第8話 推理
佐々木響香には『声』の件について何かを知っている可能性がある。
音楽の授業中の一件で、俺はそのことをほとんど確信していた。ほとんど、というのは証拠がないということばかりではない。仮に佐々木が犯人だとしても、納得がいかないことが多すぎるのだ。
例えば、この件で最初に聞こえた声が佐々木のものだったこと。もし佐々木が引き起こすならば、まずは他の人を中心に引き起こさなければおかしい。そうすれば妙な疑いは持ち上がらないから、安心して俺たちにテレパシーを引き起こすことができるはずなのに。
もしこれが佐々木によって計画されたものだとしても、あの優等生がこんな疑いがかかるようなことにするはずがない。そもそも、どうして自分が引き起こしたことに対して臆病になる?
……やはり俺の考えすぎか?でも最初に『声』が聞こえたあの日、その直前に佐々木はまるで俺の心を読んだかのように声をかけてきた。
――あの……そこの筆箱の陰です
――あ、サンキュー、佐々木。……ん? 俺何も言っていないのに、メモリーカードだなんてよく気がついたな
今思い返せば、あれはまさに『心を読まれた』という表現が正しいだろう。しかし、まだあの時『声』の騒動はまだ始まっていなかった。あの時が最初だったというのも考えたが、そうすると佐々木はどうして何も言わなかったのか、という話だ。
どちらが正しいのか、証拠どころかちょっとした手ががりさえもつかんでいない。まったく、何を道しるべとすれば考えが進むのだろうか。
しかし、気になる奴は他にもいる。サクラのことだ。
この騒動の一日目とその次の月曜日、サクラは明らかにいつもと違っていた。ばれる、と言っていたから十中八九何か他の人には知られたくない秘密があるのだろう。それはこの『声』と関係があることなのだろうか。それとも違うことで悩んでいるのだろうか。
助けたい、とは思う。でも、どうしたらいいのかが分からない。良い方法が思い浮かばない。だから、簡単に行動ができない。
自分の非力さを突きつけられる。
このことは踏み込んでいけばいいのか、それとも二人が自分から話すのを待つべきなのか。
いくら考えても、答えが出ない。
とりあえず、雅史と相談して行動を決めるか。あと、先輩たちの意見も聞いておきたいな。まずは放課後に部室で気づいたことを話そう。
あ、……また『声』が聞こえたな。
相変わらず守は鋭いな、と話を聞きながら渡辺雅史は思う。
確かに佐々木がいつもよりもおとなしく、そして怯えている様子になった時とテレパシーが始まったのはほぼ同時だ。それだけならまあ当然ともいえるが、佐々木がみんなに励まされて元気を取り戻したことによって『声』の頻度が減ったこと。そして、音楽の授業で守が佐々木を疑うような発言をして以降、以前にも増して『声』が起こるようになったことを考えるとその推理はかなり信憑性がある。
流石は守だ。冷静で、観察眼が鋭く、頭が良い。
――しかし、このまま守に負けてはいられない。
今度こそ、この機会を逃さずに自分は『ほしい自分』を手に入れるのだから。
この状況に打ち勝つのは、俺なのだ。守ではなくて。