第6話 団結
「サクラ?」
全員が一斉にサクラのほうを振り向く。
サクラの表情がうまく読めない。それは困惑しているのか。恐れを抱いているのか。絶望か。救いを求めているのか。思いつくそれらのどれも合っているように思えるし、間違っているように思える。
「い、いや……この状況にまだちょっと慣れなくて」
少し焦ったように、サクラはそう言う。しかし、サクラが動揺しているのは明らかだった。俺は少し迷う。
ここは踏み込んで聞くべきか。それとも、そっとしておくべきか。
「サクラ……何かあったら、言って」
誰よりも先に動いたのは、驚くことに佐々木だった。いつも通り静かな感じではあるが、いつもよりもはっきりとした口調だった。
「何でもないよ」
逆にいつもよりも落とした声で、サクラはそう言って逃げてしまう。だが、一人で何かを抱えているのは明白だった。一言だけ、言っておこう。
「サクラ、無理するなよ」
「無理、って」
サクラはすぐに、俺の言葉に反論するように言いかけるが、
「それだけは言っておくぞ」と、俺は話を打ち切った。
「うん……。守、ありがとう……」
サクラが顔を少しうつむかせたまま言う。いつもの元気な感じと違う、おしとやかな雰囲気になったその姿に俺はまた違った魅力を感じさせられて、俺は少し顔を赤くした。
「そーそー、俺たち全員で解決しようぜ」
「いつでも、何でも言ってね」
「俺たち全員の問題なんだからさ」
雅史と先輩二人が続いてくれた。それだけで暗くなっていた部屋の空気が少し、明るくなる。みんな、本当に前向きだ。そのことが今、とても頼もしく思えた。
”ごめんね。元気出して、サクラ……”
佐々木の『声』が聞こえた。
「響香が気にすることじゃないって。原因でもないんだしさ」
サクラが少し無理矢理な感じがしながらも明るくそう言うと、佐々木の顔がうつむいてしまった。気にしすぎているのかな、と思ったところで部室の扉が開く。姿を見せたのは中年の男性。新聞部顧問の社会科教師、橋下康輔である。
橋下先生はいつもの明るい調子で言う。
「お、集まっているな。締め切りが近いから寄ってみたんだが、どのくらいできた?」
「「「「「あっ」」」」」
こっちの問題にかかりきりですっかり忘れていた。
「おいおい。中間テストもある以上、そこまで時間はないんだぞ? ちゃんと文化祭に間に合うよう、期限までに提出してくれ。印刷物の配布には、生徒会の印も必要なんだからな」
「「「「「はいっ!」」」」」
この後、締め切りが迫っている新聞製作に全力を尽くしたが、佐々木が『何か』に怯えている様子は変わらなかった。