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Melancholic Märchen  作者: lira
第1章 お父さんと娘たち
4/9

美少女達の正体は

「では…そうですねー、どこからお話しましょうか」


姫野さんが両手で頬杖をついて目をつぶる。


「えーと、お父さんは、グリム童話ってご存知ですか?」


「え!?は、はい。有名な話ばっかですし…」


いきなり想像の斜め上を行く質問が飛んで来て面食らう。


「例えば、どんな話をご存知ですか?」


にこにこ笑いながら、世間話のノリで聞いて来る姫野さん。

これ、本題に関係あるのか?


「シンデレラに、白雪姫、あとは…赤ずきんと…ヘンゼルとグレーテルもですよね。あ、眠り姫もでしたっけ?」


「…おまけ扱いとはどういうことなのかしら」


指折り数えながら、いくつか覚えのあるタイトルを挙げていく。

ぼそっと糸巻さんになにか言われた気がするけど、聞き返すと怒られそうだからスルーしておこう…。


「あらー素晴らしいですねー。全部正解です!」


満面の笑顔でぱちぱちと拍手をされる。

いや、そんなクイズはいいから早く本題に入ってください姫野さん。


「実はですね、私たちはグリム童話のヒロインなんですよー。そして、あなたが私たちの『お父さん』、つまりはその作者のグリムさんなんです!」


「へー、そうなんですかー………………は!?」


さっきまでと同じ世間話調で言われたもんだから、思わず軽く返事をしてしまったが、何か色々ぶっ飛んだこと言わなかった!?


「……もう一度お願いします」


「私たちはー、グリム童話のー、主人公でー、あなたはー、作者のー、グリムさんなんですー!」


姫野さんは丁寧にもう一度、ゆっくり区切って言ってくれた。

うん、おかげさまで何を言っているかは分かった。


でも、全くもって理解できなかった。


僕がグリム童話の作者?

いやいやそんなもの書いた覚えはないぞ。

っていうか、グリム童話ができたのって200年とか前だし、まだ産まれてないし!


第一、童話の主人公なんて架空の存在が現実に存在するわけない。

もしかしてこの人たち、電波系?ヤバい人?


うっわあ、関わるんじゃなかった…。


「硝子、お父様が機能停止しているわよ」


「え!?大丈夫ですかお父さん!」


「流石にいきなりこんな事を言われて理解しろというのも、なかなか酷な話ですわよねぇ、御父様?」


ああもう!そのお父さんだのお父様だの言うのをやめろ!


その時、ガチャっと元気良くドアが飽き、お茶を淹れにいっていた赤森さんと迷道さんが戻ってきた。


「たのもーっ!!」


「りんごちゃん、それじゃ道場破りだよ…。あの、お茶、いれてきました…」


「ありがとうね、2人とも。…まあ、突然信じられない話だとは思いますけど…とりあえずお茶を飲んで落ち着きましょうか」


「…はい、頂きます」


姫野さんに差し出されたマグカップを受け取り、湯気の立つ紅茶を一口飲んだ。

紅茶のいい香りの中に、ほんのりオレンジの香りがする。


いきなり訳の分からない状況に放り込まれて苛立っていた心が若干落ち着いた。


少し冷静になって考えてみると、この五人がただの痛々しい勘違い電波系女子だと断言するには、言動の端々ににじみ出る真実味がひっかかる。


どうせ暇な入学初日なんだ。

もう少し詳しい話を聞いてみよう。

全員揃ったことだし、まずはここから。


「まだ、信じているわけじゃないんですけど…。皆さんが童話の主人公だって言うなら、誰がどの話の誰に当たるのか教えてくれますか?」


「あ!そうですね!」


カップを置いて尋ねると、不安そうだった姫野さんの顔がぱっと明るくなった。可愛い。

…やっぱり、どう転んでも美少女なんだよなあ。


「私はシンデレラですよー。お姫様でガラスと言えば、ガラスの靴を履いたシンデレラでしょー?」


「シンデレラ…ってことは外国の方ですよね?姫野硝子って名前は偽名なんですか?」


「はいー。私たちは、訳あってお父さん、つまりあなたをずーっと探していたんです。私たち、外見は大体みんな学生程度ですから、数年ごとに世界中の色々な学校を転々としてました。その時の滞在国にあわせて適当にそれっぽい名前をつけているんですよー」


…うーん。

何か法律とか色々ひっかかりまくってそうだけど、存在自体がそもそもイレギュラーなこの人たちには通用しないのかな…。


「名前から考えると…白雪さんは白雪姫ですか?」


「流石御父様、ご名答ですわぁ。ええ、私は白雪姫、スノーホワイトです」


ふんふん…うん?

