恋の影と敵の影
平和でのどかなダーリオ・リパブリック村の外れに、突如現れた十数体の動く屍・ゾンビ。それだけでもワリと異常事態なんだけど、新種と思われる、凶暴な走るゾンビまで現れた。絶体絶命の大ピンチとなった、人類最強の超能力戦士(のはず)のあたし、イルマ・インフィールド。しかしその時、襲いくる3体の新種ゾンビの前に、知らないお兄さんが立ちはだかったのである!
知らないお兄さんは、チラリ、とあたしの方を見たけど、すぐに新ゾンビに視線を向けた。未知なる敵を前にしても、少しも怯んだ様子はない。背中に背負った長剣に手を掛け、静かに抜いた。刀身が、陽の光を反射してギラリと光った。
新ゾンビが襲い掛かって来る。ゾンビに恐怖心は無い。相手が剣を抜いたところで、攻撃をためらったりすることは無い。最初のゾンビが右の拳を振り下ろした。
それは、例えるなら、ダンスを踊っているかのような、そんな動きだった。
最初のゾンビの攻撃を、身体をわずかに傾けてかわした知らないお兄さん。そのまま流れるような動きで新ゾンビの右側に回り込み、音もなく剣を振る。続いて、背後からが襲って来た2体目のゾンビの拳を、くるっと回転してかわし、剣を振った。さらに右から襲い掛かって来た3体目の新ゾンビの攻撃はしゃがんでかわし、また剣を振るう。
攻撃をかわされた3体の新ゾンビは、勢いで数歩、よろよろと歩いたが。
ずるり。
3体同時に、頭が胴から外れ、ごとりと地面に落ち、そして、ゆっくりと、身体が地面に倒れた。
――スゴイ。今の、このお兄さんがやったんだよね?
そうとしか思えないけど、信じられない気分だった。
お兄さんが持っている剣は、あたしの持っているエナジーソードのようなビーム系の剣ではなく、刃の付いた、いわゆる真剣というヤツだ。真剣はエネルギー切れの心配はないけれど、斬れ味の面ではビーム剣より劣る。さっき、あたしがエナジーソードでゾンビを10体同時に斬ったのは、当然のことながら、ソードの威力が圧倒的に高いからである。同じことを真剣でやろうとしても、あたしなんかじゃ絶対に無理だろう。お兄さんは、華麗な動きで新ゾンビの攻撃をかわし、3体まとめて首を斬り落とした。相手がゾンビとは言え、一閃で首を斬り落とすなんて、相当な斬れ味の真剣と、何よりも使い手の腕前が必要だろう。ヤバイ。このお兄さん、ちょっとカッコイイかも……。
お兄さんは、剣を静かに背中の鞘に戻し、あたしを見た。そして、優雅な足取りでこちらに向かって来る。
もしここで、「大丈夫ですか、お嬢さん」と言って手を差し述べ、優しく微笑んだりしたら、あたしは有無を言わさずフォーリン・ラブしてしまうだろう。
が。
お兄さんは、あたしの横をスタスタと歩いて行くと、倒れた新ゾンビの側にしゃがんだ。あたしのことなんて全く目に入ってないようなその動きに、拍子抜けする。
お兄さんは、新ゾンビの身体を仰向けにひっくり返した。そのまましばらく眺めていたけど、やがて、少しだけ視線をあたしに向け。
「――政府軍の兵か?」
低いけど、よく通る声で、そう言った。
「あ、えっと、はい」あたしは、コホンと咳払いをして、姿勢を正した。「統一連合政府軍・第358地区防衛部隊デルタ所属、イルマ・インフィールドです」
右手で敬礼。本来は名前の後に階級を言わなければいけないけど、たぶんお兄さんは政府軍の人じゃないし、訓練兵というのは何となく恥ずかしいし、まあいいだろう。
……なんて、そんなあたしの考えなんてどうでもいいと言わんばかりに、お兄さんは新ゾンビに視線を戻した。そして。
「部隊に軍医はいるか?」
ぶっきらぼうに訊く。
軍医。医師の資格を持つ兵士のことで、主に、戦場で傷ついた兵を治療するのが任務だ。ダーリオ村は戦場から遠く離れた場所にあるから、残念ながらあたしの部隊に軍医はいない。でも、村には小さな診療所があり、お医者さんはいる。あたしは、お兄さんにそう伝えた。お兄さん、新ゾンビの攻撃は全部かわしたように見えたけど、どこかケガでもしたのだろうか? 訊いてみる。
「あの、どこかケガをされたのなら、あたし、応急手当のキットを持ってるので、とりあえず診てみますけど」
しかし、お兄さんはそれには応えず。
「すぐに検死を」
言葉少なげに言う。
検死? 死体を解剖したりして、死因とかを調べることだよね? ゾンビを検死するのだろうか? そんなことしなくても、どう考えても、お兄さんが首をちょん切ったから死んだんじゃないのかな?
