第4話 始まり
佐々木の声が耳から入ったのではなく、頭の中に響いたような気がした俺は周りを見る。
「ねえ、今……」
「聞こえたよな、確かに」
どうやら俺の気のせいではないらしい。その証拠に、他のメンバーが顔を見合わせている。
“テレパシー……と言えばいいのか?”
「「まただ!」」
俺とサクラが叫ぶ。今の声は間違いなく中村先輩のものだった。
「えっ、また何か聞こえた?」と原田先輩が尋ねてくる。どうしたのだろうか。まさか。
「原田先輩は中村先輩の『声』、聞こえなかったんですか?」
「ええ。何も」
「俺も聞こえなかった」と雅史も言う。どうやら全員に聞こえるわけではないらしい。
“ど、どういうこと!?”
「また!」
今度はサクラの声だ。さっきから突然聞こえるようになった、頭に響く声に俺たちは戸惑い続ける。
「いや、ちょっとまて……全員落ち着こう」と中村先輩が呼びかける。こんな状況なのに冷静とは、さすがだ。
「この状況はえっと……そうだな。簡単に言えば、俺たちの間で勝手にテレパシーがなされているということか」
しかし、普段から冷静な中村先輩でさえ、少し動揺しているのが見受けられる。この異常事態の中、率先して行動しようとすることだけでせいいっぱいのようだ。
「はっはい……。そう、ですね……」
そう答える佐々木は怯えているように見えた。顔色も少し悪いし。
最も、全員不安そうな顔を浮かべているが。特に一年生は。俺も自分で冷静なつもりではあるのだが、傍から見たら動揺した表情をしているのだろう。
“そんな……。普段隠している気持ちがばれるってこと……”
「サクラ?」
全員に振り向かれたサクラがはっとした表情になる。普段では見たことがない顔だった。
雅史が口を開く。
「隠している気持ちって……「すみません。ちょっと、体調が悪いのでっ」あっ」
サクラは荷物をつかむと、止める間もなく部室を出て行ってしまった。
「サクラ……」
俺は呆然としながらつぶやく。
「どうしたんだ……あいつ」
雅史も開いたままの部室の扉を見ながら言う。
「なんというか、思い詰めたような顔だったよな」
サクラは明るく快活な少女という認識だった。そういう認識でしかなかった。
しかしそれは間違っているのかもしれない。誰でも他人の知らない、知られたくない一面がある。
どうするべきか。全員の視線が、自然と部長に集められる。
「今日は……解散にするか」
部長のその一言で、各自帰路についた。
別れるとき、佐々木がいつも以上に塞ぎ込んでいたことがサクラの件と併せて気になった。