第7話 点火
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次の日になった。
いつも通り登校して授業を受けているのだが、少し違和感を覚える。いや、正確には前に戻ったような感じだ。そしてそれは、昼休みが始まってからの雅史の最初の一言でようやく気が付いた。
「なんかさ、前よりも『声』の頻度が減っているんじゃね?」
「あ、そういえばそうだな」
前は一日に最低でも六回くらいは起こっていたのだが、今日はまだ午前中の段階では俺には起こっていない。雅史は「俺には一回起こったんだけどな」と言っているが、それでもとても少ない。
昨日は、全員で団結したような感じがあった。それがおかげなのだろうか。結局俺たちは今まで、成果が上がるようなことはできていなかったけれども。
「まあ、いい傾向じゃないか」
俺はそう言って、弁当を広げた。
昼休みが終わり、午後の最初の授業は音楽だった。
芸術科目は各クラスで選択であり、数少ない他クラスとの合同の授業でもある。ちなみに俺たち二組は佐々木のいる三組と一緒だ。
「今日からはグループに分かれて、今から配るこの紙の歌詞にメロディを付けてもらいます。一グループは五人前後でつくって下さい。グループが決まった人たちは班長を決めて、前に紙を取りに来てください」
教師の話が終わり、生徒がそれぞれグループを作り始める。守は雅史のほか、軽音部の山崎陽太、サッカー部の和田俊也と一緒のグループになった。二人とも雅史と席が近いので、そのつながりで守とも春から仲がいい。
「うわ……メロディだってよ。どうする?」
雅史が他のメンバーに聞く。
それなら、と和田が最初に口を開いた。
「山崎に一任!ってことでよくね? なんたって、中学のころからずっと軽音部だし」
「ムリムリ。俺は楽譜にあるのを弾くことがほとんどで、そっちのほうは大抵ほかの人に任しちゃっているんだから。それにさりげなく俺に全て任せようとするんじゃない」
山崎は首を振って断る。勉強と部活の双方においてハイスペックなこいつが断るとは。意外だった。やはり、誰にでも苦手なものはあるということか。
「じゃあ、渡辺はどうだ?」
当てが外れたような顔のまま、和田は雅史に聞く。
「俺には期待するなよ。音楽とか小学校のころからずっと苦手なままだ」
「というか、和田も考えろよ」
山崎が和田に矛先を向けた。
「えー、俺はそういう発想するタイプのものは全般的にダメなんだが……」
和田はそう言う。これじゃあ、話が進まない。
「じゃあ、山崎はアドバイスとかくれよ。どういうのが音楽っぽくなるとか。それをもとに部分部分をみんな一つずつ考えて、それをつなぎ合わせればいいんじゃないか? まあ、ちぐはぐになりそうだったらその部分は後から考えればいいし。この内容に今学期の授業のほとんどを使うみたいだから時間はあるだろ」
俺がそう提案すると「それ名案だな!」と和田が言い、他の二人も「それがいいだろうな」と言ってくれた。みんなが騒がしく話し始める中、俺はふと、音楽の授業が佐々木のクラスと合同であることを思い出した。
佐々木の様子が気になった俺は、顔を上げて音楽室を見渡す。少し離れたところに佐々木を見つけた。いつも通り、親友の林理恵を含めた何人かの女子と話している。相変わらずのおとなしい話し方をしているようだ。それでも、前の落ち込んでいた様子から少し元に戻ったようで安心する。すると、盛り上がったテンションのまま、すでに別の話に脱線している山崎と和田から雅史が離れてこちらに顔を向け、話し始める。
「なあ、前よりも佐々木元気になったよな。一時期ちょっと落ち込んでいるみたいだったけど」
「前よりというか昨日より、だな。……ん? そういえば『声』の件が始まったのも佐々木が動揺した時だったような……」
俺がふとそうつぶやくと、強い視線を感じた。振り向く。
そこには怯えたような表情の佐々木がいた。