なんて、アホなことを考えていると、お兄さんが続ける。
「このゾンビの胸の傷を調べた方がいい」
と、言うので、あたしもお兄さんの足元のゾンビを見た。
ゾンビの服装は、厚手の布で作られたクリーム色の服とズボン、防寒及び雨避け用のマントという、一般的な旅人の恰好である。その胸には、直径5センチくらいの黒く焼け焦げた穴が3つ空いていた。服だけでなく、身体にも、同じ焼け焦げた穴が空いている。なんだろう、この傷は? お兄さんとの戦いでできた傷ではないだろう。戦いの前からある傷だ。そして、傷の大きさを考えると、これが原因でこの人は死亡し、ゾンビになったと考えられる。
「この傷って、もしかして……」
お兄さんの表情をうかがう。そうだ、と言っているように見えた。やっぱり、そうなのか。
旅人と言えば、夜のキャンプ。そして、夜のキャンプと言えば、キャンプファイアーだ。この旅人さんはきっと、キャンプファイアーの時に降りかかる火の粉にやられたのだ。旅の途中、胸にこんな大きな焼け跡が残るのは、それしか考えられない。しかし、一体どれだけの規模のキャンプファイアーをすればこんな火傷をするのか、想像もつかない。でも、楽しそうだな。今度やる時は、ぜひあたしも呼んでほしい。
「…………」
「…………」
お兄さん、すっごい冷めた目で見つめている。あれ? 違ったか? というかあたし、思っただけで喋ってないはずなんだけどな。まあ、あたしは考えていることが顔に出やすいと、よく言われるから、表情を読まれたのかもしれない。
「専門家が調べてみないと確かなことは言えないが――」お兄さんは、静かに口を開いた。「これは、ビーム兵器にやられた傷跡だ」
そう言われ、察しの悪いあたしも、ようやく事の重大さに気が付いた。
剣に真剣とビーム剣の2種類があるように、政府軍から支給される銃火器にも、実弾系とビーム系の2種類がある。武器の種類にもよるけど、基本的には剣と同じく、実弾系よりビーム系の方が、破壊力が強い傾向にある。しかし、ビーム兵器を使用する場合、当然のことながら、兵器にエネルギーを充填しなければいけない。あたしの持っている人類最強のビーム剣・エナジーソードほどではないけれど、それでも、ワリとたくさんのエネルギーを必要とする。
しかし、今の人類には、ビーム兵器のエネルギーを供給するシステムがほとんど残っていないのが現状だ。なので、現在政府軍兵が使用している銃火器は、実弾系がメインだ。デルタ隊に支給されている銃火器も実弾系のみで、ビーム系の兵器は、エナジーソードのようなほぼ使えない物を除き、全て、最前線の戦場に回されている。
つまり、今、ビーム兵器を持っている人間は、遠く離れた戦場の最前線にいる一部の兵だけなのだ。
では、誰がこの人を撃ったのか?
