第3話 きっかけ
事の始まりはこうだった。
俺たち新聞部は、来る文化祭に向けて『文化祭特集号』を企画し、制作に励んでいた。そんな中、先週の水曜日……
(あれ、デジカメのメモリーカードがない……?)
取材もある程度終えたので、俺は一回情報を整理するためにパソコンと向かい合っていた。するとデジカメの中にメモリーカードがないことに気がついた。
俺は焦る。
(どこだ……あれがないと写真が一枚もない新聞になってしまう……! せっかくの『文化祭特集号』が……)
これから急いでもう一度写真を撮りに走って回ろうか。そう思ったその時、
「あの……そこの筆箱の陰です」
「あ、サンキュー、佐々木」
佐々木が見つけてくれた。俺は佐々木に礼を言うと、メモリーカードをパソコンに差し込む。よかった。これで準備完了……?
「ん? 俺何も言っていないのに、メモリーカードだなんてよく気がついたな」
「い、いえ! その……何か困っているようだったので!」
佐々木は必要以上に慌てながら、机の上に広げられた資料に目を移す。相変わらず、人と話すことに慣れていないというか。佐々木はよく、ちょっとしたことで動揺するんだよな。友達はそこそこいるんだから人が全く苦手というわけではないんだし、もう少し自分からいろいろ話すようになれば改善するんだろうけど。
「しかし、ほんとに佐々木は人のことをよく見ているよな」
そう言ったのは、部長の中村友紀先輩だ。たしかに先輩の言う通り、佐々木は普段から結構洞察力が優れていたりする。
「いえいえ、そんなことは――――」
「そんな謙遜しなくてもいいのに。おかげで助かった」
俺がそう言うと佐々木はしゅん、となってしまった。なんで?
最も、少しほっとしているようでもあるが。
廊下から話し声が聞こえ、それが近づいて来ているのが感じられた。他のメンバーが取材から帰ってきた。よかった。おかげで少し気まずい空気が霧散してくれた。
「やれやれ、陸上部のあの人には困ったよ」
部室に入るなり、ため息とともに原田先輩が言う。
「どうしたんですか?」
「ほら、夏の大会の長距離で全国大会行った二年生がいたでしょ? あの人が神出鬼没って感じでさ」
そういえば、クラスの陸上部のやつが話していた気がするな。
「探すのに手間取っちゃって。学校の周りを走っていたんだけど」と雅史が続く。
「陸上部の人が『この道を通ることが多いから』って教えてくれたんだけど、今日に限ってコースを変えていたみたいでさ……。手分けして探して、走って追いかけて、少し立ち止まったときにようやく捕まえてインタビューできた。アポは取っておいたはずなんだけどな」
サクラもため息をつきながら言う。なかなか大変だったようだ。
と、その時、
”よかった……大丈夫だよね…………”
何者かの『声』が聞こえた。
「「「「「えっ」」」」」