎の住宅地を離れた場所にある、豊かな自然に囲まれたとある神社。
神社としても人気があり、日々参拝客がやってくる。
『彼女』は賽銭箱の後ろに座って、そんな参拝客たちを眺めていた。
参拝客たちは、彼女を認識できた様子は無い。それどころか、目もあわない。
「いないなぁ・・・・・いや、いたらいいなと言うくらいで視てるのだから、どうって事は無いぞ、うん。」
そんな呟きと一緒にこぼれたのは、自嘲とため息だった。
彼女はこの神社の『神主』にふさわしい『素質』を持った人間を探している。
彼女はこの神社から近々『引っ越す』のである。
引っ越す先は彼女が決めたのだが、場所が「一般人」に来れない様な、特殊な場所に引っ越すのだ。
彼女曰く、自分で決めといてなんだが、少し無茶をしすぎた気がしないでもない。だそう。
ここに残るのも選択肢の内だったが、いかんせん周りの『彼ら』が萎縮してしまい、遠まわしに引っ越しを進められたのだ。なんとも理不尽であるが、周りに迷惑をかけるわけにもいかないので引っ越すことに決めたのであった。
彼女は話す相手がいないのに、勝手に喋り始める。
「引っ越す、と言っても『住む』場所を変えるだけだ。
その場所も、ずいぶん古くなってしまっている様だが。
だが、『一般人は』来れないような『場所』に引っ越してしまうために、
私の、もとい私の神社の神主になる人物を探すのが困難になる。
いや、私が言ったように一般人には来れないのだが、ある程度素質を持ったものは神社に来れるようになっている。
だが、修行をすればどうにかなる者だっているし、修行をすればふさわしい者になる人間もいるかもしれんというのに、素質がある程度表に出ていないと中に入って来れないのだ。
それだけで数は十分に減ってしまう。そう考えると、非常に惜しまれる気がしてならない。
いや、『持った一族』の奴にも、自分の息子なんかを進められたりもするのだ。
だが如何せん弱いのだ。力も、心も。しかも最近はよくわからない下心を持った阿呆まで出てくる。
年に2回ほど、『そういった一族』の会合があるのだが、いや、駄目な一族達という意味ではない。できる奴らもきちんと存在する。会合するその時にも、私が出向き、神主になりえる人間を探しているのだが、
先ほど言ったように駄目なやつが多い。根本的に修行が足りていなかったり、慢心していたり、下心があったり、心も力も駄目ッ駄目なんだ。
その駄目な奴を進められるこちらの気持ちになって欲しい。毎度毎度丁寧に断っていては気が持たない。
最近は返事が適当になっている気がしないでもないが、もう気にしない事にした。
毎度毎度、何故だのどうしてだのと、うるさい連中だ。力不足だと言っているだろうに。
あと、数年前素質を持った子供を率先的に引き取っている孤児院があると噂で聞いてな、その孤児院の院長と交渉して、会合のとき特に優秀な者達を数十人ほど連れて来て欲しいと頼んだら、快諾してくれたんだが、期待はしたものの、いかんせん力が足りない。心は良いのがいるんだが・・・・・・・
まぁ、そんなこんなで私の神主探しは難航しているのである。
いなくても死にはしないのだ、正直。
だが居た方いい。話相手ができるしな。」
話していくうちに、声がだんだん小さくなっていく。
誰も聞いていないのにベラベラ喋る姿は、見る人が見たらきっと彼女を、『残念な美人』とでも言うのではないだろうか。
彼女の容姿は、美人ですかと聞かれたら10人が10人美人だと答えるくらいには整っている。
腰あたりまで長く伸びた黒髪は、いつ見ても艶がありサラサラしている。顔はとても整っており、目は少しキリっとしているが、彼女の雰囲気がそれを柔和にさせている。
ちなみに目の色は赤である。赤、と言っても真っ赤ではなく、黒に近い赤である。赤黒い、とでも言ったほうが近いかもしれない。胸も身長もソコソコある。
先ほども言ったが、10人が10人美人というであろう。
それはさておき。
彼女がこんな風に独り言、もとい愚痴を言ってしまうのは、彼女にそれだけ鬱憤が溜まっているという事である。
無理もないだろう。立場上本音を話すことはあまりないし、気に入った者がいても助けてやることも出来ない。正確には出来るのだが、やると周りがうるさい。
と言っても、これに関しては彼女は現在助けた人間がいないから、面倒事にはなっていないのだが。
欲しくもない婿の話だの、自分の息子を神主に、だのと一族の連中は喚いてくるしで、彼女は大変なのである。
普段は優しい性格なのだが、愚痴の一つも吐きたくなるだろう。
「何処かにいないのか!運命の人は・・・・・」
言葉だけ聞いたら明らかに誤解されそうな事を呟いて、彼女は本日何度目かも分からないため息をついたのだった。
プロローグだと彼女が主人公っぽいですけど、ちゃんと主人公は別にいますよ。