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Melancholic Märchen  作者: lira
第1章 お父さんと娘たち
3/9

自己紹介



「ごめんなさいねー、いきなりびっくりさせちゃって…まぁまぁ、とりあえず座って下さいな」


机と椅子を教室の中央に引っ張ってきた金髪さんにうながされて、椅子に腰掛ける。


「ほらほら皆さんも、机を並べて下さーい」


なんだか小学校の先生みたいだ。

ややあって、二×三の長方形に机がくっつけられ、僕を五人が囲む形で座った。

僕の真正面に座った金髪ふわふわさんが口を開く。


「そうねー、まずは自己紹介、かしら?名前を聞けば思い出すかもしれませんしねー」


にこっと笑いかけられ、慌てて自己紹介を始める。


「あ、ええと、今日入学した1-Cの栗林睦月です。事務室に行った帰りに、発声練習をする声が聞こえたので、気になってここに…」

「なるほどー。それでこんな別棟の端っこまで来られたんですねぇ」


ふわふわ金髪さんはにこにこ笑って僕の自己紹介に相槌を打つ。ほんわかオーラが全身から発散されていて、近くにいるだけでリラクゼーション効果のありそうな人だ。


「申し遅れましたが、私は姫野硝子(ひめのがらす)です。ここ、実は演劇部の部室で、私が部長をしているんですよー。あ、ちなみに私は三年生です」


なるほど、それで発声練習か。


「はい、じゃあ時計回りに…次は糸巻さんね」


糸巻さんと呼ばれたのは、先程僕を罵倒したモデル系美少女だった。


「はい。…糸巻荊(いとまきいばら)、三年生よ。荊は一応副部長をしているわ」


例の誤解もあってか、やはり態度が刺々しい。

それにしても美人だな…いやこの場の五人全員が美少女ではあるんだけど、「美人」という形容詞が最もぴったり当てはまるのは、この糸巻さんだろう。

金髪で身長も高いし、スタイルもいいし…ハーフなのか?


「えっと…糸巻さんって、ハーフなんですか?」


この空気を少しでも軟化させられないかと、会話を試みる。

しかし、返ってきた返答はすげないものだった。


「ハーフではないわ。生粋のドイツ人よ。ちなみに、日本人名なのは、外国人名だと色々と面倒だから。適当に自分で付けた偽名を名乗っているだけよ」

「あ、そうなんですか…」


聞こうと思ったことに、先回りして答えられてしまった。

更に、ギロリと睨み付けられる。


「それと、荊のことをあまりじろじろと見ないでくれるかしら?荊は男の人が嫌いなの。お父様も含めて。出来れば半径3m以内に立ち入らないで頂きたいわ」


そ、そうか…。なら、あの態度も仕方ない…のか?


「ごめんなさい、糸巻さんって男性には誰でもこんな感じだから…あまり気にしないで下さいね?」

「はい…」

「じゃあ次、赤森さんお願いね」

「はーい!」


僕の右隣のくりくり茶髪少女が、赤い薄手の手袋をはめた右手を挙げ、元気いっぱいに返事をして立ち上がった。


「赤森りんご、二年生だ!…ええと…がらすー死後照会って何を話せばいいんだー?」


なんか自己紹介が事件の香りのする別物になってるぞ。


「うーんそうね。赤森さんの好きな物なんかを教えてあげたらいいと思いますよー」

「なるほどな!えっと、りんごの好きな物はー…これ、人でもいいのか?」

「ええ」

「りんごはおばあちゃんが大好きだぞ!おばあちゃんはなー優しくて、料理が上手で、それからそれからー!」


目を輝かせて語る赤森さんを、先輩ながら微笑ましげに眺めていると、先程も見た手袋が目に入った。

何でこんな時期に手袋なんてしてるんだろうか?