お兄さんはゾンビに対して真剣しか使ってないし、あたしもこの新ゾンビには、エナジーソードを使っていない。
だから、胸の傷は、ゾンビになる以前のものだ。傷の大きさと数を考えると、これが死因で間違いないだろう。誰かにビーム系の銃で撃たれて死に、そして、ゾンビになった、と、考えるのが自然だ。
そして、この辺りに住んでいる人がビーム兵器を持っている可能性が低い以上、この人を撃ったのは……。
「――ルーターが、この辺に現れた、ってことですか?」
恐る恐る訊いてみる。
お兄さんは、何も言わなかった。肯定しないが否定もしない。
ルーター。地底から現れる謎の種族。人類と500年に渡り戦争を続けている。現在、戦況はルーター側の圧倒的優位。文明が崩壊しかかっている人類と違い、ルーター軍はビーム兵器も豊富だ。
ルーターがこの辺りに現れたなんて、大変だ。あたしは、通信装置を取り出して、村にいるデルタ隊のメンバーに状況を説明した――。
5分後、村からデルタ隊の隊長・ジョンソン軍曹と、戦闘用クローラーのボットちゃん、村のお医者さんのハロルドさん、そして、村の自警団の人が10人ほど、一緒にやって来た。
「イルマちゃん!! ゾンビに襲われたって聞いて、心配したよ!! 大丈夫? ケガは無い?」村のみんながあたしを一斉に取り囲み、心配そうな顔で訊いてくる。
「あたしは全然大丈夫。見たことないゾンビだからビックリしたけど、ケガはしてない」
笑顔で応えると、みんな、一斉にホッとした表情。「イルマちゃんは人類最後の希望・ホルダーの生き残りなんだから、絶対に、死んじゃダメだよ?」
「うん。分かってるって」パチッ、と、片目を閉じる。
しかし、人類最強の超能力戦士・ホルダーが、こんな風に過保護に扱われるものなのだろうか? うーん。まあ、みんな優しいから大好きだけど。
「イルマ、詳しい状況説明を」
ジョンソン隊長が言った。隊長は、この道40年のベテラン兵士。今でこそ、こんな戦闘とは無縁の平和な村に配属されているけれど、若い頃は最前線の戦場で多くの手柄を立てた英雄なのだそうだ。あたしは右手で敬礼し、詳しい説明をした。訓練をしていたら(ホントは休んでいたんだけど)、ゾンビに襲われたこと。最初の1体は簡単に倒せたけど、その後10体ほどのゾンビに襲われたこと。さらに、これまで見たことも無い走るゾンビが現れたこと。危機一髪のところを知らないお兄さんに助けられたこと。そして、ゾンビの胸にはビーム兵器と思われる傷痕が付いていたこと。などなど。
《走るゾンビについては、ここ数年、前線を中心に目撃報告が相次いでいます》ボットちゃんが、感情の無いロボット声で言う。まあ、ロボットだから感情が無いのは当然だけど。《軍本部では、通常のゾンビを『ウォーカー』、新種の凶暴なゾンビを『ルナティック』と、呼び分けています。この358地区周辺で『ルナティック』が目撃されたのは初めてですが》
「……え? ボットちゃん、走るゾンビのこと知ってたの? だったら、教えてくれれば良かったのに」頬を膨らませるあたし。そんな重要な情報を黙ってるなんてヒドイ。あたし、危うく走るゾンビに殺されるところだったんだぞ?
《何を言ってるんですか? さっき教えたでしょう? 最近、新種のゾンビの目撃が相次いでいるから気を付けてください、と。まさか、聞いてなかったのですか?》と、ボットちゃん。
あれ? そうだっけ? そう言えば、素振りが終わった後、あたし、ボットちゃんから長い説教されたっけ? その時かな? なら、ハッキリ言って聞き流してた。てへ。
《まったく、あなたという人は……》ボットちゃん、呆れ声。
「だって、ボットちゃんの話って、ムダに長いんだもん。いちいち聞いてないよ」
《仮に私の話を聞いていなかったとしても、こういった報告は本部から逐一通達が来ているはずです。指令メール、読んでないのですか?》
ぎく。そう言えば、しばらく指令メール、読んでないな。軍の規則で、最低でも1日1回は目を通さなければいけないのだ。
《……読んでないのですね》ボットちゃん、再び呆れ声。
「そのはその……そう! 節電よ! 節電! 今、政府軍は深刻なエネルギー不足でしょ? 情報端末動かす電力もバカにならないし。あたし、政府軍のために、あえてメールを読まなかったの!」
《確かにエネルギー不足は深刻ですが、それはビーム兵器に限った話です。端末を動かすくらい、太陽光で十分賄えます。私だって、太陽光だけで、こうして動いているのですから。そんなのは、メールを読まない理由になりません》
「だって、指令メールって難しい言葉ばっかりで、よくわからないんだもん」
《……いいですか、イルマ。我々人類は、ルーターとゾンビとの戦いでかなり疲弊し、戦況は極めて厳しいのです。兵は1人でも多く必要で、訓練兵は、1日でも早く正規兵に昇格することが望まれています。あなたに国語から教えているヒマなど無いのですよ。大体あなたは――》
「分かったから! ホントにあんたはうるさいわね。それより、検死の方はどうなの?」
ボットちゃんは、はぁ、と、大きくため息をつく。コイツ、ホントに感情が無いんだろうな?
