僕と五人の美少女
…………は!?
今何と呼ばれた!?
……お、お父さん…?
ちょっとまて僕はまだ高校生の子を持つような歳でもないぞ!
そもそも今こうしてがっつり部活動に精を出している以上この金髪さんは確実に上級生な訳で自分より歳上の娘とか本気でわけが分からん!!
そんな僕の混乱に追い打ちをかけるように、くりくりとした茶髪の少女が呟いた。
「ほ、ほんとに、パパ…なのか…?」
「ボクは、そんな、ボクの…ええ!?」
「驚きだけれど…どうやら本当のことみたいね」
更に薄茶色のおかっぱ少女と、プラチナブロンドのモデル系少女が続く。
いや、どれだけ頭をしぼりにしぼっても、全く一切この5人と会った記憶はないぞ…。
大体、これだけの美少女なら、一度会ったら忘れられないだろう。
自信を持って言える。僕とこの5人は赤の他人だ。
ただし漫画みたいに記憶の操作なんかがされていなければ、という条件付きだが。
「ええと…会ったことありましたっけ…?」
父親呼ばわりされたとはいえ、この中ではおそらく最年少なので、あくまで下手に出ておずおずと尋ねる。
すると急に、全員の目がギラリと剣呑な光を放った。
五人は手に持った台本を閉じて机の上に置くと、じりじりと僕に迫って来た。
ヤバい、これはヤバい!
何にも心当たりはないけれど、とにかく我が身の危機だということだけは本能的に理解していた。
逃げなければと思うが、足が震えて動かない。この歳の少女にこんな威圧感が出せるものなのか。
そんな事を考えている内に、僕は五人に包囲されていた。
開いたままだったドアは、誰が閉めたのか、いつの間にか閉ざされている。
逃げ場なし。
絶体絶命。
茶色の、蒼色の、金色の、紫色の、緑色の計5組にして10個の目に射すくめられる。
冷や汗が、じわりと滲む。
「私たちをあんな目に遭わせておいて、よくそんなお口がきけますわねぇ御父様?」
茶色の目の下にクマを作った長身の美少女に、上目遣いで睨めつけられる。
「全くもって白雪の言う通りだわ。お父様ったら、まさに厚顔無恥で自分勝手極まりないのね」
更に長身のモデル系金髪美少女が腕組みをして僕を罵る。
つい先ほどどこかの誰かに対して投げつけた言葉が、まさかこんなにも早く自分に返って来ようとは。
残念ながらこんな事態に興奮できる程、僕は紳士ではないので、見に覚えのないその罵倒にただただ困惑する。
「いや、ちょっと待って!本当に何も分からないんです!僕何か失礼なことしましたか!?人違いですよ絶対!!」
ドアに背をつける形で手をぶんぶんと振り、自らの無実を主張してみるが、どうやら効果は皆無らしい。
どころか、ますます火に油を注いでしまったようだ。
「自分のことを棚からぼたもちして、他人に非をこすりつけるなんて!見失ったぞパパのバカ!!」
壊滅的に日本語のおかしい、赤の絵描き帽の茶髪少女が目尻に涙を浮かべてぎゃいぎゃいとまくし立て、
「あんな…あんな酷い目に遭わせておいて、そんな、ひどい、です…うぅ…」
おかっぱ少女は目をうるうると潤ませて、穢れのない瞳で見つめてくる。
ああもう、どうしろって言うんだよ。泣きたいのはこっちだ。
五人が僕似の誰かに壮絶な恨みつらみを持っているのは、身に沁みて分かった。
が、この勘違いを正す方法が全く浮かばない。
僕が必死に弁解しても、炎にガソリンをぶち込んで山火事にすることにしかならないだろう。
なんだか、僕までつられて涙が出てきた。
その時だった。
出会い頭に僕をお父さん呼ばわりしてから、ずっと沈黙していたふわふわ金髪美少女が口を開いた。
「ねえ…もしかしたら本当に、私たちのことを忘れてしまってるのかもしれませんよ?」
ここにきて初めての助け舟に、僕は必死でしがみついた。
「そうなんです!本っ当に何も身に覚えがないんですよ!!」
涙目になって叫ぶ僕に、ふわふわ金髪さんはうんうんと頷く。
「ほら、こんなに必死なんですもの。もしかしたら赤の他人の可能性もありますし…。一旦落ち着いてお話ししませんか?」
そのほわほわとした、毒気を抜かれる笑顔に、四人がやっと僕から一歩引いた。
はああああ…死ぬかと思った…。