寒いんだとしても、普通、室内では外すものだと思うんだが…。

そう思いつつ見ていると、非難がましいジト目で見下ろされた。


「…そーいうの検索する男は嫌われるぞ」


それを言うなら詮索だ。ググってどうする。

ともあれ、触れられたくない話題であるらしいので、それ以上の詮索はやめておいた。


「はーい。じゃあ次、白雪さんお願いします」


左隣の黒髪さんがかたりと控え目な音を立てて立ち上がる。


白雪柩(しらゆきひつぎ)よ。所属クラスは二年生B組。御父様、どうぞ、以後宜しくお願いいたしますわね」


そう言ってにっこりと微笑む。

しかし、笑っているのは口元だけで、目は全く笑っていなかった。それどころか、恨みやら憎しみやら何やかんやの負の感情がてんこ盛りに溢れ出すオーラさえ感じる。

目の下の黒々としたクマがそれを一層強調しているのかもしれない。


「…御父様…ビジュアル的には私の好みにぴったり…。是非とも十字架に磔にして、私の家のインテリアになって頂きたいですわぁ…うふふ」


そういいながら唐突にその手を僕の頬に添え、顔を赤らめる。

ええと、これは一応褒め言葉として受け取っていい、のか?

ちなみにその際に白雪さんの制服のカーディガンの袖から白いガーゼらしきものがちらりと覗いたが、色々と恐ろしいので突っ込むのはやめておいた。


「はい、じゃあ最後に迷道さん、お願いします」


「は…はいっ…」


最後に立ち上がったのは、姫野さんの向かって左隣、僕の左斜め前の小柄で大人しそうなおかっぱ少女だ。


「ぼくの名前、は…迷道灰音(まよみちはいね)、です……。えっと、二年生です………どうぞ、よろしく」


ぼそぼそと小さな声で、途切れ途切れに自己紹介を済ませたかと思うと、ぺこっと頭を下げてすぐにまた座ってしまった。

見た目通り、引っ込み思案な性格のようだ。

ここで全員の自己紹介が終わり、姫野さんが僕に尋ねる。


「どうですか?名前を聞いて思い出したりとか…」

「…さっぱりですね…」


本当に全くこれっぽっちも覚えがないのだ。

さっきも思ったことだが、これほどの美少女であれば、一目見たら印象の一つや二つ残るはずだ。

それを覚えていないというのだから、本当に初対面だと確信しているんだが…。


「逆に聞きたいんですけど、先輩方はどこで僕と知り合ったんですか?ていうか『お父さん』って…?」


今こそ聞くタイミングだろうと、一番の疑問を投げかけると、五人はお互いをちらちらと見やって黙りこくってしまった。


「あのー…ちょっとそれは…今すぐお教えする訳には…」


最終的に全員の視線の的になった姫野さんが、視線をそらしてばつの悪そうな顔で言う。


「でも、今言わなければ何時言うの?私は今ここで全てをお伝えしても構いませんわよ」


「りんごもそう思うぞー!そっちの方がりんごたちのためになると思う!」


「私は嫌よ。お父様自身に記憶がないというのに、わざわざ教える必要があるのかしら?」


「ぼくは…えっと、えっと…よく、分からない……」


「もー!反論するなら最初から私一人に意見求めるのやめてくださいー!!」


無難な回答を絞り出した挙句、全員に意見された姫野さんが頬をふくらませた。

反応を見る限り、どうやら絶対に教える訳にいかないという訳でもないらしい。

そもそも全力で反対してるの、糸巻さんだけだしなあ。

初対面で必要以上に近寄るなと言われた身としては、糸巻さん個人の感情論が多分に含まれた意見なんじゃないのかと邪推してしまう。


「えーと、じゃあ別に話してもいいって感じですか?」


「え!?ええと、その……」


姫野さんがちらっと糸巻さんを見る。

その視線に気付いた糸巻さんが、ふんっと鼻を鳴らして言った。


「ここの部長はあなたよ。硝子が話したいなら話せばいいし、話さない方がいいと判断するならそれでもいいわ。それがあなたの考えた結果なら、荊は文句を言ったりなんてしないから」


「そう、ありがとう。糸巻さん」


再びほんわかオーラをまとった姫野さんが僕に向き直って口を開く。


「では糸巻さんもオーケーしてくれたことですし、お話しましょうかー。少し長い話になりますから…赤森さん、迷道さん、お茶の準備をしてもらえる?」


「わかったぞ!『おちゃですが』ってやつだな!」

「その……お茶、じゃなくて、『粗茶』だよ…りんごちゃん…?」


ゆるい漫才みたいなやりとりをしながら二人が出て行った。


「話すなら早く話してしまいましょう、硝子。二人が戻って来るのを待つ時間がもったいないわ」


「そうねー、じゃあもう始めちゃいましょう」


そして、数百年前にまで遡る、長い長い昔話が始まった。

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