第1話 不思議の始まり
試しに改訂版を1話だけ投稿します
ある田舎の高校。瀬川守は「普通」の日常を送っていたはずだった。
あの『声』が聞こえるまでは――――
「んっと……」
ある日の朝、窓からさす光で俺は目が覚める。
まだ完全には覚醒していない体を動かし時計を見ると、針は6時36分を指していた。いつもの起床時刻より少しだけ早いな、と思いながら俺は起き上がる。
俺が身支度を調えて朝食に向かうと、すでに他の三人が食卓にいた。
「おはよう。今日は早いんだな」
「おはよ」と返事をしたのは俺の弟、航である。四つ年下、つまり小六だ。航は急いでお茶を飲み干すと、「ごちそうさま。いってきまーす」と駆けだしていく。
航が扉から出て行く前に「口元にご飯粒ついているぞ」と俺が忠告すると、航は口を手でぬぐって慌てたように家を出て行った。そういえば昨日、運動会のリレーの練習を朝からやる、みたいなことを言ってたっけ。それにしても七時前では早すぎると思うが。これはあいつ、部屋の目覚まし時計を間違って調整したな。目元はまだ眠たそうなままだし。
母親の「たまにはあんたもあのくらい早起きすればいいのに」なんて声に生返事をしつつ、俺は椅子に座って味噌汁を口に運ぶ。それは無理な話だと思う。第一今よりも早く起きたら、朝食の準備が大変なるのはこの母親だ。航が早起きになっているのは、一時的なものだし。
それを分かっているのか、と毒づいていると頭の中で声が響いたので顔をしかめる。両親にどうした、といった表情をされた俺は小さく笑ってごまかしつつ、朝食を食べ始めた。
キッチンでは母親が俺の弁当をつくっている。父親は食卓の椅子の上で新聞を広げている。俺の両親は、いつも通りだった。
俺は瀬川守。十六歳の高校一年生。家族構成は両親と俺、そして航の四人。どこにでもいそうな核家族なわけで、今日も一般家庭の朝の光景が展開されている。
……ように表面上は見える。
しかし、俺は違った。
朝、確かに『声』が頭の中で響いていたのだ。
周りの人から見たら何も変わりない、普通の高校生のように見えるけれども。どこにでもある家庭の、どこにでもいる高校生に見えるけれども。
――――でも。
少なくとも今はそうではなくなってしまった。
この『声』が聞こえるようになってから……。