第2話 いつもの朝ではなくて
「”守、おっはよー”」
家を出て、学校まで歩いている途中で後ろから、そして頭の中に『声』がかけられた。
「おう、サクラ。おはよう」
俺も後ろの少女に返す。
朝から元気に声をかけてくるコイツが桜木彩だ。俺たちの所属している新聞部では通称、サクラ。性格が明るく快活な上、外観もスレンダーで顔も整っているので男子の人気が結構ある。
「つーか、例の『声』と実際の声と両方聞こえる感覚って変な感じだな……」
「そう? わたしは結構慣れたけど」
「早すぎるだろっ」
「守は気にしすぎだって」
恐ろしいほどの適応能力だ。
俺がサクラの様子に驚いていると、後ろから「……おはよう」と小さな、おとなしい声をかけられた。
「あ、響香。おはよー」
サクラは振り向くと、後ろから自転車を引いて歩いてきた女の子、佐々木響香に声をかける。
佐々木は黒髪ロングヘアーで背が低い。物静かな印象を受ける女の子で、見た目通りおとなしい性格である。さらに真面目で成績優秀、図書委員もやっているのでいかにも文系女子って感じだ。
「佐々木、おはよう」
”佐々木はなんて言うか、ペットにしたい感じなんだよな。身長も低いし”
「えっ」「うわっ」
やばい。本人が目の前という、悪いタイミングで『声』が伝わってしまった。佐々木は顔を真っ赤にしているし。そしてサクラは……。
「あんたは響香に何考えてるのよー!」
俺の顔をカバンで打ちのめしていた……。
「ははは。そりゃあ災難だったな」
「笑えるレベルじゃあなかったんだぞっ」
俺が教室に着いたあと。顔の痛みを引きずったまま先ほどあったことを話すと、目の前のこの男に笑われてしまった。
俺の不幸を笑うこいつは渡辺雅史。普段はお調子者っぽくても、よく気が利くいいやつでもあるのだが。
ちなみに、朝の二人とこいつと俺がこの高校の新聞部一年生メンバーだ。
「ったく。朝からひどい目にあった」
「そんなこと言って。あんたが変なこと考えるのが悪いの。響香がペットとか」
いつの間にか、別のクラスであるサクラがいた。移動教室の途中か。
「いやあ、男なら誰でもそう思うもんだって。保護欲をかき立てられるものにはさ」
「思うなっ。響香から保護欲をかき立てられるという点に関してだけは同意だけど」
「その点は同意するのかよ」
雅史は笑いながら俺たちの話につっこみを入れた後、少しだけ真面目な顔になって言う。
「しかしなぁ、まだ終わらないのかな。先週の水曜日から今日で六日目だぞ? まさか、永遠に続くなんてことないよな?」
そう、雅史の言う通りなのである。