姫野さん=シンデレラはともかく、白雪姫ってこんなに鬱々としたお姫様だったっけ?


「迷道さんは、ヘンゼルとグレーテルの、グレーテルの方ですか?」


「…うん……だよ」


「ってことは、お兄さんのヘンゼルさんもいたり?」


「よく分かったね!ボクはヘンゼルお兄ちゃんと2人で暮らしてるんだよ!お兄ちゃんはね、いっつもボクのことを守ってくれて、かっこよくて、それからえーと…」


ぽかん。

あれ、迷道さんってこんなキャラだったっけ?

さっきまでのオドオドした態度はどこへやら、急に明るく饒舌に語り出した。

ちょっと自己紹介してたときの赤森さんと被ってるような。


「相変わらずだわ、灰音は」


糸巻さんがため息をつく。


「えーと、迷道さんって…その…」


ブラコンなんですか、と聞きかけて口をつぐむ。

目ざとくもそれに気付いたのか、糸巻さんの方から話しかけてきた。


「お父様、記憶が無いと言ってもヘンゼルとグレーテルのストーリーくらいは知っているのかしら?」


「有名な話ですから一応は…生活に困った夫婦が子供2人を森に捨てて、子供達が魔女の家に迷い込んで、騙されて食べられそうになったところで逆に魔女をはめて竈で焼き殺すって話ですよね?」


「そこで話を切るとただの残酷な話に聞こえるわね。結末は知らないの?」


「魔女の家にあった大量の宝石を家に持ち帰って、一家離散の危機を回避してハッピーエンド、ですか?」


「その展開を知っていて、あなたは何も感じないのかしら」


ん?

いや…ハッピーエンドなんじゃないのか?

悪い魔女を倒して家族がまた一緒になるんだろ?


そう考えを巡らす僕を一瞥すると、糸巻さんはため息をついて言った。


「生活に困ったからとは言え、一度親に捨てられたのよ。何の説明もなく、突然森の中に置き去りにされて、ね。今現在、いくら金銭的に満ち足りていたとしても、そんな家族が上手くやっていけると思うのかしら?」


ハッとした。

童話の登場人物だというから、何不自由なく楽しくぬくぬくと生きていたものかと思っていたが、そんなことはない。

むしろ、童話の中だからこそ、現実世界ではおよそあり得ないような不幸を経験している可能性もあるわけで…。


「親と上手く行かずに、兄妹で二人暮らし、ってわけですか」


「そういうことよ」


しかし、同じことが他の4人にも言えるのだとすると…。

気にはなるが、迷道さんのように家庭の事情に関わる内容だと、好奇心のままに踏み込んでいいものだとは思えない。

『父親』だとはいえ、個人的には初対面だしな…。


そんな思考を、テンションの高い声が打ち破った。


「なーなーパパ!りんごは誰だか分かったか?分かったか?」


赤森さんが机をばしばし叩きながら期待に満ちた目でこちらを見つめている。

この人、本当に年上か…?


「え!?えーと…、りんごといえば白雪姫だけど、そこはもう白雪さんって分かってるし…。赤い…森……山火事?」


もしかして、かちかち山?


「火事じゃない!あるだろー?赤い話!」


血みどろグロテスクな話の比喩に聞こえるな。

赤…赤……。


あ。


「赤ずきんか!」


「ビンボー!」


「『ビンゴ』だろ!」


貧乏というワードに、迷道さんの肩がぴくっとした。

おいそれ禁句!

とんでもない言い間違いするんじゃない!


えーと、あと一人。

残るは糸巻さんだ。


「糸巻さんは…眠り姫で合ってます?」


「ええ。さっきグリム童話のおまけ扱いをしてくれた眠り姫よ」


あ、さっきぼそっと言ってたの、そのことか。



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