日常:朝
とてつもなく突飛なあれやこれの翌日、僕は昨日のクラス分けで割り当てられた教室へ向かった。
現在時刻は8時20分、始業の20分前だ。
昨日は頭が混乱していてなかなか寝られなかった訳だが、授業初日から遅刻というのは印象が悪い。
きちんと出席しないと。
寝ぼけ眼で教室のドアを開け、自分の席にカバンを降ろす。
「ふああー…おはよう」
僕の一つ後ろの席かつ出席番号の桑原克樹は既に登校していた。
通称カツ。
朝からスマホにかじりついて、画面を一心不乱にタップしている。
僕の挨拶に対する返事は、ない。
「おーいカツ、返事くらい」
「黙ってろ!」
催促すると、言葉を遮って怒鳴られた。
ちょっとビビる。
黙ってろって…一体してんだ?ゲーム?
言われたとおり、無言のままでカツの背後に回り、邪魔にならない位置から画面を覗く。
画面には金髪碧眼ツインテール制服美少女がベッドに横たわる絵が表示されている。
カツは、そんな少女の縞ニーソに包まれた足を凄まじい勢いでタップする。
あ、ニーソがずり下がった。
続いて腰の部分を連タップ。
お、スカートがずり落ちてニーソと同じ色の縞パンがまる見えに。
ここで、左上に表示されていたタイマーが0になり、きゅっぴきゅぴのアニメ声でアナウンスが流れる。
『たいむあ〜っぷ☆』
マナーモードにしとけ!
続いてリザルト画面に切り替わる。
『おめでとー!レベル4スコア達成だよっ☆ご褒美ボイスをプレゼント☆★☆』
「…ふぅ…ついにやったぜ…」
カツは何かをやり遂げた表情で、額の汗を拭った。
「で、何だこの」
「まて黙ってろまだ終わってない!」
異様な剣幕に気圧されて、口を閉じる。
リザルト画面が切り替わる。
「ぅおっほぅ……」
カツが謎の歓声を漏らすと同時に先ほどの金髪(以下略)美少女が、半裸でベッドに腰掛けているイラストが現れる。
『何すんのよバカ!最低!…え?ちょ、違うの!やめて欲しいんじゃなくて、その、あのっ……続き、して?』
よくこんなもん朝の教室でイヤホンもなしに聞いていられるなお前は!
幸いみんなガヤガヤと騒がしかったお陰で誰も聞いてはいなかったみたいだけど。
「やっぱりツンデレは最高だぜ…!」
カツがやたらカッコつけて前髪をかき上げ、俺に向かってカメラ目線で言う。
それなりに整った顔なので絵にはなるが言っている内容が残念過ぎた。
「ああ、そうか、よかったな…」
「はあ…エレナ……画面から出てきてくれないかな……」
やめとけ。
二次元の存在が三次元世界に具現化したらロクなことにならないから。