《――ルナティックの胸の傷痕は、ビーム兵器に撃たれたものと見て、ほぼ間違いないでしょう。他のゾンビにも、同じ傷痕があります。この358地区周辺で、人類がビーム兵器を使うとは考えにくいので、ルーターに襲われたと考えて、良いかもしれません》
「でも、ルーターはどこから来たの? この辺の地盤は固いから、地下から強襲される危険性は無いんじゃなかったっけ?」
《その通りです。よく覚えてましたね。イルマにしては、上出来です》
てへ、褒められちゃった。
《褒めたのではなくて、皮肉を言ったんですが》と、ボットちゃん。うるさいな。わかってるっつーの。
「では、ルーターはどこから来たんだ?」隊長が訊く。
《ここから最も近いルーターの拠点基地は、約1000km離れた場所にあります。途中にいくつも政府軍の基地や都市があり、そこが陥落したり、襲撃されたといった報告は入っていません。地上から攻めて来たという可能性は低いでしょう》
「じゃあ、やっぱり地下から……」と、あたし。
《そう考えるのが妥当でしょうね》
それって、マズくないか?
このダーリオ・リパブリック村は、人口100人程度の小さな村だけど、人類最大都市エスメラルダから50kmほどしか離れていない。そんなところからルーターが攻めて来るとなると、人類にとってはとんでもない脅威だ。いや、もしルーターが、この地域の硬い岩盤に穴を空ける技術を開発したのだとしたら、この村の周辺だけでなく、そこら中から敵が湧いて出ることになる。これは、エライことになったぞ。
《ゾンビの損傷具合から考えて、現れたルーターは、それほど大軍ではないと思います》と、ボットちゃん。《数名から数十名の部隊でしょう。恐らくは、硬い岩盤に穴を空ける技術が開発されたのではなく、偶然、岩の間をぬって地上に出ることができた、といったところでしょうね》
なんだ、そうなのか。だったら、ちょっと安心だな。
「だが、どんなに小さな穴で、地上に現れたのが数十名の部隊だとしても、この村が陥落すれば、ルーターに拠点をつくられる。そうなれば、人類にとっては大きな脅威だ」
低い声でそう言ったのは、あたしを助けてくれた知らないお兄さんだ。
《そうですね。その通りです》ボットちゃんも同意する。
みんな、肩を落とし、暗い表情。やっぱり、エライことになったらしい。ダメだ、弱気になっては。なんとか士気を上げないと。
「でもさ、この近くにルーターの穴があるってことは、逆に言えば、そこを使って攻めることもできるんだよね? なら逆に、ルーターを攻撃するチャンスだよ!」
あたしがそう言うと、みんな、目を丸くして驚いた表情。そして、みんな一斉に苦笑い。あれ? マズイこと言ったかな? やっぱ、適当なこと言うもんじゃないな。
《……まったく、あなたは楽天的でいいですね》と、ボットちゃん。皮肉はもういいっつーの。
《今のは皮肉ではなく、褒めたんですよ》
なんだ、そうなのか。分かりにくいな、コイツの喋り方は。
《イルマの言う通り、これはピンチでもあり、チャンスでもあります。恐らく敵は、この村を発見次第、攻めて来るでしょう。でも、それを迎撃することができれば、今度は反撃に転じることができます》
ボットちゃんの言葉に、みんな、大きく頷いた。
「では、すぐに村に戻って、対策を立てよう」ジョンソン隊長が言った。「ボット、本部に状況を報告して、大至急援軍を送るように伝えろ」
《了解しました》
隊長は、今度は村人たちを見る。「援軍が到着するまでは、自警団にも協力を要請するかもしれない。すまないが、よろしく頼む」
「何水臭い事言ってんだ、隊長。ここは俺たちの村だ。俺たちが護らないでどうする? なあ、みんな」
村人の1人が言い、みんな、一斉に頷いた。
《ところで――》と、ボットちゃん。知らないお兄さんの方を見る。《あなたは、何者ですか?》
そう言えば、まだ名前も何も聞いてなかったな。
「――アルヴィス・ディムナ。ハンターだ」お兄さんは、短くそう言った。
ハンター。正式に政府軍に属さず、お金をもらって戦争に参加する、いわゆる傭兵である。長い戦闘で疲弊する一方の政府軍の兵不足は深刻で、ハンターの需要は、日に日に多くなっている。中には正規兵よりも活躍する腕利きハンターも少なくない
《アルヴィス・ディムナ……政府軍のハンター名簿には登録が無いですね? 新米ハンターですか?》
ボットちゃんが言った。ハンターとして戦闘に参加するには、簡単な登録が必要となる。ボットちゃんは軍のコンピューターと繋がっているので、そういう情報はすぐに引き出せるのだ。
お兄さんは、何も言わなかった。
3体の凶悪な新ゾンビ・ルナティックをあっさり倒したあの腕前、とても新米とは思えないけどな。まあ、ハンターの登録なんて、ほとんど形だけのようなものだ。IDとか身分証とかを確認するわけじゃない。名前を変えてたって、別に不思議じゃないだろう。
「恐らく――」と、隊長がアルヴィスさんに向かって言う。「政府軍にとって、この戦いは極めて重要な物となるだろう。報酬はかなりの額になると思うが、あんた、参加するか?」
「――いいだろう」アルヴィスさんは低い声でそう言った。
「ねぇ、ボットちゃん」あたしは、みんなに聞こえない小さな声でボットちゃんに話しかける。「アルヴィスさんって、ちょっと、カッコイイよね?」
《私はクローラーですから人間の美的感覚は分かりませんが、まあ、私の次くらいにカッコいいのではないでしょうか》
「何言ってんの。あんたなんかより100倍カッコいいわよ。それに、あの、無口でクールな所がまたステキじゃない? 口うるさい誰かさんとは大違いだよね?」
《私もクローラー仲間の間では、無口でクールと評判なんですがね》
「あんたのどこが無口なのよ。充電エネルギーの90%くらいを、喋ることに使ってるくせに」
《そのようなことはありません。喋ることに使われるエネルギーは、全体の6.4%です。確かに、他のクローラーと比べるとかなり高い数値ですが、それは、普段のイルマがだらしないので、注意せざるをえないからです。あなたがもっとしっかりしていれば、喋ることに使われるエネルギーは、計算上、0.9%まで抑えられます》
ホントにコイツは細かいな。いちいちそんな計算なんかしなくていいっての。
《それに、あんな得体の知れない男をカッコイイなどと言う、イルマの神経が分かりません》
「あれ? ボットちゃん、ひょっとして、ヤキモチ焼いてる?」あたしは、イジワルい表情でボットちゃんの顔を覗き込んだ。
《な……何をバカなことを! 私はクローラーです。ヤキモチなどという感情はありません!》
ははは。ロボットなのに焦ってやんの。これは、ボットちゃんの意外な一面を発見。これから、からかい甲斐がありそうだな。
「イルマ、ボット、何してる。村に戻るぞ」
隊長に呼ばれた。そうだ。今は村の一大事。こんなことしてる場合じゃなかった。気を引き締めないと。
あたしは、みんなと一緒に村に戻った。